アドビは11月16日、「Adobe MAX Japan 2023」を開催した。Adobe MAX Japanは、グラフィックデザイン、写真、Web制作、UI/UXデザイン、映像制作、3D制作などに携わるクリエイターおよびそれらを目指す人が楽しむことができる「クリエイターの祭典」として行われているもので、新型コロナウイルスの影響で、大規模なオフライン開催となったのは4年ぶりだ。

さまざまな展示や会見が行われる同イベントだが、その中で、アドビが現在開発中の技術を紹介する「MAX Sneaks」という説明会が実施された。

同説明会では、「3D EDGE PRINTING」「Project Fast Fill」「Project Sound Lift」「Project Primrose」という4つの技術が紹介された。本稿では、アドビの研究機関で有望な技術に投資し研究を進める組織であるAdobe Researchに所属する伊藤大地氏によって語られた、4つのアドビの先端技術を紹介する。

左右で異なる物が見える? 「3D EDGE PRINTING」

最初に発表された「3D EDGE PRINTING」は、左側から見た画像と右側から見た画像が違うように見えるという技術だ。それに加えて、肉眼で見ると立体的に見えるという。

この技術は、長い紙と短い紙を組み合わせ、それぞれの紙に違う印刷を行うことによって左右で違う物が見える仕組み。しかし、これだけでは立体的に見えるわけではないので、別の技術が使われているそうだが、それに関しては特許を出願中だという。

  • 「3D EDGE PRINTING」

    「3D EDGE PRINTING」の概要

この技術を活用することによって、3Dのオブジェクトを印刷するだけでなく、アニメーションに活用したり、特定の場所からしかメッセージが読めない「隠しメッセージ」として機能させたりすることもできる。

プロダクトのアイデアとして、伊藤氏は「本・辞書」「漫画」「雑誌」「カタログ」などを挙げた。これらのアイデアに加えて、付箋というアイデアもあり、普通の状態で置くのではなく、縦にすることでデザインを実現するという。

「今回、発表した技術の背景には『印刷業界の逆風』ということがあります。今回発表したような、特殊な技法で印刷した本を出すことによって、またユーザーの足を本屋さんに向けることができたら良いなと思っています」(伊藤氏)

  • ,Adobe Researchの伊藤大地氏

    Adobe Researchの伊藤大地氏

生成塗りつぶし機能を動画でも 「Project Fast Fill」

2つ目に発表された「Project Fast Fill」は、生成AIを活用した「生成塗りつぶし機能」を動画でも利用できるようにした技術だ。

生成塗りつぶし機能は、アドビの画像編集ソフトである「Photoshop」に新しく追加された機能で、オブジェクトや背景の生成や画像の拡張、オブジェクトの削除などを行うことができるというものだ。そして、Project Fast Fillは、この機能を動画でも利用できるようにするための技術なのだ。

今回の説明会では、マスクをした状態の女性に少しずつカメラが寄っていくという動画を元に、生成AIによってマスクを外し笑顔で映る女性へと変化させる、というデモンストレーションが行われた。

  • ,左:元の動画 右:Project Fast Fillを使用後

    左:元の動画 右:Project Fast Fillを使用後

笑顔が自然に生成されているのはもちろんのこと、少しずつカメラが近付いていっても、遠近感や生成した口の大きさなどに違和感は生じていない。

世界初公開の音に特化した「Project Sound Lift」

続いて紹介された「Project Sound Lift」は、この発表が世界初公開となった「音」に特化した技術だ。

この技術は、動画の中のBGMや雑音、声などを判別して、切り分けることができるというもの。切り分けたい音を選ぶことで、雑音を排除したクリーンな動画に編集したり、スピーカーが小声で話した内容も拾うことができたり、といったことが可能になる。

周囲の話し声なども判別することができるため、空港やイベント会場のような人の多い場所でも動画を撮ることができる上、会場内のBGMや周囲の喧騒を完全な無音ではなく、音を少し小さくするということも可能なため、臨場感はそのままにメインの音声を聞きやすくすることもできるそうだ。

模様が変化するドレス 「Project Primrose」

最後に発表された「Project Primrose」のパートでは、キラキラと模様が動くドレスの動画が公開された。

  • ,Project Primrose活用のドレス

    Project Primrose活用のドレス

このドレスは、魚のウロコのような素材でできており、銀と白に色を変えることで模様を生み出す仕組みになっている。このドレスは、ボタン操作で模様が変化するハイテク素材のディスプレイで作られたもので、アドビにしては珍しいハードウェアの技術だ。

カジュアルな服と比べると少し重量はあるそうだが、非常に軽い素材のため、フォーマルな場面では問題なく着用できるとのことなので、いつかこのようなドレスが流行となる日もやってくるかもしれない。

また、この技術はドレスに限らず応用が可能で、アクセサリーや建築物など、さまざまな用途での活用が期待されているそうだ。