NTTは、太陽光エネルギーを利用する半導体光触媒と二酸化炭素(CO2)を還元する金属触媒を電極として組み合わせた人工光合成デバイスを作製して、350時間(2週間強)連続での炭素固定を実現し、その累積炭素固定量が、スギの木1本が年間で固定する単位面積当たりの炭素量を上回る量に上ったことを発表した。

今回の成果のベースとなる技術については、2023年11月14日~17日に開催されるフォーラム「NTT R&D FORUM 2023 - IOWN ACCELERATION」で展示される予定だ。

  • NTTの掲げるカーボンニュートラルと人工光合成の研究開発の概要図

    NTTの掲げるカーボンニュートラルと人工光合成の研究開発の概要図(出所:NTT Webサイト)

人工光合成は、半導体や触媒などの無機物を用いて、すでに大気中に排出された(もしくはこれから排出される)CO2を、一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)などの有用な物質に変換して固定化する技術だ。同技術については世界中で活発に研究が進められているが、今のところ連続したCO2変換の試験時間は数時間から数十時間のレベルに留まっており、長時間化に向けた劣化抑制の技術の開発が強く求められている。

そうした中でNTTが進めているのが、半導体光触媒を用いた酸化電極と金属触媒を用いた還元電極で構成されている人工光合成デバイスの研究開発だ。その実用化に向けては、腐食などによる劣化を抑制し、長時間の反応に耐えうる長寿命な電極設計の実現が課題となっているという。

また人工光合成によるCO2変換は、水溶液中の溶存CO2をCOやHCOOHへ還元する手法が広く用いられているが、水溶液中に溶解できるCO2の量には限りがあり、副反応が起こりやすいというデメリットがある。そのため、CO2を選択的に変換する電極構造やデバイス設計が求められていた。

そこで同社では、長時間連続して気相中のCO2をより効率的に変換可能な人工光合成の実現を目指し、光をエネルギーとして利用するための長寿命な半導体光触媒電極と、気相のCO2を高効率に変換するために電解質膜と一体化した繊維状の金属触媒電極により構成した人工光合成デバイスを設計したという。

  • 人工光合成デバイスの概略図

    人工光合成デバイスの概略図(出所:NTT Webサイト)

なお今回の技術ポイントは、以下の2点だとする。

  1. 半導体光触媒電極の劣化反応抑制技術
  2. 気相CO2の変換技術

半導体光触媒電極の劣化反応抑制技術について、半導体光触媒として用いている窒化ガリウム(GaN)系電極は、GaN表面と水溶液の界面で生じる劣化反応の抑制が課題だったとのこと。そこで、GaN表面の凹凸をより滑らかにし、光を十分に透過する厚さ2nmの均一な酸化ニッケル(NiO)薄膜を保護層として形成することで、GaNと水溶液の接触を防ぎ、電極の劣化を大幅に抑制することに成功したという。

一方の気相CO2の変換技術については、従来の水溶液中に溶存しているCO2を変換する金属電極は板状の構造が主流だったのに対し、今回は、気相のCO2を変換するため、CO2拡散性の高い繊維状金属とCO2変換反応に必要なプロトン(水素イオン)を反応場に供給する役割を持つ電解質膜を一体化した電極構造を考案したとする。これにより、水溶液中に電極を浸漬させることなくCO2変換反応に必要なプロトンを反応場に供給できるようになり、気相のCO2の直接変換を可能にしたといい、これらの電極構造の工夫により、従来に比べ10倍以上のCO2変換効率が達成されたとしている。

上述した2点の技術が実現された人工光合成デバイスに対し、疑似太陽光を照射して気相のCO2変換試験を行ったところ、350時間連続してCO2がCOやHCOOHに変換されたことが確認されたとのこと。生成されたCOやHCOOHから算出された単位面積あたりの累積炭素固定量は420g/m2に達し、半導体光触媒を用いた人工光合成において世界最長クラスの350時間連続動作が実現されたとする。なおNTTによると、この検証による炭素固定量は、スギの木1本が1m2あたり約1年間で固定するCO2を上回る量に相当するという。

  • 光照射時間に対する炭素固定量の変化

    光照射時間に対する炭素固定量の変化(出所:NTT Webサイト)

同社は今後、より高性能な人工光合成反応を実現するために、電極での反応のさらなる高効率化、電極の長寿命化およびそれらの両立を目指すとする。また、実験室環境での検討だけでなく屋外での試験を通じ、太陽光エネルギーを用いたCO2を減らす技術の1つとして確立し、気候変動の抑制に寄与することで持続可能な社会の実現に貢献するとしている。