東京大学(東大)は11月15日、食と健康に関する一般書において、米国と比較して日本では、引用されている文献の質および引用にあたり、記載されている書誌情報の質が不十分であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東大大学院 医学系研究科の大野富美大学院生、同・足立里穂大学院生(研究当時)、同・村上健太郎教授、東大の佐々木敏名誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、栄養関連の公衆衛生に関する全般を扱う学術誌「Public Health Nutrition」に掲載された。

日本や米国では、およそ2割~3割の人が書籍から食や健康に関する情報を入手しているとされる。これらの書籍においては、根拠に基づいた情報を提供する必要があるという点が重要だ。もちろん根拠となる引用文献を示したからといって、それで情報の正確さが必ずしも保証されるわけではない(その引用文献自体が誤っている可能性などもあるため)。しかし、信頼できる情報として必要最低限の条件だといえるという。

現在まで、インターネットや新聞などに掲載されている健康情報において、引用文献の有無や種類が調べられてきたが、一般書について十分な数のサンプルを集めて実施した研究はなかったとのこと。また、先行研究の多くが英語の情報を対象としており、日本語の情報についての研究はほとんどなかったという。そこで研究チームは今回、日本と米国の食と健康に関する一般書において、引用文献の有無や種類および、それらに関連する一般書の特性を調べたとする。

同調査では、オンラインブックストア(日本:Amazon・honto、米国:Amazon・Barnes&Noble)の食と栄養に関するカテゴリの売り上げランキングを用いて、日米両国で100冊ずつ、合計200冊の一般書が選定された。そして一般書の全ページを確認し、引用文献の有無と個数を調べたとのこと。さらに、学術論文を引用しているか、人を対象にした研究の「システマティックレビュー」(明確に作られた問いに対し、その問いを扱った既存研究の系統的で明示的な方法を用いて同定・選択・評価を行い、問いに対する現時点での回答を提示する研究手法のこと)を引用しているのかなどが確認された。そしてこれらすべての引用文献の記載方法を確認し、200冊を「すべての引用文献が特定可能なもの」と「特定不可能な引用文献が1つ以上あるもの」に分類。さらに、著者が保有する資格(医師、管理栄養士など)も調査したという。

その結果として、日米どちらも引用文献を提示していた一般書は3分の2ほどで、日本が66冊、米国が65冊だったことが判明。しかし、引用文献の特徴や引用の仕方は大きく異なることが明らかになったという。米国では58冊で学術論文が引用されており、そのすべてで人を対象とした研究が引用されていた一方で、日本では学術論文を引用していたのは31冊に留まり、そのうち人を対象とした研究を引用していたのは29冊だったとする。

  • 日本と米国の食と健康に関する一般書100冊において、引用文献のあるものの冊数

    日本と米国の食と健康に関する一般書100冊において、引用文献のあるものの冊数(出所:東大プレスリリースPDF)

さらに、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用していた一般書の数には日米で顕著な差があったとのこと(日本9冊、米国:49冊)。また100件以上の文献を引用している一般書は、日本(5冊)では米国(37冊)と比較して少ないことが明らかになった。また、文献を引用している一般書の中で、すべての引用文献において特定可能な書誌情報が記載されていたものの割合は、日本では64%だったのに対し、米国では97%だった。

  • 日本と米国の食と健康に関する一般書で引用文献のあるもののうち、すべての引用文献を特定可能な形式で示していたものの割合

    日本と米国の食と健康に関する一般書で引用文献のあるもののうち、すべての引用文献を特定可能な形式で示していたものの割合(出所:東大プレスリリースPDF)

さらに、日本において、著者が医師免許を持っている一般書は27冊あり、そのうち引用文献があったのは23冊(85%)だったのに対し、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用したのは5冊(19%)のみだったという。同様に、日本で著者が管理栄養士免許を持っている一般書は12冊あり、そのうち引用文献があったのは7冊(58%)だったが、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用したものはなかったとした(0%)。

研究チームはこの結果から、食と健康に関する一般書において、日本では米国に比べ、十分な質・数の引用文献を特定可能な形で提示するものが少ないことが示唆されたとする。食と健康に関する一般書の著者においては、科学的根拠を理解し、活用できるスキルを身に付けることが望まれるうえ、信頼できる栄養情報の普及に向けて、著者・出版社・読者において、引用文献の重要性が認識されるよう働きかける必要がある。しかし、引用文献の提示は情報の正確さを必ずしも保証しないため、今後は内容の正確性を評価する方法の確立など、食と健康情報に関する研究のさらなる発展が期待されるとしている。