東京大学(東大)、東北大学、神戸大学、国立天文台(NAOJ)の4者は10月23日、これまでの銀河形成シミュレーションでは、超新星爆発を組み込むと計算コストが極端に増大してしまい、「富岳」のような最新のスーパーコンピュータを用いても銀河内での超新星爆発の影響を直接的に計算するのは困難だったが、従来のシミュレーションに替わり深層学習を用いて超新星爆発の広がりを予測する手法を新たに開発したことを共同で発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の平島敬也大学院生、同・藤井通子准教授、同・理学系研究科 物理学専攻の森脇可奈助教、東北大大学院 理学研究科 天文学専攻の平居悠 日本学術振興会特別研究員-CPD(国際競争力強化研究員)、神戸大大学院 理学研究科 惑星学専攻の斎藤貴之准教授、同・牧野淳一郎教授、モルフォらの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
超新星爆発が分子雲中で発生すると、大量のエネルギーでガスを押しのけることで新しい星の形成を阻むのと同時に、一部のガスを加速させ乱流を駆動することで新しい星の形成を促進すると考えられている。そのため、超新星爆発の影響を正確に理解することが銀河の形成・進化過程を解明する上で不可欠となっている。
銀河は多数の星、ガス、ダスト(塵)、およびダークマターなどで構成されておりその結果、超新星爆発以外にも、重力や流体の動き、冷却など、さまざまなプロセスによって進化が駆動される。これらの相互作用を単純な方程式だけを使って説明するのは困難であるため、これまで数値シミュレーションにより研究が進められてきた。
そうしたシミュレーションでは、銀河全体の約10万光年という巨大スケールから、数光年単位の細かなスケールまでを対象に計算が行われている。しかし、天の川銀河のような大型銀河の全体をシミュレーションする際に、超新星爆発の詳細な影響を再現するのは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いても、計算量や効率性の観点から非常に難しい課題だったという。そこで研究チームは今回、深層学習を用いた動画生成技術を活用し、3次元数値シミュレーションの結果を高速に再現する新型モデルを開発することにしたという。
今回開発された新型モデル「3D-MIM」では、銀河形成シミュレーションの中でも多くの計算資源を必要とする超新星爆発の部分を、高速に再現することが可能だ。特に、分子雲内で起こった超新星爆発に伴うシェル構造が膨張し密度が変化する様子を、高速に再現することができるという。
また同モデルを使用すると、超新星爆発の影響を直接受ける可能性のある領域の大きさを事前に予測することが可能だ。その結果、計算上の遅延を引き起こす可能性のある特定のエリアを事前に特定し、そこに特化し最適化されたアルゴリズムで計算を行うことで、計算効率を大幅に向上させることが期待できるとする。
同モデルは、大規模な分子雲内で超新星爆発を発生させたシミュレーションを教示データとして大量に学習済みだ。同教示データの作成は、NAOJの天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイll」が用いられ、モデルの学習には東大スーパーコンピュータ「Wisteria/BDEC-01 Aquarius」が用いられたほか、モデルの推論の最適化は「富岳」で実施され、富岳での推論高速化にはモルフォ製の深層学習推論エンジン「SoftNeuro」が用いられたとした。
今回の研究で開発された新しい深層学習モデルは今後、銀河形成シミュレーション・コード「ASURA-FDPS」に組み込まれる予定だ。また「富岳」上では、深層学習モデルの最適化作業も進められている。なお、今回の新たなアプローチにより計算が効率化されると、円盤の直径がおよそ10万光年にも及ぶ天の川銀河のような大型銀河に属する1つ1つの星の動きまでも、詳細に再現するシミュレーションが可能となるという。
また今回の研究では、深層学習の推論速度の向上が実現された。さらに「富岳」を用いた実験では、今回開発された新技術によって計算の効率やエネルギー消費の面で大きな改善が実現されたという。今後もスーパーコンピュータ「富岳」や深層学習などの先進技術を天文学研究に応用していく中で、学術・産業の連携の強化と技術の発展が期待されるとした。