総務省が2018年に公開した「2030年代に実現したい未来の姿と実現に向けた工程イメージ」では、「お節介ロボット」が登場すると予測されている。

「お節介ロボット」は、目覚め・歯磨き・着替え・朝食などの忙しい朝支度をスムーズに準備させてくれるお節介な手伝いロボットと定義されている。将来、ロボットも家族の一員となり、人間とロボットが会話や生活サポートを通じ共生する世界がやってくるという。

「カチャカ」は「お節介ロボット」が遠くない未来に実現することを感じさせてくれる。そこで今回、Preferred Robotics エンジニア 日台健一氏、ビジネス開発 礒部芳朗氏に話を聞いた。

  • 左から、Preferred Robotics ビジネス開発 礒部芳朗氏、エンジニア 日台健一氏

AIをはじめとした最先端のテクノロジーを搭載

人の指示で家具の自動運転を行う家庭用自律移動ロボット「カチャカ」は、専用家具「カチャカシェルフ」を乗せて、家の中を動き回る。「カチャカ」は、複数のセンサー、カメラ、LED、ドッキングユニットを搭載している。

  • 左から、専用家具「カチャカシェルフ」、家庭用自律移動ロボット「カチャカ」

「カチャカ」はカメラ、LiDAR、車輪から取得した情報から自己位置を推定して地図を作成して、その地図を基に家具を運ぶ。Preferred Roboticsの親会社であるPreferred NetworksがAIの研究開発を主事業としていることから、「カチャカ」にもその技術が存分に生かされている。

深層学習を活用してピクセル単位で障害物を特定することで、床面の障害物にぶつからずスムーズに移動することができるほか、深層学習を用いた画像認識技術により、カメラから取得した画像から人や家具を区別する。

また、指示を出す声を正確に聞き分けられるよう、独自の機械学習モデルをハイパーパラメーター自動最適化フレームワーク「Optuna」で最適化し、軽量かつ高精度な音声認識を実現している。

  • 「カチャカ」が搭載している技術

「現実世界を計算可能にして、社会に役立せたい」

倉庫の物流業務を行うロボット、清掃ロボット、警備ロボットなど、業務を支援するロボットの活用は進んでいるが、家庭用の運搬ロボットはまだ市場が確立されていない。

日台氏は、「親会社の代表である西川は、計算で閉じることなく、実世界に出ていくことにこだわっています。そして、『現実世界を計算可能にして、社会に役立せたい』と考えています」と、同社が掲げるミッションを語った。

  • 「現実世界を計算可能にして、社会に役立せたい」と会社のミッションを語る日台氏

こうしたミッションを具現化したものが「カチャカ」というわけだ。2018年にITと家電の展示会「CEATEC」に、「お片付けロボット」として出展して好評だったことから、製品化の取り組みが始まったという。

家庭用ロボットならではの最大の課題は「コスト」

日台氏は、「カチャカ」の製品化を実現する上での最大の壁として、「コスト」を挙げた。家庭用の製品はどんなにクオリティが高くても、リーズナブルな価格でなくては買ってもらえない。

「カチャカ」は、まずモノを運ぶことにフォーカスすることで、コストを抑えている。さらに、礒部氏は、「安価なセンサーを採用することでコストを抑え、機能が不足している面はテクノロジーで補っています」と話す。

  • 「コストを抑えるため、テクノロジーを最大限に活用しています」と話す礒部氏

当たり前のことだが、高価なセンサーは物体を認識する精度が高く、安価なセンサーは高価なセンサーよりも機能が劣る。しかし、「カチャカ」には、さらにさまざまな状況の家庭でも動き回れることが求められる。

絨毯を敷いている家もあれば、床がフローリングの家庭もある。また、お子さんがいる家庭であれば、おもちゃもたくさん転がっているだろう。どんな家庭でも動き回ることができるよう、「カチャカ」はセンサーを3種類搭載している。センサーが収集したデータを分析して、スムーズな移動を実現している。

「掃除ロボットはぶつかってもよいのですが、モノを運ぶカチャカはそうはいきません。ぶつからずに目的地までたどりつけるロボットはカチャだけではないでしょうか」(日台氏)

音声の指示に従って、快適に動く「カチャカ」の様子は以下の動画で確認いただきたい。スマホアプリで設定することで、メッセージを話させることも可能だ。

家庭用自律移動ロボット「カチャカ」がシェルフを運ぶ様子。途中で「TECH+さん、ようこそ」とお話してくれる

コスパの良さから企業でも導入が進む

「カチャカ」の購入者は当初、ロボットやAIのエンジニアの方が 多かったが、最近は、「スマートホームを実現したい」「日常生活のムダを省きたい」といった個人の方が増えているという。

礒部氏は購入者の例として、お子さんが通学する際に、学校に必要な道具を「カチャカ」に運んでもらっているケースを紹介してくれた。学校に行く準備が進まない時も、「カチャカ」がいることで、子供たちの足はすんなり学校に向かいそうだ。また、「カチャカ」を購入したことで、家が片付くようになったという声も寄せられているとのこと。

さらに、「地方の飲食店やクリニックなど、人手が不足している法人でもカチャカの導入が進んでいます」と、礒部氏は話す。ファミリーレストランなどで配膳ロボットが導入されているが、「業務用はやはり高価です」と同氏。

リーズナブルな価格に惹かれて導入した法人だが、実際に使ってみて「カチャカ」の仕事の質の高さに満足しているそうだ。

食洗機と同様、日常生活における当たり前の存在に

そして、日台氏らは、「カチャカ」の使い勝手を向上するため、定期的にソフトウェアのアップデートを行っている。ネットワークを搭載してるロボットならではの強みともいえる。

今年8月には大型アップデートが行われ、カチャカAPI (Application Programming Interface)が公開された。このAPIを使うと、カチャカをプログラミングして動かしたり、外部サービスと連携させたりすることが可能になる。

例えば、AmazonやGoogleのスマートスピーカーと連携させれば、スマートスピーカーを通してカチャカを操作できるようになる。また、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)と連携すれば、自然言語で指示を出せるようになる。

加えて、カチャカを外出先から操作できる「遠隔操作機能」も追加された。いずれもユーザーのニーズに応えたものだという。現在は、LLMを活用した機能も開発が進められている。

日台氏は、「カチャカは食洗機と同じだと思います」と話す。食洗機は登場当初、「食器くらい自分で洗える」という人も多かったが、一度使ってみたらその便利さから手放せなくなり、今では「あって当たり前の家電」となってきている。

同様に、今は「自分でモノくらい運ぶけど」と思っている人たちが「カチャカ」を使うことで便利さに気付き、将来は日常生活に溶け込んでいくのではないかという。

さらに、日台氏は「現在、この手の技術は中国が席巻しており、日本企業の参入は珍しいです。だからこそ、カチャカを世界に送り出し、日本のテクノロジーのグローバル化を高めていきたいです」と、世界市場に打って出る野望を語る。

新しいデバイスはやはり使ってみないとそのよさはわからないだろう。興味を持った方はカチャカを展示販売している店舗に足を運んでみてはいかがだろうか。