先日、米国ラスベガスで年次カンファレンス「NetApp INSIGHT 2023」を開催した米NetApp。本稿では、同社 CEOのジョージ・クリアン氏にインタビューの機会を得たため、パンデミック以降に同社を取り巻く状況、日本市場への期待などについて話を聞いた。
インテリジェントデータインフラストラクチャを推進するNetApp
--パンデミック以降、企業にはどのようなビジネスチャンスがあると考えていますか?
クリアン氏:(以下、敬称略):パンデミック後、私たちが目にしたのは多くの大規模組織がマルチチャネルで統合されたCX(顧客体験)を構築しようとしているということでした。
パンデミックの間、非デジタル組織は迅速にデジタルエクスペリエンスを改修したと思います。その後は、一貫したエクスペリエンスに統合するために、さらに多くの作業が行われているのではないでしょうか。
また、高度なデジタル機能の使用がさまざまな分野で普及しています。たとえば、新型コロナウイルス感染症の影響で必須となった遠隔医療が、今では一般的なものになっています。
ある種の迅速な開発技術は、新型コロナウイルスに対応するために世界中で行われ、現在では主流になりつつあります。よりハイブリッドな作業モデルを構築することで私たちの働き方も変わり、生産性を高めるためにデータやテクノロジーの使い方も変わります。
--Amazon Web Service、Microsoft Azure、Google Cloudの3大パブリッククラウド緊密な統合していますが、この先はどのようなるのでしょうか?
クリアン:基調講演でも話しましたが、私たちは10年前に今後はハイブリッド/マルチクラウドの世界になるだろうと言いました。また、大手クラウドプロバイダーであるAWS、Azure、Google Cloudは市場の主たるプレイヤーです。
お客さまは一部のワークロードを1つのクラウド、または別のクラウド、さらにはデータセンターに置くという混在環境を希望するため、当社はデータファブリックと呼ばれるアーキテクチャを構築しました。
これにより、お客さまのマルチクラウドストレージやデータポータビリティを可能としています。そして、クラウド全体にわたるデータ管理の統合です。現在、データファブリックの基盤上に、当社はインテリジェントデータインフラストラクチャと呼ぶ層を追加しています。
これには、Kubernetesやオープンソースアプリケーションなどの最新のアプリケーションのサポート、AIやML(機械学習)のサポートなど、高度なデータサービスが含まれています。より多くのワークロードと顧客の獲得を加速させるつもりです。
セキュリティに関する考え方
--セキュリティに関連した質問です。ストレージとデータ管理は正しく安全に設計されていることがポイントになりますが、安全な設計を実現するためにNetAppが取り組んできたことは何ですか?
クリアン:当社のソフトウェアサプライチェーン、ソフトウェア開発ライフサイクルアプローチ、さらに設計によって安全性を確保する多層製品アーキテクチャに至るまで、いくつかの要素が含まれています。
多層製品アーキテクチャには、お客さまが当社のシステムやソフトウェア上に保存されているデータなどが保護されていることを確信できるように、多くの機能が組み込まれています。
これにはハードウェアとソフトウェアの暗号化テクノロジーとして、マルチ管理者認証、多要素認証、データパスの異常検出機能、ウイルススキャン、保護などのシステムの機能などが含まれています。私たちがシステムに組み込んでいるのは、膨大なセキュリティ技術です。
さらに、2つの方法でシステムに組み込まれているテクノロジーも強化しています。1つ目は、システムにデータを書き込むユーザーとシステムからデータを読み取るユーザーのシグネチャと動作を観察し、インテリジェントなディープラーニングモデルを構築することで、システムにインテリジェンスをもたらし続けるディープラーニングアプローチです。
2つ目は、セキュリティアーキテクチャの統合です。当社のテクノロジーとCiscoのセキュリティテクノロジーを組み合わせたセキュアバイデザインの「FlexPod」や、自社のソリューションをVMwareと統合し、事前に認証しています。
パブリッククラウドには、こうしたものが多くあります。当社のテクノロジーは現在、パブリッククラウドプロバイダーのソブリンクラウド(ユーザーが権限を持ち、自国でデータを管理・保存・利用するクラウド形態)向けに構築しているものに組み込まれています。一例として、米国政府のプライベートクラウドです。そこでは、当社のテクノロジーが米国政府の安全な環境の一部となっています。
サイバーセキュリティは長年にわたり、デスクトップ、ラップトップ、サーバ、ネットワーク、アクセスポイントなどビジネスの表面を保護することに重点を置いてきました。そして、多くの投資を行ったとしても妥協は避けられないことに気づきます。
多くのCISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)と議論すると「そうですね、ある時点で誰かが侵入するでしょう」と言います。ただ、妥協の必然性を受け入れるのであれば、最も重要な資産、知的財産、顧客情報、データのセキュリティ保護を最優先にして他のすべても、それに準じた形にする必要があります。
日本市場、グローバルにおけるビジネス
--「NetApp INSIGHT 2023」における狙いとは何ですか?また、2023年で日本法人は25周年を迎えました。日本市場への期待について教えてください。
クリアン:NetApp INSIGHTはお客さま、パートナー、業界のリーダーが互いに学び合うことです。それが私たちが自分自身を向上させ続けるため、そして私たちが学んだことを他の人と共有することは重要です。
お客さまと、NetAppのパートナーの経験について話し、自社のソリューションとNetAppのテクノロジーを組み合わせて、より優れた全体的なソリューションをどのように構築できるかについて体験を共有していただいています。
日本市場には現在、アジア最大の市場です。ご存知のとおり、当社は日本のファイルストレージ市場でナンバーワンのプレーヤーであり、日本最大のオールフラッシュストレージベンダーでもあります。
私たちは、新規顧客の獲得、公共部門市場での幅広い実績、そして日本の顧客を支援するクラウドポートフォリオの提供の両方で、ビジネスを成長させ続けることを期待しています。私は20周年の際、記念式典に出席しましたが、設立当初からのパートナーもいました。彼らがいることは私たちにとってとても嬉しいことです。
--グローバルにおけるビジネスの見通しはどうですか?特にアジア太平洋地域について教えてください。
クリアン:グローバルビジネスの見通しは安定していると思います。1年前よりも悪くなっているわけではありません。金利の変化率とインフレ率の変化を見れば判断できると思います。サプライヤーのオンライン化に伴い、製品ベースのインフレ率は低下しているでしょう。
GDPデータを見る限り、アジア市場は他の地域よりも強く、政府が需要を後押ししています。アジアのいくつかの地域では、経済はかなり堅調であり、私たちのアジアでのビジネスは中国以外です。私たちは中国でビジネスを展開していますが、レノボとの合弁会社を通じてです。
中国市場にはいくつかの課題があり、アジアの他地域ではそのようなことはありません。中国市場の影響を受けている部分もあるため、アジアでのチャンスに期待しています。米国は安定期に入りましたが、2024年上半期までは慎重にならなければなりません。
しかし、下半期には状況が好転すると期待しています。英国は、ありがたいことに景気後退を免れましたが、ドイツは穏やかな景気後退のため、様子見しなければなりません。
生成AIのパワーはAIをすべての人間が利用できるようにすること
--MLやディープラーニング、生成AIの先には何があるのでしょうか。今後、数年間でAIが戦略の一部になると考えていますか?
クリアン:まず、AIにおいて注力している分野が3つあります。1つはAIのユースケースをサポートするデータ管理とデータ機能をもたらすソリューションでお客さまに貢献すること。2つ目は、当社のすべての製品とサービスでAIをより深く活用することです。そして3つ目は、AI機能を使って当社のビジネスをより良いものにすることです。ソフトウェア開発、カスタマーサポート、サプライチェーン予測など、あらゆる種類のものです。
特に1つ目については、私たちは長年にわたりディープラーニングの機械学習モデルの一翼を担ってきました。予測AIは、AIを生成する先駆けであり、広く受け入れられている膨大な数のアプリケーションがあります。
創薬から高度な医療用画像処理、製造プロセスの改善、予測サポートまで、予測AIには大きなチャンスがあり、生成AIのパワーはAIをすべての人間が利用できるようにすることです。
私たちが生成AIを気に入っているのは、長年にわたって企業が構造化データ、DWH(データベース、DWH(データウェアハウス)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどのソリューションを構築してきたからです。
企業におけるデータの大部分は非構造化データです。AIを活用することで、非構造化データから膨大な価値を引き出すことができます。私たちは常にそうであり、今後もそうあり続けるでしょう。非構造化データからビジネス価値を引き出すことができる生成AIの組み合わせは、中期的には私たちのビジネスにとって強力な追い風となります。
--生成AIがAI全般への関心を高めているように、データサイエンス自体にも波及効果があると思います。データサイエンス分析に対する需要の高まりが提供する機能だけでなく、ストレージの需要にも影響を与えると見ていますか?
クリアン:ええ、もちろんです。データサイエンスはステップです。AIのライフサイクル全体において、どのモデルを構築するにしても、それに関連すると思われるデータを取得・管理し、トライアルを行う必要があります。
そうすれば、AIモデルの規模を拡大することができます。データサイエンスは今後も成長する分野です。例えば、データサイエンティストにサービスを提供している多くのソフトウェアベンダーと協力して、彼らが当社のデータ管理機能を使えるように支援しています。
データサイエンティストが迅速に仕事をこなせるようにするための、本当に良い方法がたくさんあるのです。AIの基礎は実に多くの統計学や、数学的なモデルであることもご存知でしょう?そして、私たちは中学生や大学生がデータサイエンスや統計学などのツールを使いこなせるように支援しています。
データサイエンス教育プログラムの「Data Explorers」は、特に恵まれない環境にいる中学生が統計学を学び、データを扱うことができるようになり、未来のデータサイエンティスとになることを目的としています。カリキュラムを幅広いパートナーに提供することで、その貢献の幅を広げています。