JAXA認定の宇宙ベンチャーである天地人は、2023年4月、水道事業体(自治体等)向けに、宇宙ビッグデータを活用した水道管の漏水リスク管理業務システム「天地人コンパス 宇宙水道局」(以下、宇宙水道局)の提供を開始した。以下、宇宙水道局はどのようなものか、紹介しよう。

「宇宙水道局」とは

「宇宙水道局」は、水道事業体から水道管の管路情報や漏水履歴を取得。これに同社が衛星から取得したデータ、さらにはオープンデータ、国勢調査のデータなどを加え、これらをAIで解析して漏水が発生する可能性の高い地域を割り出す。

水道事業体はこの情報を基に、漏水が発生する可能性が高い地域を集中的に漏水調査・修繕することで有収率を向上できる。また、「宇宙水道局」は水道管路情報の表示や地図機能・印刷機能など、基本的なGIS機能も備えている。

  • 「宇宙水道局」の漏水リスクマップ。リスクの高低差を5段階に分け、赤色は漏水リスクの最も高い場所を指す(出典:天地人)

    「宇宙水道局」の漏水リスクマップ。リスクの高低差を5段階に分け、赤色は漏水リスクの最も高い場所を指す(出典:天地人)

水道管の漏水検査における課題

水道管の漏水検査にはさまざまな方法があるが、電子式漏水発見器などを利用し、徒歩で漏水検査を行っている。水道事業体によっては、すべての調査を終えるのに、10年ほどかかるところもある。

  • 電子式漏水発見器による漏水調査(左)。右は電子式漏水発見器(出典:東京都)

    電子式漏水発見器による漏水調査(左)。右は電子式漏水発見器(出典:東京都)

事業開発 GISコンサルタントの白坂滋行氏は、水道管の漏水が社会問題になっている背景について、次のように説明した。

「以下は水道事業体さんに聞いた話になりますが、水道管の法定耐用年数は、だいたい40年と言われています。日本の水道事業体が持っている水道管のうち、22~23%ぐらいが法定耐用年数を超え始めているといわれています。水道管を交換すればいいと思われるかもしれませんが、水道事業体も交換する財源を確保するのが難しいため、毎年9%ぐらいしか更新できていません。単純計算で10数%ぐらい交換できない水道管が増えていくことになります。これから5年~10年というスパンで見ていくと、さらにその傾向が顕著になっていく可能性があります」

  • 天地人 事業開発 GISコンサルタント 白坂滋行氏

    天地人 事業開発 GISコンサルタント 白坂滋行氏

そのため、水道事業体には、より効率的な漏水調査が求められているわけだ。

事業開発の相原悠平氏によれば、漏水にもさまざま現象や要因があるという。

「漏水といっても、水道管が腐食して穴が開くこともありますし、破損することもあります。接続部分が漏れを起こすこともあります。それらを引き起こす要因もさまざまで、まず、水道管が古い、水道管の素材が腐食しやすいなどの水道管の特性が関与することがあります。それ以外にも、水道管の埋設環境として土壌の性質が関係していたり、外部環境として暑い、寒い、地震による揺れの影響が大きかったりといった原因があります。多くの場合は単一の原因ではなく、さまざまな要因が複合的に作用して発生しています」(相原氏)

  • 天地人 事業開発 相原悠平氏

    天地人 事業開発 相原悠平氏

水道検査に衛星データを活用するメリット

同社では、衛星データとして、地表面温度と地盤変動データを活用している。

一つ目の地表面温度では、水道管の高温リスク、凍結リスク、あるいは寒暖差による劣化を分析する。衛星を利用した地表面温度は、気温よりもダイレクトに地表の温度を検出できるのがメリットで、例えば夏場40度の気温だった場所でも、地表面温度は50度を超えることがあるという。

白坂氏は、地球温暖化が地面の中の水道管に高い熱を与え、水道管の劣化を早めていると感じているそうだ。

「地表面温度が高温すぎると、水道管の劣化につながることがわかってきています」(白坂氏)

もう一つの地盤変動は、人工衛星からマイクロ波を送信して、受信した波を解析することで、微妙な地表の動きを解析可能だという。

「このデータによって地盤が沈下しているのか、あるいは逆に隆起しているのかといった変動を観測でき、それによって水道管に与える外的なストレスを分析することで、漏水リスク評価に生かしています」(相原氏)

「宇宙水道局」においては、各種データから漏水リスクを算出するアルゴリズムが重要だという。同社ではアルゴリズムの作成に向け、水道事業体に長く勤めている人の経験を聞き、アルゴリズムに置き換えていった。また、水道管の劣化や腐食、あるいは漏水するメカニズムに関わる論文もレビューした。