丸紅グループは、大きく変わる世界の中で永続する企業であり続けるために、「在り姿」として「Global crossvalue platform」を定めている。これには、同グループを「1つのプラットフォームとして捉え、さまざまなものを掛け合わせて新たな価値を創造する」との意味が込められているという。その実現のために、「ヒト・モノ・情報とのつながりを生む場」との考え方に基づいて、本社の移転・建替プロジェクトを推進してきた。

9月5日~8日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Sep. for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」に、同社 総務部 プロジェクト推進室 主任の森山秀一氏が登壇。2021年に移転が完了するまでのプロジェクトの経緯や新オフィスの概要、そして移転後の活動など、プロジェクト推進室の取り組みについて解説した。

タスクフォースを組成してプロジェクトを実行

森山氏ははじめに、本社の移転・建替プロジェクトの経緯について説明した。本社ビル建替の検討を開始したのは2013年。その際に新しいオフィスを経営戦略の1つと位置付け、社長直轄で発足した新社屋プロジェクト室が、今の同プロジェクト推進室へとつながっているという。

新社屋プロジェクト推進室は社内公募によりさまざまな営業部からメンバーを募っただけでなく、社内の知見を活かすために、専門的知識のある不動産開発部隊からもメンバーを集めた。また、同推進室を社員代表としたタスクフォースを組成。タスクフォースは、建物建築、運用構築、実施・検証の3つのフェーズごとに活動することとし、現在も継続して活動している。

  • タスクフォースの動きを時系列にまとめた図

第1期タスクフォースのスタートは2017年である。ここでは同グループの在り姿である「Global crossvalue platform」を実現するためにオフィスはどう在るべきかを検討し、ワークプレイスの軸となるコミュニケーション、エンゲージメント、効率という3つの要素を実現する方針を決めた。

2020年前半には新型コロナウイルス感染症流行の影響でリモートワークが定着した。そこでオフィスの座席をABW(Activity-Based Working)に変更し、出社とリモートワークのベストミックスを目指すことにしたという。

“withコロナ”の状況で同年10月から始まった第2期タスクフォースでは、オフィスの位置付けを改めて検討し直した。そこで、「オフィスとはヒト・モノ・情報とのつながりを生み出す場所」であると結論付けた。そして、その考えのもと新たなオフィスのコンセプトを「Chain」に設定。

森山氏はそのコンセプトをこう説明する。

「つながり、成長を生むワークプレイスとして、『Chain』と名付けました。新しいオフィスは、さまざまなものが集まるハブとなり、未来に向かって成長する場所を目指しています」(森山氏)

共創フロアにはギャラリーやホールも配置

2021年に建替を完了した新社屋ビルは地上22階、地下2階で、地下1階から地上5階を社外や地域の人たちが利用できる施設を置く「共創フロア」とし、6階より上がオフィスフロアとなっている。

共創フロアには、同社が収集してきた美術品を展示するギャラリーや、500人を収容可能なホールのほか、コミュニケーションラウンジ「Oasis」もつくられた。オフィスフロアでは、9階から20階までが執務スペースだ。座席にはABWを採用し、各フロアにはつながりを生むためのスペースとして「Circle」、「Huddle」、「Round」の3つの「場」を設けた。いずれも丸紅の“丸”にかけて名付けたものだ。

異なる特徴を持つ3つの「場」を各フロアに設置

Circleは部署ごとに割り当てられたグループアドレスのエリアで、組織内の状況やビジョンを共有するための場だ。森山氏は「組織の一体感を醸成する場」だと説明する。

Huddleは、目的意識を持って語らい、戦略立案するための場だ。これはアメリカンフットボールの試合中に次の戦略を決めるために組む円陣から名付けたものである。レイアウトを可変できる打ち合わせスペースを多数配置し、アイデアを共有して可視化できるようホワイトボードやモニターも設置。シェルフにはコミュニケーションのための仕掛けとして、部署ごとの特色に合わせて業界紙やサンプルを置けるようにし、他部署のビジネスを理解できるようにしている。

Roundは、多様性に合わせて選ぶ新しい価値創造の場だ。思考や創造を巡らせるためのスペースとして、五感を刺激する仕掛けを取り入れた。このRoundには「Morning Fresh」、「Magic Hour」、「Midnight Meditation」の3テーマの場があり、それぞれが居心地の良いシーンを選択できるようにしているそうだ。

例えばMorning Freshでは、気分を変えられるように観葉植物を数多く配置し、自然を感じられる素材を多く使っている。オリジナルブレンドのアロマも置かれ、鳥のさえずりなど自然の音が流れる。

Magic Hourはくつろげるリビングをイメージして大きなソファを置いた。あえて人工的なものを多く取り入れ、雑踏のサウンドを流す。

Midnight Meditationは落ち着いた真夜中のイメージで、和のテイストのアロマを置き、滝の音を流すなど、集中力を高められるようにした。こうしたさまざまなエリアを社員が自律的に選択することで、社員同士のつながり、アイデアや情報のつながりを生み、それが生産性を高めることにつながっているという。

  • テーマが設定された3つの執務エリア

課題も見つかった移転後の効果検証

移転後は、空間の雰囲気や視覚的な刺激が社内の風土や働き方にも変化を与えた。

アンケート調査では、移転前の2017年には約60%だったオフィスの満足度が87%まで向上。「働き方が柔軟になった」「出社するだけで気分が上がり、やる気が出る」などの声があり、社内の環境づくりが功を奏した結果となっている。

  • 社員アンケートで寄せられた声

また、現在の平均出社率は約70%で、9割の社員が「働く場所を自律的に選択できている」と回答している。

「自然に社員が集まる場所としてオフィスが認識されていることがこれに表れています」(森山氏)

一方、「ABWにより高い生産性で働けているか」を尋ねた調査では、課題も見つかった。「高い生産性で働けている」との回答は、移転前が30%、移転直後の2021年には60%に向上したものの、2022年には48%に低下したという。

ABWには、気分の切り替えやメリハリが持てること、最適な場所を選べるためパフォーマンスが向上するといったメリットがある。一方で、自然に耳に入る部署内の会話、挨拶や雑談から始まるコミュニケーションなどが減ったことをデメリットに感じる声もあった。移転による確かな手応えを得た中で、一方の課題も浮き彫りになった結果を受け、丸紅では移転後もオフィス環境の改善を行っている。

移転完了後にも継続的に改善活動

「オフィスはつくって終わりではない」と森山氏は強調する。新オフィスが正式稼働した後も、「Global crossvalue platform」の実現へ向けて、投資対効果の検証を行う必要があり、プロジェクト推進室は社員の創造性、生産性の向上を支援できる環境を作っている。

「継続的にオフィス環境の改善、適正化を行うことが重要です」(森山氏)

そのためにタスクフォースで行っている取り組みが「Workreation」だ。これはWorkとCreationを掛け合わせた造語で、効果検証や解決策の立案、他社オフィス訪問などをしている。この取り組みでは、初代タスクフォースで考えた前述のコミュニケーション、エンゲージメント、効率という3つの軸に基づき、課題の分析を行っているという。

まずコミュニケーションにおいては、他部署との連携やナレッジシェアなど、横のコミュニケーションや社外とのコラボレーションに関する課題を解決すべく動いている。エンゲージメントについては、上司と部下、自部署の同僚など縦のコミュニケーションにフォーカスを当てているそうだ。そして効率については、ABWによる場所の自律的な選択ができているか、ファシリティ/ICTツールが活用されているかといったことを検証していると森山氏は話した。

  • 丸紅グループの在り姿を実現するための取り組みとそのテーマ

「働く場所については、会社側としてバックオフィスのメンバーだけが考えていても、最適な環境は創れない」と同氏は力を込める。実際のユーザーである社員や社外パートナーなどと知恵を共有することも惜しまない。最後に森山氏はこうした活動から描く丸紅グループの展望を語り、自身の講演を締めくくった。

「新しいオフィスでの体験を通じてさまざまなつながりを拡げ、世の中に新しい価値を生み出していきます。それが丸紅グループのみんなでつくるWorkreationオフィスです」(森山氏)