VMware、Microsoft、KADOKAWA、三菱UFJ銀行など多くの企業でのキャリアを経て、現在iU 情報経営イノベーション専門職大学で准教授を務めている各務茂雄氏。豊富な経験の中で数多くの企業を見てきた同氏は、働き方やインフラ、セキュリティなどが優れているものを「令和型」と呼んでいる。そしてスマートワークの実現のためには、令和型に移行し、可処分時間を創出することが必須になると言う。1月22日~25日に開催された「TECH+働きがい改革 EXPO 2024 Jan. 働きがいのある企業になるために今すべきこと」に各務氏が登壇。働き方を令和型に変え、スマートワークを実現するにはどのような考え方が必要になるのかを説明した。
「TECH+働きがい改革 EXPO 2024 Jan. 働きがいのある企業になるために今すべきこと」その他の講演レポートはこちら
スマートワークとは適切な公私混同
講演冒頭で各務氏は、スマートワークを実現するにあたって必要なことを挙げた。まず大事なのが、従業員の多様性に合わせて働く選択肢を可能な限り選べるようにしておくこと、そして上司からの提案に対して意見を自由に言える環境であることだ。働く相手としては社内だけではなく顧客やビジネスパートナーなど、バリューチェーン全体を考え、無理な約束をしないことも重要だ。さらに、アウトプットの手段とコミュニケーションのルールも定めておく。これらのことが揃って初めて、「スマートワークが可能になる」と各務氏は述べた。
同氏は「スマートワークとは適切な公私混同」だと言う。何らかの役割を果たしている時間という意味で、会社などの仕事の時間のほか家族や友人との時間までが「公」、それ以外の自分一人の時間が「私」にあたるが、これらのバランスをどうとるかが重要なのだと話す。スマートワークでは会社の時間以外にも仕事が入り込む、言わば公私混同の状態になることがあり得るが、「私」の時間もしっかり確保できるようにすることを考える必要があるそうだ。
平成型と令和型の違い
各務氏は働き方のスタイルを令和型、平成型、昭和型と分類している。自身の豊富なキャリアの中で、良い働き方だと感じたものを令和型とし、その少し前を平成型、2000年以前を昭和型と呼んでいる。令和型と平成型を比べると、端末、ネットワーク、コミュニケーションツールなど多くの面で違いがあるという。
例えば、端末なら使いやすさよりコストが重視されるのが平成型だ。これに対し令和型では、自分が使いたいベストに近いデバイスを使えるため生産性を高められる。ネットワークについては、セキュリティの境界線がネットワークになっており、VPNで守るためマルウエアのリスクが高いのが平成型だ。これに対し、可能な限りフラットなネットワークを使い、認可、認証の設計がしっかりしているのが令和型である。
コミュニケーションツールは、メールや社内ポータルを使うのが平成型だ。メールはデータを検索するのに手間がかかるし、社内ポータルも双方向ではないので、コミュニケーション、コラボレーションが活性化しにくいというデメリットがある。令和型ではこれらが、テーマごとにチャンネルをつくれるため情報を検索しやすいチャット、そしてデータオーナーが責任を持って管理できるWikiになると各務氏は説明した。
令和型を実現できない壁とは
令和型には多くのメリットがあるのに、なぜ実現できない企業があるのか。それにはいくつかの問題があると同氏は言う。その中でも重要なのが、情報システム部が従業員を顧客として定義していないというマインドの問題だ。情報システム部にとって顧客は従業員であるのに、その顧客を満足させるものをつくることができていないのだ。一方従業員については、最新の技術を学んでいないという問題もあるし、従業員をコストと考える経営陣がいる場合もある。
「従業員は会社の経営資源であり投資すべき対象であるのに、これをコストと考える経営陣がいる限り令和型は実現できません」(各務氏)
セキュリティチームがとりあえず安全側に振っておけば良いと考えることも問題だ。リテラシーの高くない人にセキュリティのレベルを合わせることは必要だが、面倒だからといって全てをそのレベルにしてはいけない。生産性の高い社員はイノベーションの牽引者となるのだから、その生産性をさらに高まるようにしておけば、リテラシーの低い人も引っ張っていくことができる。さらに、複雑になってしまった社内のITを紐解こうとしないCIOも問題だと各務氏は警鐘を鳴らす。本来、縦割りの仕組みに横串を刺すのがCIOの仕事のはずだが、CIOが上司の延長になっている場合はテコ入れするのが難しくなってしまうのだ。