野村総合研究所(NRI)は11月28日、大手企業を対象に実施した「ユーザー企業のIT活用実態調査 2023年」の結果を発表した。これによると、生成AI(人工知能)の利用意向は高いが、リテラシー・スキルの不足とリスクへの対処が課題になっているという。

同調査は同社が2023年9月に、日本国内に本社を持つ売上高上位企業約3000社のCIOまたはIT担当役員、経営企画担当役員、IT部門長、経営企画部門長またはこれらに準じる役職者を対象として事前に調査協力依頼を送付後Webで実施したものであり、有効回答社数は459社。

2023年度のIT投資が前年度と比べて増加したとの回答は60.9%であり、2022年度の調査と比べ8.0ポイント増加した。過去20年の調査結果で最も高く、大手企業におけるIT投資の重要性が従来にないレベルで高まっていると同社は考えている。

2024年度のIT投資については、2023年度よりも増加すると予測する企業が51.5%で2022年度の調査(49.0%が増加を予測)と同程度であり、IT投資は引き続き増加傾向だと同社は見る。一方、減少すると予測した企業は10.5%だった。

  • IT投資額の前年度対比と次年度の予想 出典: NRI

デジタル技術の導入状況を見ると、RPA(Robotic Process Automation)の導入率が69.9%と最も高く、定型業務を効率化する上で多くの企業に普及したツールになったと同社は分析する。

また、ノーコード/ローコード開発ツールの導入率は前回調査の26.7%から38.8%へ伸びており、プログラム開発を効率化したいというニーズが見られるという。

近年注目度が高まっている生成AIの導入率は24.2%、生成AI以外のAI・機械学習の導入率は28.7%だった。生成AIについては「導入を検討中」との回答が30.8%、「今後検討したい」が26.0%に上っており、今後の導入進展が期待できるとしている。

  • 新技術の導入または検討に関する状況 出典: NRI

生成AIの活用に関する課題では、「リテラシーやスキルが不足している」が64.6%で最も多く、「リスクを把握し管理することが難しい」 が61.4%で続く。

社員のリテラシーやスキルの不足は従来のAI活用でも課題とされてきた一方、リスクの把握・管理については、生成AIが最近注目されるようになった技術であること、また、プロンプト・インジェクションなど新しい攻撃手法の登場や、偽情報が出力される可能性、著作権との関連など、従来に無い観点でのリスク対処が必要となっていることが、課題として認識されていると同社は推測する。

生成AIの適用領域を社内のオフィスワークから多様な業務領域へと広げて行く上でも、リスクへの対処は重要な課題だと同社は考えている。

  • 生成AIの活用に関わる課題(複数回答) 出典: NRI

IT・デジタル化人材の採用・獲得における課題を尋ねると、「報酬や役職の面で、魅力的な処遇を提示できない」が59.4%で最も多く、「自社が確保したい人材像やスキル、レベルを定義できていない」 が44.7%で続いた。

  • IT人材・デジタル化人材の採用・獲得に関する課題(複数回答) 出典: NRI

IT・デジタル化人材の育成における課題では、「スキルを人材の評価に反映する仕組みがない」が51.8%と最多であり、「スキル向上・獲得に即したメリット(処遇向上など)を提示できない」が50.5%で続く。

各社でデジタル化を推進する上で、まず必要な人材像を定義し、従来の処遇や人事制度の枠組みを見直し、必要な人材の確保・育成にあたることが求められていると同社は推測する。

  • IT人材・デジタル化人材の育成に関する課題(複数回答) 出典: NRI