東京大学(東大)、虎の門病院、日本医科大学(日医大)の3者は11月11日、半減期の長い「アディポネクチン受容体活性化抗体」を取得し、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、抗糖尿病・抗動脈硬化・抗炎症の作用を併せ持つ「アディポネクチン」と同じく、アディポネクチン受容体活性化を有すること、肥満糖尿病あるいは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症したマウスにおいて治療効果を有することを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 医学系研究科 代謝・栄養病態学分野の山内敏正教授(東大 医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 科長兼任)、門脇孝東大名誉教授(現・虎の門病院院長)、東大大学院 医学系研究科 先進代謝病態学岩部(岡田)美紀特任准教授、日医大大学院 医学研究科 内分泌代謝・腎臓内科学分野の岩部真人教授、田辺三菱製薬 創薬本部の浅原尚美氏、同・和田浩一氏、同・岡幸蔵氏らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
研究チームは、これまでの研究によりアディポネクチンが抗糖尿病や抗メタボリックシンドローム作用に加え、元気で長寿を助ける善玉のホルモンであることを解明しており、肥満によって血中のアディポネクチンの量が低下すると、メタボリックシンドロームや糖尿病の原因になることに加え、心血管疾患やがんの危険性を高め、短命になるリスクが増加することが分かっているという。
また、研究チームはアディポネクチンと同じような効果を持つ物質、またアディポネクチンの作用を細胞内に伝えるアディポネクチン受容体(「AdipoR1」と「AdipoR2」の2種類が存在)を活性化できる内服薬(低分子化合物)の種を、マウスを用いた実験により発見している。
高脂肪食などの過食や運動不足といった生活習慣の乱れが発端となる2型糖尿病に対しての治療薬は現在、複数の内服薬や注射薬が承認されており、幅広い治療選択肢が提供されているが、血糖コントロールや糖尿病が原因で発症する心血管疾患などの発症予防効果や安全性において不十分な点も多いという。その理由の1つとして、患者自身が医師の説明もよく聞いた上で、医師と共に一緒に決めた治療方針に沿って薬も含めた治療に取り組んでいく「服薬アドヒアランス」が低いことが挙げられている。
そこで研究チームは、月に1回という少ない頻度での投与を可能にする、半減期の長い抗体医薬により、アディポネクチン受容体を活性化することで服薬アドヒアランスを向上させ、治療効果を強化できるよう抗体の取得を試みることにしたという。
そして14年にわたる研究の成果として、アディポネクチン受容体に結合することでアディポネクチンと同じような効果を発現するマウス抗体の取得に成功。
さらに、高脂肪食を与えることにより肥満糖尿病を発症させたマウスに対し、今回取得された抗体が投与されたところ、糖尿病の改善とNASHの予防効果が認められたほか、高脂肪食を与えることによりNASHを発症したマウスにおいても治療効果が認められたという。
なお、このマウス抗体は生体内の抗体と同じ半減期を持つことが確認されており、ヒトに投与できる抗体に変換することにより月1回の投与による治療が期待できるという。また、今回の研究成果は、糖尿病やNASHの治療だけでなく、アディポネクチンの作用低下が原因となる慢性疾患全般の治療効果にも波及する可能性と、アディポネクチン受容体研究の発展に寄与することが期待されるとしている。