マネーフォワードグループのスマートキャンプは10月18日、オンラインとオフラインのハイブリッド形式で「SaaS業界レポート2023」をもとにした業界トレンドに関する、メディア向け勉強会を開催した。
国内SaaS市場は2027年度に2兆円超へ
同レポートは10月3日に発刊しており、SaaS活用の促進やビジネスの発展を目的に国内外のSaaS業界の概況についてまとめており、今年で7年目を迎える。今年はユーザー企業の動向ページを増強したほか、カオスマップをアップデート。
まず、スマートキャンプ 取締役執行役員COO(最高執行責任者)の阿部慎平氏は、同レポートのポイントとしてSaaSの市場規模、利用数のアンケート、カオスマップ、資金調達、ビジネストレンド、生成AIを挙げた。
阿部氏は「国内のSaaS市場は年平均成長率11.7%で拡大し、2027年度に2兆円超の見込みだ。2022年度に61%だったSaaS比率は2027年度には73.1%に増加することが予想されている。一方、世界のSaaS市場規模は2023年は1973億ドル、2024年には2323億ドルに拡大する見通しとなっている」と述べた。
日本の地域別SaaS導入率は全国平均が34%、関東は45%、近畿は33%と両地域のみが30%を超えているが、北海道や東北、中部、中国、四国、九州・沖縄は30%以下となっており、SaaS利用の格差が広がっている。
同氏は「特に各SaaS企業が成長を追う中で平均単価を向上させるためエンタープライズの開拓がテーマになるが、こうした動きは地方が取り残されてしまうことが懸念されるため、SaaS業界としてどのように向き合うかが問われている」との見解を示した。
従業員規模が大きいほどSaaSの利用数も多い
1社あたりのSaaS利用数は「1~5個」との回答がもっとも多く、「6~10個」を合わせた10個以下が全体の4分の3を占め、従業員規模別の利用数は1000人を超えてくると30個以上、50個以上利用している状況だ。阿部氏は「SaaSの利用が増加すると、SaaSを管理するツールが重要となり、セキュリティが従来以上に重要となる」と指摘。
カオスマップには従来からの特定の部門・機能に特化したホリゾンタルSaaSに加え、特定の業界に特化したバーティカルSaaSを今回のレポートから掲載している。
これにより、カオスマップへの掲載数はホリゾンタルSaaSが1202、バーティカルSaaSが346の計1548となり、成熟市場では淘汰が進む一方で、既存製品のSaaS化や新たなカテゴリの成長などから全体として増加した。
さらに、バーティカルSaaSの掲載に加え、サステナビリティの新設や帳票カテゴリの見直し、セールス関連カテゴリの拡充、セキュリティカテゴリの再編を行っている。
こうした新設やカテゴリの見直し、拡充、再編を進めたのは国内における制度変更、法改正が背景にある。
2023年度は人的資本の情報開示や10月にはインボイス制度の開始、2024年1月は電子保存の義務化、同3月末に業務特性上、猶予期間が設けられていた業種に対する残業規制猶予期間が終了となる。阿部氏は「制度の後押しもあり、HRや請求書発行・受領などが伸びており、法改正はSaaSの導入意向に大きな影響を与える」と説明した。
国内SaaSスタートアップの資金調達については、2022年における調達額が前年(1755億円)を上回り2063億円となったものの、調達社数は前年の296社から259社に減少。1社あたりの資金調達額は2022年は平均値が前年比で38%伸長し、60%以上増加した。
政府もスタートアップの育成に本格的に着手する意向を示しており、昨年1月には「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、投資額5年で10倍にする目標を掲げている。
SaaS企業のビジネストレンドと生成AI
SaaS企業のビジネストレンドとしては、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)とARR成長率について紹介した。今回、SaaSの中央値はARRが65億円、成長率が27%となり、ARRが100億円を超える企業も含めて全体として高い成長率を実現し、ストックモデルの成長性の高さがうかがえるという。
阿部氏は「特に特徴的なのがARRが100億円~300億円のレンジの中でもマネーフォワードとfreee、ラクスに関しては成長率が30%以上となっている。インボイス制度の動きや時価総額が評価されたタイミングで調達を行い、先行投資をして従業員を増員し、セールスレッドグロース(SLG)を伸ばすとともに成長率も伸ばしている」と話す。
また、同氏は「成長率を維持していくという観点では顧客単価が高い企業にアプロ―チすることでARPA(平均顧客単価)を向上し、解約率を改善することが重要。これにより、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図ることが可能になるほか、機能アップデートで提供価値が向上するためLTV最大化に向けて料金改定もSaaS企業で活発に行われている」と説く。
生成AIに関しては、コミュニケーションやバックオフィス、分析、営業マーケティングなどの領域で活用されている。コミュニケーションではチャット関連ツールへの搭載、バックオフィスでは検索、要約、分析についてはレポーティング、営業マーケティングはメール作成の自動化などで実装されている。
阿部氏は「2023年初頭にOpenAIのChatGPTが盛り上がってきた時期に各社がリリースを出し、今後は機能として本当に使えるか否かのフェーズに入るため、今後も注目していきたい」と最後に締めくくった。