沖縄科学技術大学院大学(OIST)は10月24日、沖縄を取り囲む亜熱帯の藻場とサンゴ礁において、体長1~2cmほどの世界最小のイカである「ヒメイカ」の新種として、「リュウキュウヒメイカ(Idiosepius kijimuna)」と「ツノヒメイカ(Kodama jujutsu)」の2種を新種記載したことを発表した。

同成果は、OIST 海洋気候変動ユニットのジェフリー・ジョリー技術員ら国際共同研究チームによるもの。詳細は、海洋生物学に関する全般を扱う学術誌「Marine Biology」に掲載された。

今回発見された新種2種の学名は、その外見と行動から、日本や沖縄の伝承をヒントに命名されたという。リュウキュウヒメイカの種名「kijimuna」は、沖縄のガジュマルの木に住むと言い伝えられている、背が低く赤毛の精霊「キジムナー」にちなんだものとする。このイカは、キジムナーと同様に体が小さく、体色が赤いことが特徴。大半の時間を生息地である浅瀬の藻場で過ごし、海草や海藻にくっついて生活している。

  • 海草に付着しているリュウキュウヒメイカ

    海草に付着しているリュウキュウヒメイカ (写真提供:Brandon Ryan Hannan氏、出所:OIST Webサイト)

一方のツノヒメイカは、属の段階からまったく新しく発見されたという。学術名のうちの属名の「Kodama属」は、豊かな森の古木に住むとされる丸顔の精霊「木霊」にちなんで命名されたとするほか、種名の「jujutsu」は、その捕食行動が「柔術」に似ていることに由来する。柔術は、日本より柔道がブラジルに伝わり、そこで発展した格闘技。ツノヒメイカは小さな腕で組み合い、自分より大きなエビを捕食するが、その様子が、組み合って相手の力を利用して倒す柔術の闘い方と似ているとするほか、腕を頭上に上げ、丸めるなど、格闘技のファイティングポーズを連想させる姿が観察されているという。

  • 腕を上げるツノヒメイカ(自然環境下で撮影されたもの)

    腕を上げるツノヒメイカ(自然環境下で撮影されたもの) (写真提供:Brandon Ryan Hannan氏、出所:OIST Webサイト)

また、今回の新種のイカを探すことも至難の業だったとする。2種とも「ヒメ(英語ではpygmy)」が付いた名にふさわしい小さな生物であり、調査した標本の中で最も大きなものでも、体長は12mmほどであったという。

さらに、2種とも夜間にしか活動せず、リュウキュウヒメイカに関しては、冬にしか姿を現しないという。それでも、リュウキュウヒメイカは比較的、見つけやすい浅瀬の海草藻場に生息しているため、これまで何度も捕獲され、間違って既存の種であると同定されたことがあるという。一方のツノヒメイカはサンゴ礁にしか生息せず、その体長も小指のツメほどの小ささだそうで、熟練した海洋生物写真家であっても見つけることは容易ではないという。

  • リュウキュウヒメイカ

    リュウキュウヒメイカ(自然環境下で撮影されたされたもの) (写真提供:ショーン・ミラー氏、出所:OIST Webサイト)

今回の2種の発見は、科学者と水中カメラマンの協力によって実現したとする。特に、水中画像家で自然愛好家のショーン・ミラー氏、OISTの浅田渓秋技術員、Brandon Ryan Hannan氏(ツノヒメイカの英語通称名「Hannan's Pygmy Squid」の由来となった)の3人が撮影に成功したことがきっかけで、種の分類と同定への関心が高まり、研究が可能となったとする。

なお研究チームでは、民間伝承に登場する精霊の名前に象徴されるように、今回の2種のヒメイカは、沖縄の自然環境と密接に結びついていると説明している。2種の生息地は、残念なことに人間の活動、特に気候変動による海水温上昇、サンゴの白化によって、脅威にさらされているとするほか、乱獲、埋め立てや土壌流出も大小にかかわらず、海洋生物のすみかを脅かしているとしている。

ジョリー技術員は今回の成果に対し、分類学が今後も重要であり続ける数ある理由のうちの1つだとする。「分類学はほかの科学の領域ほどは派手ではありませんが、種を命名し、その特徴を明らかにすることで、生物の驚くべき多様性を浮き彫りにすると同時に、我々の知らないことがまだまだたくさんあることに気づかせてくれます」とコメントしている。