NECは11月6日、「NEC DX経営の羅針盤2023」に関する勉強会を開催した。本稿では、レポートデータを元に企業各社の取り組み実態や課題などを解説する。

NEC DX経営の羅針盤2023とは、年間売上300億円以上の企業における社内DX(デジタルトランスフォーメーション)に関与したことがある課長職以上の204人を対象に、社内DXの推進状況や課題に関するアンケート調査を実施するとともに、各社のCxO(Chief x Officer)を対象に、経営課題やDX推進度、人材育成に関するインタビュー調査を実施したレポートのこと。

今回の会見には、NEC コンサルティングサービス事業部門 マネージングディレクターの井出昌浩氏が登壇し、NEC DX経営の羅針盤2023のレポートデータを元に企業各社の取り組み実態や課題などを紹介した。

  • ,

「2025年の崖」までにDXを加速させる

はじめに井出氏は、NEC DX経営の羅針盤2023の発刊の目的として「企業のDXの取り組みの実態を具体的に特定し、より日本のDXを加速したい」「将来的にはDXの方法論を整備して開示したい」「日本のDXの次の取り組みの方向性を提示したい」という3つの想いを述べた。

「企業がDXに取り組む動きが本格化してから4~5年が経ちますが、これまでは孤軍奮闘する企業が多かった印象です。これからは、具体的に各社が悩んでいることを共有することが、日本のDXを加速させていくのではないかと思っております」(井出氏、以下 同氏)

  • ,DXの現状を語る井出氏

    DXの現状を語る井出氏

また、井出氏曰く、日本全体でDXを急ぐのには「2025年の崖」という背景があるという。

2025年の崖とは、経済産業省の「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」で提示された言葉で、日本企業がDXの取り組みを十分に行わなかった場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が発生し、国際競争力を失うという課題を表す言葉だ。

「2025年の崖まであと2年に迫る中、形だけを残して死に絶えるのか、継承し次なる成長を遂げるのか、この2つの道の分かれ目は『DXについての実態を把握』できるかに掛かっています」

このような想いで発刊されたNEC DX経営の羅針盤2023だが、具体的な構成としては、「アンケート調査の結果分析」「アンケート調査とインタビュー調査から考察した提言(DX経営の羅針盤)」「インタビューからのDX推進解決の道筋(プラクティス)」「DX生存戦略の本質(対談)」という4つに分かれているという。

アンケート調査は「業務変革・デジタルプラットフォーム変革」「組織人材変革」「顧客体験変革」「社会とビジネスのイノベーション」といった分野に分かれ、先駆企業の取り組みと、途上企業の参考となるトピックを分析している。

  • ,アンケート調査のトピック

    アンケート調査のトピック

DX推進の最大の障壁は「人材不足」

最初の項目である「業務変革・デジタルプラットフォーム変革」の調査結果では、業界を問わずに業務変革・デジタルプラットフォーム変革の着手が進んでいる実態が明らかになったという。

働き方改革を含む「業務のデジタル化」については、84.4%が着手しており、「業界でも平均以上・トップクラスの水準で実現できている」と回答した先駆企業は31.9%に上った。一方で、「意思決定のデジタル化」については、過半数以下の49.6%のみという結果となっている。

「業務のデジタル化が進んでいるのは、顧客に価値を提供することに直結しているからではないかと分析しています。一方で意思決定のデジタル化が進まない要因には、日本独特の『経験』や『熟練の技』に基づいた意思決定やマネジメントが残っているという現状があります。海外に目を向けてみると、データに基づいたマネジメントを行っている事例も数多くあるため、日本の企業も変革していくべきだと考えられます」

  • ,業務のデジタル化と意思決定のデジタル化の着手・進捗状況 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

    業務のデジタル化と意思決定のデジタル化の着手・進捗状況 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

続いての項目である「組織人材変革」では、「DX推進を阻む壁」というテーマでアンケート調査が行われた。

企業のリーダー層に「企業で生じている(生じていた)DX推進の課題として当てはまるものを全てご選択ください」と尋ねた質問(複数回答)では、「DX実行部門(事業部門)の人材不足」が148社、「DX企画部門の人材不足」が131社、と上位2つの回答となった。このことからDX推進の最大の障壁は「人材不足」であることが分かったという。

  • ,企業で生じている(生じていた)DX推進の課題として当てはまるものを全てご選択ください 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

    企業で生じている(生じていた)DX推進の課題として当てはまるものを全てご選択ください 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

「この人材不足解消のためには、DX推進と並行して、長期的な人材育成計画と持続的に人材育成や確保に取り組むことが重要です。単なる知識獲得のトレーニングだけでは実践力は身につかないため、やりたいことを引き出しながら、さまざまなDX実践の場を提供して、モチベーションを高めていく環境を整備することが求められます」

健全な危機感こそ「X」の原動力

また、勉強会の最後に井出氏は「DXのこれから」というテーマで、日本のDXの次の取り組みの方向性を示した。

「企業のDX推進は、ずばり社内の誰が覚悟をしたらより進むと思いますか?」という質問に対して、その他の選択肢と大きく差をつけて、117社から回答が寄せられていることからも分かる通り、DX推進には「CEO・社長」の覚悟が必要不可欠であるという。

  • ,「企業のDX推進は、ずばり社内の誰が覚悟をしたらより進むと思いますか?」 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

    「企業のDX推進は、ずばり社内の誰が覚悟をしたらより進むと思いますか?」 引用:NEC DX経営の羅針盤2023

この結果に加えて、井出氏は、経営層のリーダーシップでのトップダウンを取ると同時に、日本のすぐれた現場力をひき出したボトムアップのバランスを考慮したDXガバナンスを構築して取り組みを行うことが重要であることを語った。

「トランスフォーメーションの範囲と深さのレベルを規定・推進できるのは、経営層のトップです。そして、経営層のトップの熱い思いと覚悟が、日本の誇れる現場力を引き出していくことでしょう。自問自答しながらありたい姿を模索し、そのための健全な課題を特定して共有することは、DX推進の加速につながっていきます。つまり『健全な危機感こそ、X(トランスフォーメーション)の原動力』なのです」