【〈記者座談会〉2024年のEC市場予測】《③ 法規制》ステマ規制対応に追われるEC事業者

<ステマ規制でUGCの価値観に変化>

星野:2023年は「ステマ規制」が始まった。

永井:「ステマ規制」は、簡単に言うと、事業者が、インフルエンサーやアフィリエイターなどの第三者に依頼して行う広告で、その広告を見る人にとって「広告である」と分かりづらいものを規制の対象にするものだ。

対応としては、インフルエンサーにPRを依頼する際、そのPRの表示の中に、「広告」や「PR」という文字を、分かりやすい形で明記することがある。アフィリエイトサイトであっても同様の対応が必要になってくる。

黒田:私の取材先も対応に追われるケースが多い。消費者目線で言うと、私も、インスタグラムなどで投稿を見て商品買うことがある。

これまで、インフルエンサーの投稿を見て、「なるほど、この人はこのブランドをよく買っているんだな」と思っていたことがあった。ただ、今回のステマ規制が始まってから、「PR」や「これは広告です」といったことを書くようになったのを見て、「この人は、今まで広告としてやっていたんだな」と思うようになった。ブランドに対してちょっとモヤモヤを感じるようになった。

永井:逆に、SNSで、「PR」表記のない投稿が拡散されているのを見ると、オーガニックの感想であることが分かる。消費者からは、「信頼ができる」という声も上がっている。今後は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の価値が変化していくと考えている。

星野:商品ページのレビューについても、ステマ規制が関係してくる。例えば、楽天市場などの商品ページで、レビュー件数を基に購入を検討する人も多い。このレビューを依頼する行為が、レビュー内容を指示していた場合、ステマ規制に該当する可能性がある。

ステマ規制に違反した場合、社名が公表される可能性がある。多数の購入客に対して、「こういう内容の投稿をお願いします」というレビュー依頼をしていると、アウトになる可能性がある。

佐藤:商品を購入する際、「誰を信じて買うか」というのが消費者にとって重要だと思う。商品に対して忖度(そんたく)のないコメントをしている人を信じたいが、PRでお金が発生していると、みんながっかりしてしまうと思う。今後は、口コミをどうやって発生させていくか、そして消費者が誰を信じて買うかが重要だと考えている。

黒田:PRではなく、消費者が「本当にいい」と思って投稿して、それがUGCとして拡散されるようになると、確かにUGCの価値観が変わってきそうだと思う。

星野:やはり製品力やサービス内容が問われていくと思う。商品を購入して本当に満足したら、「レビュー書いてください」と言うだけで、いいレビューを書いてくれるかもしれない。

【記者が考える2024年のキーワード】

▲黒田海椰記者

「海外販売に挑戦を」 ベトナムでライブコマースで商品が売れているなど確かな販売実績も出ている。今こそ海外販売に挑戦するべき。

<取引データの保存が税申告に影響>

星野:2024年1月に、改正電子帳簿保存法が本格運用されると話題になっている。EC事業者には関係ありそうか?

上山:あるバックオフィスツールの企業に取材すると、BtoB‐EC事業者が対応する際に苦戦する可能性があるようだ。インボイスに対応済みだったとしても、電子帳簿保存法の要件を満たして対応していないというケースは、意外と多そうだ。

星野:例えば、EC企業がフリーランスの人材に業務を委託している場合、電子帳簿保存法に対応しなければいけないのか?

上山:そのケースはもちろん、通販会社の側でも対応が必須になる。オンライン上で受け取った請求書を、法律の要件を満たす形の電子データとして保存する必要がある。対応が漏れると、青色申告の取り消しなど、税申告で不利になりうる。さらに、改ざん・申告漏れと認定された場合、重加算税の罰則を受ける恐れもあると聞いた。

小規模事業者の場合特に、電子帳簿保存法への対応で、事務の手間が大幅に増えると思う。例えば、商品の仕入れ時に、膨大な量の書類をPDF化する際など、業務管理ソフトを使用せずに手作業で保存するのは、人的コストが増すだろう。人手が限られる中小事業者の方が、負担が増える可能性が高いだろう。

人的コストや、確実に要件を満たして保存することを踏まえれば、インボイス・電子帳簿保存法に対応する業務管理ソフトを導入することが、結果的には最善手だと思う。

<2025年3月までにEMV3‐DS導入義務化>

星野:最後に「EMV3‐DSの導入義務化」については話したい。EMV3‐DSとは、消費者がECサイトでクレジットカード決済を行う際、本人確認を行うセキュリティー認証のことだ。

EC市場では、クレジットカード決済の比率がかなり高い。ただ、クレジットカードの不正利用被害が、毎年かなりの勢いで増えている。現在、年間400億円以上のクレジットカードの被害が発生していると言われている。

そこで、怪しいユーザーがECサイトで決済しようとしたら、ワンタイムパスワードを表示させるのがEMV3‐DSという機能だ。表示した写真の中から特定の写真を選ばせるものや、本人の電話番号にショートメッセージを送って認証させるものだ。

このEMV3‐DSを、原則全てのECサイトに導入するという規制を、経済産業省は2023年2月に発表した。2025年の3月までにすべてのECサイトの導入を目指すという。この導入の義務化については、決済代行会社が管理するということになっている。

永井:EC事業者の導入は進んでいるのか?

星野:このEMV3‐DSの導入が全く進んでいないという情報がある。ワンタイムパスワードを表示すると、カゴ落ちの可能性がかなり高まるため、EC事業者が導入に二の足を踏んでいるという状況があるようだ。

ECサイトで商品を買おうとしたのに、決済画面に進んだら、謎のパスワードが表示され、離脱してしまったという消費者が多いからだろう。EC事業者としては、売り上げを減らしたくないから、そういったかご落ちが発生するシステムは、できれば導入したくないはずだ。

導入の義務化は、2025年のため、喫緊の課題というわけではないが、ゆくゆくは対応が求められることになるだろう。

【記者が考える2024年のキーワード】

▲上山絋基記者

「自社ECの越境化」 自社ECで外国語・外貨決済などに対応し、海外需要を捉えられるかが鍵になると予想する。