宇宙誕生後まだ5億~7億年しか経っていない時代の銀河で、酸素が急増していたことが、昨年観測を始めた「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」の赤外線データから分かった。東京大学、国立天文台などの研究グループが発表した。宇宙初期に酸素が急増した様子を初めて捉えた。生命に不可欠な元素とされる酸素が、宇宙史の中で生まれた経緯をひも解く重要な手がかりになりそうだ。

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    酸素が明らかに少ないことが分かった、131億〜133億年前の銀河たち(米航空宇宙局=NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、中島王彦氏など提供)

宇宙は138億年前に大爆発「ビッグバン」で始まった。その直後には水素、ヘリウムなどの軽い元素しかなかった。その後、酸素や窒素、ケイ素、金属のような比較的重い元素が、恒星の核融合反応などを経て合成され、質量の大きい恒星が終末に起こす「超新星爆発」などで銀河内に散らばったと考えられている。

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    ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(NASA提供)

光は到達するのに時間がかかるため、例えば人類が100億光年離れた天体を観測することは、その天体の100億年前の姿を見ることになる。過去の宇宙に酸素が存在したかどうかも、遠くの銀河のガスを光で観測して調べる。これまでに、宇宙誕生後約20億年の時点で酸素が豊富にあったことが分かっている。さらにさかのぼって酸素の起源に迫るには、赤外線を精度よく捉える必要がある。宇宙が膨張を続けているので、光は長く飛び続けるうちに波長が伸び、可視光から赤外線に変わるためだ。米欧とカナダが、130億光年以上先まで赤外線観測ができる同望遠鏡を開発し、2021年末に打ち上げた。

研究グループは、同望遠鏡の公開された観測データから、従来は捉えられなかった122億~133億年前の銀河を138個見つけ、酸素の量の把握に挑んだ。解析法を独自に開発し、データの質を向上させることに成功した。

その結果、今から131億年前までの銀河には、質量などに応じ、今と変わらない水準の量の酸素があったことが分かった。一方、131億〜133億年前で見つかった7つ全ての銀河では、酸素は今の半分ほどの水準しかなかった。この時代、つまり宇宙誕生後5億~7億年の銀河では、酸素が急増する過程にあったことを突き止めた。

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    縦軸が現在を基準(1)とした、銀河の酸素の存在比(水素に対する比率)。横軸が時間で、右に行くほど過去。黒い印が過去の研究成果、赤い星印が今回。宇宙誕生後5億~7億年には半分程度と少ないことが分かった(中島王彦氏ら提供)

生命などに重要な元素である酸素の誕生時期をめぐっては、2010年に欧州の研究グループが、地上の望遠鏡の観測を基に、120億年前に急増した可能性を示した。これに対し今回のグループは14年、当時の赤外線観測の水準が不十分で、誤差の恐れがあると指摘していた。結果的に、この指摘が正しかったとみられるという。

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    (左)会見する中島王彦特任助教、(右)大内正己教授=東京都文京区の東京大学

研究グループの国立天文台の中島王彦(きみひこ)特任助教(銀河天文学)は会見で「酸素がいつできたかの見方は、理論ごとにまちまちだった。今回しっかりした観測により、歴史を明らかにした。生命に必須の元素がどう作られたのかは、非常に根本的な知的探究の一つ。その理解を劇的に深めた」と話した。

東京大学宇宙線研究所の大内正己教授(宇宙物理学)は「(同望遠鏡により)あたかも近場の天体を観測したかのような質の高いデータが、130億年以上も昔の光から得られた。従来の考えよりずっと早く酸素が増えており、驚いた。成果は銀河形成の理論モデルにも重要な影響を与えそうだ」とした。

この時代に酸素が急増した理由は未解明。中島氏は「銀河がベビーブームのように多く生まれ、星の形成が効率よく進み、星の内部で酸素が作られ増えた可能性がある」との見方を示した。大内氏は「最初に生まれた星は、水素やヘリウムなどしかない中で生まれた。宇宙の年齢が5億~7億年の時、だんだん酸素が混じってきた。そこを今回見たのだろう」とした。今後は同望遠鏡の別の観測装置のデータも使い、さらに昔の銀河の酸素を分析するとともに、他の重い元素の誕生についても調べていく意向という。

研究グループは国立天文台、東京大学、千葉大学で構成。成果は米天体物理学誌「アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメントシリーズ」に11月13日掲載された。

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