「ChatGPT」が登場して、一般の人が生成AIを使うようになった。そこで注目されているのが、生成AIモデルにどのように入力するのかの「プロンプト・エンジニアリング」だ。

重要性が増すプロンプト・エンジニアリング

プロンプト・エンジニアリングとは、生成AIモデルに入力する「プロンプト」の実践だ。なぜそのような言葉が生まれたのか。Googleなどの検索で知りたい情報を調べるときに、検索バーにどのように入力するのかで得られる答えは異なるのと同じようにに、生成AIでも入力により答えが異なる。

McKinsey(マッキンゼー)のブログ「What is prompt engineering?」では、プロンプト・エンジニアリングの重要性、雇用との関係などについて調査を紹介しながら予想している。

「優れたプロンプト・エンジニアは、AIモデルからより良い回答を引き出すのに役立つ」としており、その重要性をパスタソースに喩えて、パスタソースを買ってくるのか、良い材料を用いて調理するのか、庭で採れた新鮮な食材を使って調理するのかで味が異なるのと同じ、と説明する。

例えば、A企業のCFO(最高財務責任者)を招いて開催するファイナンシャルプランニングのワークショップを宣伝する文句を生成AIに考えてもらうとする。どのようなプロンプトが考えられるだろう?

1つ目は「ワークショップを宣伝するSNSの投稿文を作成してください」、2つ目はより具体的に「A社のCFOを招いてファイナンシャルプランニングを開催することを宣伝するSNSの投稿文を作成してください」だ。

1つ目では「このワークショップでは、[ワークショップのテーマや内容] を学び、新しいスキルを身につけるチャンスです。楽しく学びながら、[ワークショップのメリットや特徴] を体験しましょう!」というメッセージを生成、ハッシュタグとして「#ワークショップ #学び #クリエイティブ」と提案してくれた。

2つ目では「A社のCFOが、私たちの次回のファイナンシャルプランニングイベントに特別ゲストとして参加します。財務のプロによる知識と洞察を手に入れ、将来に備えましょう」というメッセージ、ハッシュタグは「#ファイナンシャルプラン #財務 #CFOの知恵」と提案した。

ほぼすべての仕事を支援できる

ここからも、より詳細かつ具体的なリクエストをした方がアウトプットは優れていることがわかる。これが、プロンプト・エンジニアリングだ。ではスキルとしてのプロンプト・エンジニアリングはどうか?

その前に、生成AIの重要性を見てみよう。McKinseyの調査によると、生成AIは営業、マーケティング、顧客向けの業務、ソフトウェア開発など、さまざまな分野でパフォーマンスの向上が期待されており、最大で年間4.4兆ドルを世界経済にもたらす可能性があるという。

労働への影響としては「ほぼすべての仕事を支援できる」とする一方で「時間にして最大70%の従業員の労働を生成AIが自動化できる可能性がある」とのことだ。一般的に高い賃金で高い学歴を必要とする知的な労働に与える影響が大きく、しかもその変化は急速に起こる可能性が高いとも指摘している。

現在の労働活動の半分が、2030年から2060年の間に自動化されるとMcKinseyは予想し、同社がその前に出していた予測よりも、ざっくり10年早まるのだという。

生成AIは2040年までに最大で年間0.6%の労働生産性を増加させる可能性があるが、これは組織がいかに早くテクノロジーを導入し、労働者の時間を効果的に再配置できるかにかかっている。

自動化されるスキルを持つ従業員は、新しいスキルを習得する(リスキリング)支援が必要となるし、職を変える支援が必要な人も出てくると予想している。

一部企業では雇用を変更させつつある

では、生成AIを上手に使うプロンプト・エンジニアリングのスキルはどうか?同社の調査では、すでに企業の中には生成AI時代に向けて雇用を変更させつつあるという。

生成AIを活用する企業のうち7%がプロンプト・エンジニアリング分野の人材を採用している。また、AIを活用する企業はAI関連のソフトウェアエンジニアの採用を減らしていることにも言及している。「AI関連のソフトウェアエンジニア分野を採用しているという企業は2022年は28%、これは2021年の39%から10ポイント減少するとの見立てだ。

プロンプト・エンジニアリングは今後数年で大きな採用カテゴリになる可能性もあるが、既存の従業員をリスキルすることで補う可能性も示唆している。AIを活用する企業の10社に4社が自社の労働力の5分の1以上をリスキルすると回答しており、従業員の規模を5分の1以上減少させると回答したのはわずか8%だったという。

さらに、プロンプト・エンジニアが必要になることを、銀行を例に取って説明している。銀行は、リレーションシップ・マネージャー(RM)の生産性向上を目的に、APIを使って生成AIの基盤モデルにアクセスするアプリケーションを構築することにした。RMは普段、顧客のために企業の年次報告書や決算説明会の議事録など膨大な文書を読むのに膨大な時間を費やしている。このアプリケーションに問いかけることで、回答をすぐに得られるようにするのだ。

そのために、銀行はRMにプロンプト・エンジアリングのトレーニングを行う。合わせて、ハルシネーション対策として検証プロセスも設ける。

実際に2023年9月、大手金融機関のMorgan StanleyはGPT-4を使ったAIアシスタントの導入を開始した。ここでは、数万人規模のウェルスマネージャーが社内の膨大なナレッジベースからデータを組み合わせて、得たい情報を得られるようにするという。欧州の銀行でも、ESG(環境・社会・ガバナンス)に特化したバーチャルエキスパートを開発しているという。