日本マイクロソフトは11月1日、Word(ワード)やExcel(エクセル)、PowerPoint(パワーポイント)などに生成AI(人工知能)を投入した「Microsoft 365 Copilot(コパイロット)」のを法人向けに提供開始した。
「Microsoft 365 Copilot」とは?
Microsoft 365 Copilotは、米OpenAIの「GPT」をベースにした大規模言語モデル (LLM)で構築されており、ユーザー企業が持つデータをセキュアに活用したうえで、Microsoft 365のアプリケーション群で「副操縦士」のようにナレッジワーカーの作業をサポートする。
提供価格は1ユーザーあたり月額30ドル。なお、Microsoft 365 E3、E5、Business Standard、Business Premiumであることが利用条件だ。同日より利用できるのは企業ユーザーであり、教育機関や政府機関などはまだ利用できない。
22年11月にOpenAIの生成AI「ChatGPT」が提供されてから、マイクロソフトは次々に生成AI関連の製品を発表してきた。23年2月に検索エンジン型の生成AI「Bing Chat」、6月にWindows 11に組み込むために開発した生成AI「Windows Copilot」、7月にデータ保護機能を有した法人向けの「Bing Chat Enterprise」を立て続けに発表。
そして、9月にこれまで発表してきたBing ChatやWindows CopilotといったAI機能を「Microsoft Copilot」として1つのエクスペリエンスに統合した。よく似たサービスが多いため混乱してしまいそうだが、同社は現在、先述したMicrosoft CopilotとBing Chat Enterprise、そして11月より提供するMicrosoft 365 Copilotの3つが、代表的なCopilotサービスだと定義している。
ついに提供開始されたMicrosoft 365 Copilot。同ツールによって、ナレッジワーカーの働き方はどのように変化するのだろうか。提供開始に先だって開かれた記者説明会の内容をもとにして、具体的な機能を一つずつ紹介していこう。
Copilotで「Microsoft 365 アプリ」はどう変わる?
原稿案を依頼できる「Word」
文書作成ソフトウェアのWordでは、原稿案(ドラフト)の自動生成ができるようになる。例えば「11月1日にイベントを開催します。企画書を書いてください」といった簡単な指示を出すだけで、Copilotはほんの数秒で企画書のドラフトを作る。
また、「役割分担を追加して」といった指示を出すことで、ドラフトの微調整もしてくれる。
さらに、長々としたWord資料の要約も可能で、文章の追加文章の追加やトンマナの変更、文章量の調整など、ドキュメントの編集や書き換えもCopilot側からユーザーに提案してくれる。
グラフ化やデータ分析を自動化「Excel」
表計算ソフトのExcelでは、数字のまとめ直しやグラフ化、データの分析を自動化できるようになる。例えば、データを分析させ傾向を要約してもらったり、売上が伸びた理由を自動生成されたグラフで説明してもらったり、さらに掘り下げて、今期の売上減の要因を視覚化させたりと、グラフ生成の専門知識がなくてもCopilotのサポートにより、最適なグラフを作ることができる。傾向をより把握するために色分けを指示することも可能だ。
また、さらに踏み込んで「仮説を立てたシナリオが発生した場合にどうなるのか」を考えていく「What-ifシナリオ分析」の形式で質問すると、Copilotは質問に回答するだけでなくシナリオの簡単なモデルを作成し、実行した内容を手順ごとに詳しく説明してくれる。そのうえで推定モデルのグラフを作ってもらうことも可能だ。
つまり、テーブル上になっているデータに対して、自然言語で壁打ち的に問いかけをすることで、ビジュアライズされたグラフの作成に加えて、データに埋まったインサイトを引き出してくれるということだ。
ただし、Excelに関しては提供開始時点では英語のみ利用可能で、日本語を含むほかの言語対応は今後提供される予定だ(Excel以外のMicrosoft 365 アプリはすべて日本語に対応している)。
Wordで書いた原稿を企画書に変換「PowerPoint」
Copilotを活用したプレゼンテーションソフトウェアのPowerPointでは、Wordで書いた原稿を企画書に変換することができる。
さらに、文字情報から関連する画像を挿入したり、アニメーションをつける指示も可能だ。
また「もっと明るい印象に」と指示をすれば、デザイナーと連動してデザインが更新される。レイアウト調整や書式の変更もユーザーの意図を汲んで提案してくれる。さらに、Copilotがそれぞれのスライドをノートに要約できるので、上役や経営陣のために作成する資料のトーキングポイントを一から書き起こす必要がなくなる。
メールの優先順位付けや要約「Outlook」
電子メールや予定表管理などの機能を備える個人情報管理ソフトウェアのOutlook(アウトルック)では、最適なメール文の自動生成ができるようになる。文章のトーンや長さの調整もでき、丁寧な表現に変える、逆にカジュアルにする、長文を短くするといったこともCopilotに任せることができる。
また、メールの内容が状況に適していない場合は、Copilotによる指導が入り、校正案が提示される。
受信した長文メールの要約は、全文を読むためにスクロールの行き来が必要なスマートフォンなどのモバイル端末で重宝される機能だろう。また、「返信が必要な可能性の高い」重要なメールにはフラグを立てて優先順位をつけてくれるため、メールの見逃し防止にもつながるとしている。
オンライン会議の聞き逃しを防ぐ「Teams」
ビデオ会議などが行えるコラボレーションプラットフォームのTeams(チームズ)では、どのような議論がなされたのか、会議の内容を途中でも要約してくれる。会議での決定事項やアクションの整理を任せることができる。
また、チャット上でのやり取りの要点を整理したり、疑問があるメンバーの質問を探し出したりすることも可能。ビデオ会議やチャットで議論された「いつまでに・誰が・何をすべきか」といった内容をもとにCopilotが必要なタスクを洗い出してくれる。
社内データをフル活用できる「Microsoft 365 Chat」
最後に紹介するのは「Microsoft 365 Chat」。同ツールは、Microsoft 365 アプリやデータ (カレンダー、メール、チャット、ドキュメント、会議、連絡先) を横断して、情報を探し出すAIチャット。さまざまなソースから情報を集約し、要約した上で提示する。
一方で、個人のプライバシーは保護されているため、「○○さんの給与はいくらですか?」といった回答には答えないようになっている。
同ツールに関しても、Microsoft 365 アプリと同様でMicrosoft 365 Copilotのみ利用可能。Microsoft CopilotとBing Chat Enterpriseでは利用できない。
もし著作権侵害で訴えられたら……?
マイクロソフトは9月に、著作権侵害の心配なくCopilot製品群を利用するための「Copilot Copyright Commitment」を発表している。
これは、Copilotから生成されたコンテンツを利用している顧客企業が第三者により著作権侵害で訴えられた場合、マイクロソフトが訴訟で生じた不利な判決、解により課された金額を全額支払うといったもの。
同社は、顧客企業が「もし著作権侵害で訴えられたら……?」といった心配をすることなく、Copilotの機能を使える環境を構築している。
また、マイクロソフトはMicrosoft 365 Copilotの使い方を学ぶためのプラットフォーム「Copilot Lab」も11月1日より提供開始する。どんなプロンプトが効果的なのかをチームメンバーと共有し、インスピレーションを得ることができるとのこと。Microsoft 365 Copilotユーザであれば誰でもWebからアクセスできるとしている。
説明会に登壇した日本マイクロソフト 業務執行役員 モダンワークプレイスGTM 本部 本部長の山田恭平氏は、「『まずは使ってみよう』と当社のAI製品に興味を寄せている企業はかなり多い。より多くの人にCopilotによる生産性の向上を実感してもらいたい」と、意気込みを見せた。