NTTデータ 代表取締役社長の佐々木裕氏は1月26日、報道各社による合同取材で「生成AIへの投資を加速させる。2023年からさまざまな業界と100件以上の共創PoC(概念実証)を実施している。今後2~3年で生成AI事業の負け組、勝ち組が決まるはずだ」と説明し、「国内事業の成長に向け、2025年度までにM&A(合併・買収)に約1000億円投資する」との方針を明らかにした。

  • NTTデータ 代表取締役社長 佐々木裕氏(1月26日、東京都港区)

    NTTデータ 代表取締役社長 佐々木裕氏(1月26日、東京都港区)

3つの戦略の柱で生成AIビジネスを加速

NTTデータは3つの戦略の柱「Co-Creation with Client(顧客との共創)」「GenAI Ecosystem(生成AIのエコシステム)」「Client's Own LLM(顧客自身のLLM構築)」で生成AI事業を加速させていくという。

  • NTTデータ 生成AIに関する3つの戦略の柱

    NTTデータ 生成AIに関する3つの戦略の柱

顧客との共創、PoCは100件以上

まずは、生成AIを活用した顧客との共創PoCを加速させていく。行政には文書稟議、金融業界には融資業務、小売業界には商品広告作成といったように、さまざまな業務を生成AIで効率化する構想を描く。

同社はすでに共創PoCをグローバルで100件以上実施している。「多くのプレイヤーが生成AIビジネスに参入しており、彼らとともに工夫を凝らしながら共創している」(佐々木社長)とのこと。

  • 共創PoCをグローバルで100件以上実施

    共創PoCをグローバルで100件以上実施

具体的な例として、保険業界における「デジタル従業員(生成AI)」のPoCが紹介された。保険業界はあらゆる業務に高度なスキルと専門知識を要するため、社員1人あたりの業務量に対し、時代の変革やスキル醸成スピードが追いつかないのが現状だ。

そこでNTTデータは、IBMと手を組み、同社の生成AI「IBM watsonx Orchestrate」をプラットフォームとして利用し、保険業界向けのデジタル従業員を構築した。このデジタル従業員には保険業務のスキルが組み込まれており、見込み顧客リスト作成から、商品の選定、メールの自動作成、そして営業報告レポートまで、一気通貫な業務サポートを可能にしているという。

「業務を横断した複数タスクを自動化することにより、高度な支援を実現している。かゆい所に手が届く、同僚のような存在にしていく」(佐々木社長)

  • デジタル従業員(生成AI)の構想

    デジタル従業員(生成AI)の構想

最適な組み合わせで生成AIを提供

また、最適な組み合わせで生成AIを顧客に提供するエコシステムも構築していく。

AIチャットボットや、企業内文書の読解や回答、先に述べたデジタル従業員といった生成AIソリューションに加えて、生成AIに関する多種多様なコンサルティングサービスも展開する。

「特にAIガバナンスが注目を集めている。AIによる著作権侵害やプライバシー侵害のリスクを管理し、信頼性の高い生成AIを構築することが求められる」(佐々木社長)

  • 生成AIのエコシステム概要図

    生成AIのエコシステム概要図

また、最適な組み合わせを実現するために、NTTグループが提供する「tsuzumi」だけでなく、マイクロソフトの「Azure OpenAI」、AWSの「Bedrock」、Google Cloudの「PaLM2」、そしてIBMの「watsonx Orchestrate」といった競合他社の大規模言語モデル(LLM)もエコシステムに組み込む。

例えば、NTTデータは同日、X(旧Twitter)データを活用した発見型トレンド予測のサービス「トレンドエクスプローラー」を発表したが、同サービスは、PaLM2を活用したもの。また、先に述べたデジタル従業員のPoCでは、IBMのwatsonxを活用している。

  • X(旧Twitter)データを活用した発見型トレンド予測のサービス「トレンドエクスプローラー」

    X(旧Twitter)データを活用した発見型トレンド予測のサービス「トレンドエクスプローラー」

佐々木社長は「tsuzumiの活用も積極的に推進するが、顧客に適合したものを選定することを優先する」と、同社が掲げるエコシステムのあり方を説明した。

機密性の高い環境で独自LLMの構築を

NTTデータは、顧客との共創、生成AIエコシステムの構築に加えて、顧客企業が独自のLLMを導入できる支援にも注力していく。

同社は1月26日、tsuzumiと連携した生成AIを活用した文章検索・回答生成システム「LITRON Generative Assistant」を2024年4月から提供開始すると発表した。

同サービスの一番の特徴は、機密性の高い環境に独自のLLMを導入できることだ。顧客企業の閉域環境に専用の生成AIの活用システムを構築することができ、会社の重要情報の流出を懸念する必要はないとしている。

  • 「LITRON Generative Assistant」サービスの特徴

    「LITRON Generative Assistant」サービスの特徴

「ChatGPTは、ドキュメントの叩き台や英訳として使用するニーズは非常に高いが、セキュアなデータを読み込ませたくないといった企業も多い。閉域で安全に使える生成AIと併用していくのが将来の姿になるはずだ」(佐々木社長)

国内のM&Aを推進、2025年までに1000億円を投資

さらに、佐々木社長は、国内事業の成長の手段として積極的にM&Aを展開していく意向も明らかにした。国内向けのM&A投資額は2019年度から2022年度まで4年間の累計が約122億円だったが、2023年度から2025年度までの3年間では約1000億円を投じる方針。

生成AIに強い企業やコンサルティング会社、システム開発会社など幅広い買収対象を想定しているという。

  • NTTデータ 出資関連キャッシュアウト経年推移(国内)

    NTTデータ 出資関連キャッシュアウト経年推移(国内)

佐々木社長は、「『NTTデータグループは、海外のM&Aに積極的だ』という印象を持っている人は多いと思うが、国内のM&Aもしっかり推進していく。提言から実装、成果創出まで一気通貫でサポートし、社会システム変革をリードしていくために、M&Aの活用は欠かせない。即戦力になる人材の獲得にもつなげていく」と、展望を示した。