東急不動産「代官山フォレストゲート」の都市開発・新コンセプト、食を基軸に次世代街づくり

都市再開発に新たなコンセプトが生まれようとしている。東急不動産が東京・代官山で開業した「フォレストゲート代官山」は、単に施設を開発するだけでなく、そこに「食のプラットフォーム」や、食品廃棄物のリサイクルなど、今の時代にあった「ソフト」を提供している。様々な都市で再開発が相次ぐ中、「人」を引き付けるための「個性」がより求められる時代になっている。

「食・住・遊」近接の新たなライフスタイル提案

「大人の街・代官山」の新たな顔となるか─。

 2023年10月19日、東京・代官山駅前で東急不動産が開発した新たな複合施設「フォレストゲート代官山」が開業した。東急東横線代官山駅の目の前、徒歩1分という場所に建つ。

 ここはかつて、東急不動産の創業間もない1952年に手掛けた日本初の外国人向け高級賃貸住宅「旧代官山東急アパート」の跡地。開業にあたってのオープニングセレモニーで、東急不動産社長の星野浩明氏は「歴史あるこの街で、新たな付加価値の創造を目指すため、ハードとソフトが一体となった魅力づけに取り組んだ」と話した。

 この施設は、代官山のメイン通りである八幡通りと代官山通りに面している。従来は八幡通りに出るためには回り道をする必要があったが、「フォレストゲート代官山」は施設内に八幡通りに抜ける導線を作った。57戸の賃貸住宅、シェアオフィス、商業施設からなる「MAIN棟」と、木造2階建ての「TENOHA棟」の2棟で構成される。

「フォレストゲート代官山では、食・住・遊近接の、新しいライフスタイルの提案を行う」と話すのは、東急不動産都市事業ユニット渋谷開発本部執行役員本部長の黒川泰宏氏。

「MAIN棟」の設計を手掛けたのは世界的建築家である隈研吾氏。隈氏が得意とする木材を印象的に配したデザインの他、個人宅やオフィス、商業施設での植栽デザインに定評のあるSOLSO社を起用し、代官山に新たな「森」を出現させた。

 賃貸住宅は1LDKから、メゾネットタイプの5LDKまで幅広いプランを用意。賃料は月50万円から400万円超という設定になっている。

 この賃貸住宅の中では、隈研吾氏、SOLSO社代表の齊藤太一氏、フードエッセイストの平野紗季子氏が手掛けた「ライフスタイル提案住戸」を3戸用意。隈氏は「こころ」、齊藤氏は「緑」、平野氏は「食」をそれぞれテーマとした住戸を企画。

 商業ゾーンの代表的テナントは幅広い世代に人気のコーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」、英国発のフレグランスブランド「Jo Malone London」、高品質な食品を扱うスーパー「ザ・ガーデン自由が丘」、パレスホテルが打ち出したパンの新業態「Et Nunc」などが入居している。

 そして、この施設における重要なキーワードは「食」。東急不動産は「食」を「魅力ある街づくりに欠かせない要素」、「エリア競争力に寄与」するものと定義。そこでここ、代官山で打ち出したのが「食のプラットフォーム」。

 東急不動産は、飲食店経営や店舗プロデュースを手掛けるイートクリエーター社と合弁で新会社「株式会社日本食品総合研究所」を設立、フォレストゲート代官山に事業拠点を設けた。

 この拠点では「食」に関わる新規ビジネスの開発、企業が受託したオリジナル商品の開発・製造、テストマーケティングも兼ねた飲食の提供という機能をワンストップで備えた。

 また従来、飲食店を出店するには多額の資金が必要であり、才能のあるシェフも料理以外に日々の店舗運営に忙殺されることが多かったが、この事業拠点では様々な企業や自治体からの業務を受託することで、そのシェフの料理に特化した様々な能力を発揮できる環境を整える。

 さらに、「食」にはどうしても「食品廃棄物」の問題がつきまとう。そこで、JFEエンジニアリンググループと、JR東日本グループが共同出資で設立した「Jバイオフードリサイクル」の横浜工場で、フォレストゲート代官山や東急プラザ渋谷、東急プラザ蒲田などからの食品廃棄物をメタン発酵させ、そこから生まれる「電気」を施設の電力に、「肥料」を施設で使う農作物に活用するという循環づくりを進めている。

「広域渋谷圏」の新たな拠点として

 東急グループは21年に「グレーター渋谷2.0」という戦略を打ち出した。渋谷駅から半径2.5キロ圏内のエリアを「広域渋谷圏」と定義。この広域渋谷圏で「働く」、「暮らす」、「遊ぶ」が融合した街づくりを目指している。

 東急不動産はその戦略の中で、24年度までに竣工・開業を控える4つのプロジェクトを推進中で、「フォレストゲート代官山」はその1つ。他に、渋谷の桜丘エリアの姿を変える「渋谷サクラステージ」、原宿駅前の新たなランドマーク「東急プラザ原宿『ハラカド』」、都市と公園をつなぐことをコンセプトにした「代々木公園Park―PFI計画」が進行中。

「都市間競争が進む今、国際競争力に優れたグローバルな都市を目指す上で、広域渋谷圏が持つ魅力を、さらに伸ばしていくことが重要だと考えている」(黒川氏)

 そこで東急不動産が力を入れているのが、冒頭の星野氏の言葉にあるように、施設開発というハードに加え、施設同士やエリア間を連携させる「ソフト開発」との両輪による開発。

 このソフトを国内外に発信することで、それに共感する「人」を集め、そうした人々と共創していく─。自らが表に出なくとも、こうした「循環が生まれる仕組みづくり」(黒川氏)をするのが、都市開発における東急不動産の新たな仕事になっている。景気の先行き、金利動向も懸念される中、人を引き付ける開発が、これまで以上に求められている。