マイクロソフトは10月17日、同社の教育分野における最新の取り組みについて紹介する説明会を実施した。2025年ごろに本格化する文部科学省のGIGAスクール構想におけるICT環境の更新(Next GIGA)に向けた、Windows PCやAIを含むクラウドサービスなどに関する同社の文教ソリューションと取り組みが紹介された。
今回の説明会には、日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセンター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏と、同 業務執行役員 デバイスパートナーセールス事業本部 事業本部長の佐藤久氏が登壇し、説明を行った。
ICT活用で生徒の学習意欲は低下の傾向?
はじめに登壇した中井氏は「日本の教育改革をGIGAで定着させるために」というテーマで、GIGAスクール構想を進める上での課題や解決策を語った。
ここで語られる「GIGA」とは、「Global and Innovation Gateway forAll(すべての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉)」の略称で、義務教育を受ける児童生徒のために、1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備するための計画のことだ。
「2020年にGIGAスクール構想が国策として行われました。このタイミングで、900万台を超えるPCが日本の教育市場に入ったと言われています。その中で、マイクロソフトのソリューションについては、約3割の方にWindowsを採用いただいているほか、高校市場では5割~6割の学校に採用していただいているなど、多くの教育機関で活用いただいています」(中井氏、以下同)
全国でGIGAに関する整備が進む中、学校でのGIGAの定着のためには、解決するべき課題も多いという。中井氏は、その課題について「自治体」「教職員」「児童生徒」という3つの立場から見た現状を語った。
「自治体の課題という面で見ると、『予算に限りがある』という課題が挙げられます。これにより、ICT支援員が十分に配置できないといった現状もありますし、必要なツールや教材を満足に購入できないといった声も寄せられています」
また、教職員の立場で見ると「忙しさ」に関する課題が散見されるという。2022年度に文部科学省が行った「教員勤務実態調査」では、月45時間を超える残業をしていた教員は、小学校で64.5%、中学校で77.1%にも上るということが判明したという。日常業務に加え、ICTという新しいものが増えたことによる負担が大いに考えられ、業務効率化が叫ばれているそうだ。
また、児童生徒の課題は「学ぶ楽しみの減少」だ。GIGAスクール構想で、ICTによる新しい学びは得られているものの、一方で精神的な幸福度や学習意欲に関しては低下の傾向も見られているという。
ユニセフが2020年に刊行した「子どもたちに影響する世界」の調査では、精神的な幸福度は38か国中37位という結果も出ており、心のケアや学ぶ楽しみの提供が重要であるとのことだ。
自治体・学校・生徒「三位一体の改革」を進める
上記のような課題を解決し、定着を進めるには「三方よし」を目指すことが理想的であると中井氏は語る。同氏は「この3年で特に強く感じているのは、自治体・教職員・児童生徒の3者全員がGIGAによって恩恵を受けられる『三方よし』の体制を整えることの重要性です。その実現のためには『三位一体の改革』が必要だと考えております」と話す。
そして、三位一体の改革に向けてマイクロソフトとしてもさまざまな教育ソリューションでアプローチしていきたい考えだ。
まず自治体の「学校での働き方改革」に向けては、クラウドベースで安全に、場所と時間を選ばない働き方を提供し、教職員の「先生の教え方改革」では、学びの進捗の見える化と個別最適な生徒へのサポートを実現するまた、「子どもたちの学び方改革」では、学習に対する関心、やる気を向上させるとともに、心のケアを進める。
特に、Microsoft 365 Educationに搭載されている学習ツール「Learning Accelerators」を活用することで、生徒の学習の進捗、心の状態、生徒とのつながり、デジタル利用時間などの見える化が実現するという。
これによって先生は各生徒の学習進捗を細かに把握することができ、パーソナライズされた指導を実施できるほか、生徒は心のケアだけでなく学校でも自宅でも、自ら学ぶ楽しさを実感することが可能になるとのことだ。
Learning Acceleratorsの活用で「アシスタントティーチャーが20人」
Learning Acceleratorsは、「Progress(先生向け)」「Coach(生徒向け)」のツールを利用可能となっている。
サービスの構成としては、音読や計算、心の健康のモニタリングといった「基礎的な学習をサポートするもの」、情報リテラシーやプレゼンテーションスキルなどの「将来のスキルを育てるためのもの」、そして生徒のあらゆる学習の進捗を先生に共有する「学習ログ」といった3つで成り立っている。
ツールの使用方法の流れとしては、先生がProgressで課題や宿題を生徒にアサインし、生徒はその課題をCoachと一緒に練習し、完成させて提出する。そして、先生はProgressで生徒の提出した課題を確認することで、生徒1人1人の進捗をクラス全員分把握することが可能になるという。
中井氏は「すでに日本でも多くの先生が教育効果を実感しはじめています。米国の学校のとある先生からは、『このサービスを使うことで教室にアシスタントティーチャーが20人もいるような感覚だ』との評価もあり、今後より一層の波及を行っていきたいと考えています」と、今後の普及拡大に言及した。
最後に中井氏は、以下のような言葉で会見を締めくくった。
「改めてGIGAが日本の教育に根付くには『三方よし』が重要です。そして、NEXT GIGAでは、『より早く』『より軽く』『より便利に』にさまざまなツールを使えるように、今後の整備を整えていきたいと考えています」