東京大学 名誉教授の伊藤元重氏は「日本の経済は停滞と安定の20年が終わり、新たな曲面を迎えている」と指摘する。そして、今後の経済の活性化のためにはGXとDX、そして「創造的破壊が重要なキーワードになる」と言う。11月6日~17日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Autumn for データ活用 データで拓く未来図」に同氏が登壇。経済は今後どのように変わっていくのか、そしてその中で企業が成長するために考えるべきことについて解説した。
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金利、為替レート、物価、賃金の大きな変化
講演冒頭で伊藤氏は、20年以上続いてきた“停滞と安定”の時代が終わった今、これからの経済を考えるにはその大きな潮の流れの変化を読むことが必要だと述べ、具体的に大きく変化したものとして、金利、為替レート、物価、賃金を挙げた。
金利は欧米ではすでに上がっており、長い間“超低金利”が続いていた日本でもこれから上がっていくと考えられる。“経済の温度計”と言われる金利が上がるということは、いろいろなものが変化していることの表れだと同氏は指摘する。また為替レートはこの1~2年で大きく円安へ動いているが、今後も大きく変動するだろうとした。
さらに大きな流れの変化にあるのが、物価と賃金だ。20年間動かなかった物価はインフレ傾向に変わり、消費者物価の上昇は12か月連続で3%を超えた。海外の物価上昇が収まれば国内の物価上昇にも歯止めがかかるはずだが、ウクライナ、パレスチナの情勢や石油価格など不確定要因があるため、物価は今後も高止まりする可能性が高い。そして賃金が物価と連動して上がるかどうかが、経済の流れの大きなカギになると伊藤氏は言う。
変化をもたらした2つの大きな出来事
20年以上動かなかったことが急に動いたのは、50年や100年に1回あるかどうかという大きな出来事が2つもあったからだ。その1つは新型コロナウイルス感染症の流行だ。コロナ禍で一度縮小した需要が戻るときに労働市場で需給のバランスが崩れ、賃金が大きく上がった。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行はデジタル化も加速させ、オンライン会議や在宅勤務が浸透するなど、これまでにないかたちのビジネスが広まった。これによって社会が大きく変化。その影響で、コロナ禍以前は金融緩和に依存した“一本足打法”だった金融政策はインフレ抑制にシフトし、マクロ経済政策は財政、産業支援策にシフトしている。
もう1つの大きな動きは地政学的な変化だ。ロシアによるウクライナ侵攻により天然ガスや食料の供給地域で混乱が起き、それが世界に波及した。さらに米中対立や台湾問題、そしてパレスチナでも紛争が起きた。これらの影響で、1989年のベルリンの壁の崩壊以降続いていたグローバル化が大きく崩れていくことになると同氏は言う。それを象徴するのが中国の動きだ。これまで世界の経済はどんどん国境を越えて動くようになっていたが、その中心だった中国が、自国経済をより重視するようになっている。
GXとDXをキーワードにポリシーミックスも変化
このような中、EUでは、自動車の電気化や再生可能エネルギーなどに投資して経済の構造を変え、成長を目指すというグリーンディール政策が表に出てきており、アメリカでも再生エネルギーや半導体に投資しようという動きがある。日本でも同じように、GXやDXをキーワードに政策を変更していく動きがあり、ポリシーミックスが顕著に変化し、金融政策以外のところに重点が置かれ始めている。GX分野の再生可能エネルギーや電気自動車への投資、そしてDX分野の半導体や最先端コンピュータへの投資によって、経済を活性化しようという考え方だ。