グーグル・クラウド・ジャパンは12月14日、同13日に米国で開催したデベロッパー向けのオンラインイベント「Google Cloud Applied AI Summit」で発表された、Google Cloudの生成AI関連の最新機能について国内のメディア向けにオンラインで説明会を開催した。

ネイティブにマルチモーダルな「Gemini」

同イベントでは、先日発表した新たな基盤モデル(Foundation Model)「Gemini」が法人向けに提供を開始したことをがアナウンスされた。これまで、動画や音声、テキスト、コード、画像は異なる仕組みを用いて基盤モデルを構築し、最後に縫い合わせるようにしてマルチモーダルのモデルを作っていたという。

グーグル・クラウド・ジャパン 統括技術本部長(アナリティクス/ML、データベース)の寳野雄太氏はGeminiについて「ネイティブにマルチモーダルであり、1つの仕組みでシームレスに理解することを目的に作られている。洗練された推論で高精度なモデルかつ高度なコーディングを可能とし、Nano、Pro、Ultraの3つモデルで提供している。さまざまなユーザーがさまざまなユースケースで利用することができる」と説明した。

  • グーグル・クラウド・ジャパン 統括技術本部長(アナリティクス/ML、データベース)の寳野雄太氏

    グーグル・クラウド・ジャパン 統括技術本部長(アナリティクス/ML、データベース)の寳野雄太氏

続いて、寳野氏は同イベントで発表された各サービス・プロダクトを紹介した。「Google AI Studio」は、無料のWebベースの個人開発者向けツールとなり、WebベースでGeminiに対してプロンプトを与え、APIキーで利用を開始できる。また、より高度な要件を必要とする企業は、AI統合基盤の「Vertex AI」でGemini Proの利用が可能になった。

  • 「Google AI Studio」と「Vertex AI」でGemini Proの利用が可能に

    「Google AI Studio」と「Vertex AI」でGemini Proの利用が可能に

同氏は「Google AI StudioとVertex AIは同じように使えるツールだが、Vertex AIは幅広いユースケースでデータ保護をはじめ、エンタープライズレディな形で利用できる。一番重要なことは、これまでと同じくお客さまのデータをGoogle Cloudで利用することは決してない」と話す。

生成AIの活用はモデルだけでは成立しないことから、さまざまな機能を付け加えて、生成AIアプリケーションとして活用していくことが必要なため、Vertex AIがその中心を担う。

Vertex AIで生成AIの実用化に向けたプロジェクトが増加

Vertex AIに含まれるSearch & Coversationのレイヤでは、実際に生成AIアプリケーションとして利用する際に必要な機能であるセマンティック検索(ユーザーの意図や目的を検索エンジンが理解し、適した検索結果を表示させるための技術)や会話などの仕組みを取り込んでいる。

AI Platformのレイヤは、チューニングやカスタマイズを行うことを可能とし、Model GardenでGoogle独自のモデル(今回、Gemini Proを追加し、Ultraはプライベートプレビューで提供開始)やオープンソース、パートナーのモデルが利用でき、これらをAI Hyper Computerが支えている。

  • 「Vertex AI」の全体像

    「Vertex AI」の全体像

Vertex AIで生成AIの機能がサポートされてから、2023年6月~9月の期間で前四半期比50%で顧客アカウント数、同700%でアクティブなプロジェクト数がそれぞれ増加しているという。寳野氏は「これは、企業における生成AIの使用から実用化に向けたプロジェクトを立ち上げていることを意味しており、Vertex AIが選ばれている」と述べた。

  • Gemini Proが「Vertex AI」で利用可能に

    Gemini Proが「Vertex AI」で利用可能に

Geminiの発表と同時に公表されたAIを支えるインフラストラクチャ「TPU(Tensor Processing Unit) v5p」は、全世代のTPU v4と比較して2.8倍の高速なLLM(大規模言語モデル)トレーニング、4倍のスケーラブル、チップ当たりのFLOPSは2倍に向上。

加えて、コスト効率の高いサービングを可能とする「TPU v5e」は1ドルあたりのトレーニングパフォーマンスが2倍、推論のパフォーマンスは2.7倍になっている。

こうしたインフラストラクチャにより、さまざまな基盤モデルの価格を値下げしており、Geminiの場合はLLM「PaLM」の提供開始当初の価格と比較すると、入力文字数あたり4倍、出力文字数あたり2倍それぞれ安くなっている。これに加えて、PaLMの値下げも発表している。

Model GardenにはGemini Proのほか、新たに「PaLM Unicorn」を追加し、そのほかの同社製モデルであるImagen 2などをアップデート。Imagen 2はフォトリアリズムやテキストレンダリング、ロゴ生成機能が向上し、テキストオーバーレイ付きの画像やロゴの生成が可能になった。

  • Vertex AI上のAIモデル

    Vertex AI上のAIモデル

さらには、生成AIモデルを安心して利用してもらうために補償範囲を「PaLM 2」、Imagen、Gemini(Gemini APIの一般提供開始時に予定)まで拡張し、生成AIで出力されたモデルに関してユーザーを保護するという。

  • 補償範囲にPaLM 2、Imagen、Geminiが追加された

    補償範囲にPaLM 2、Imagen、Geminiが追加された

「Vertex AI Search」と「Vertex AI Conversation」にもGeminiを適用

次に、グーグル・クラウド・ジャパン AI/ML 事業開発部長の下田倫大氏が生成AIモデルを実行し、アプリケーションを構築するとともに高度に使いこなす観点でプラットフォームの進化について解説した。

  • グーグル・クラウド・ジャパン AI/ML 事業開発部長の下田倫大氏

    グーグル・クラウド・ジャパン AI/ML 事業開発部長の下田倫大氏

まずは、開発者からの要望が最も多かった「Vertex AI Function calling」について。同機能は、言語モデルに何らかのタスクを実行するための関数をインテグレーションでき、パブリックプレビューで提供している。

下田氏は同機能に関して「言語モデルは会話内容から後続の処理に必要とされる関数の名前、それを実行するための引数を認識してユーザーに返す挙動になっている。これにより、ユーザーは任意のタイミングで必要なタスクを関数という形で実行できる」と説く。

  • 「Vertex AI Function calling」の概要

    「Vertex AI Function calling」の概要

パブリックプレビュー版の「Grounding in Vertex AI」は、ハルシネーション(幻覚)に対するアプローチとなる。Vertex AIで利用する場合は、エンタープライズデータの検索機能「Vertex AI Search」に登録した自社独自のデータにもとづいて、LLMに回答させることでグラウンディングを実現するとともに、回答自体のデータに対するファクトチェックができる。

  • 「Grounding in Vertex AI」の概要

    「Grounding in Vertex AI」の概要

「Distillation Step by Step」(蒸留)は、モデルのパフォーマンスを極力維持しつつパラメータサイズを小さくする技術。モデルのストレージコストを低減し、推論のレイテンシ、コストを改善することが期待できる機能だ。今回、パブリックプレビューとしてPaLMのモデル(Unicorn、Bison)で提供し、特定のタスクに対するデータセットを与えることで、教師モデル(前述のUnicorn)から生徒モデル(Bison)に蒸留することを可能としている。

  • 「Distillation Step by Step」の概要

    「Distillation Step by Step」の概要

このようなアップデートに加え、2024年早期にVertex AI Searchとノーコードで会話アプリケーションを構築できる「Vertex AI Conversation」がGeminiにより機能強化される。Searchは検索結果の要約と回答生成機能が近日中に強化し、その後も検索の品質、精度、グラウンディングの能力も強化。Gemini Proによりマルチモーダルのデータを1つのクエリで検索し、結果の取得ができるという。

ConversationではGemini Proで高度な推論が可能となり、コンタクトセンターのエージェントアシスタント機能やユーザーインタラクションを強化し、2024年前半にはマルチモーダルでマルチチャネルをサポートする予定だ。

また、Conversationで提供されるプライベートプレビュー版の「Certex AI Conversation Generative Plabook」は、会話型の生成AIアプリケーションを開発する際に必須となるルールベースエージェントを効率よくノーコードで開発できるという。

  • 「Vertex AI Search」と「Vertex AI Conversation」もアップデートした

    「Vertex AI Search」と「Vertex AI Conversation」もアップデートした

最後に再び寳野氏にバトンタッチし、コンテンツ生成により人間と協調する生成AIである「Duet AI」に関するアップデートを紹介。

一般提供を開始した「Duet AI for Workspace」にGeminiが2024年早期に適用し、GmailやMeet、ドキュメント、スライドなどが強化されるという。

  • 「Duet AI for Workspace」にGeminiが適用される

    「Duet AI for Workspace」にGeminiが適用される

加えて「Duet AI for Developers」と「Duet AI in Security Operations」が一般提供を開始した。Developersはコーディングのサポート、Security Operationsは脅威の発見をサポートする機能となる。