大阪大学(阪大)は10月11日、異なる距離にある被写体を一度の処理で鮮明に映し出すことができる新型レンズレスカメラを開発したことを発表した。

同成果は、阪大 産業科学研究所 複合知能メディア研究分野のJosé Reinaldo Cunha Santos A V Silva Neto大学院生、中村友哉准教授、槇原靖教授、八木康史教授らの研究チームによるもの。詳細は、米・IEEEが刊行する科学誌「IEEE Transactions on Computational Imaging」に掲載された。

従来のカメラからレンズを取り除いた工学設計により構成されるレンズレスカメラは、より薄型で軽量なカメラを作ることができる革新技術だ。

レンズレスカメラはレンズを持たないため、通常のカメラのように対象物をはっきりと捉えることはできない。そこで同カメラでは、レンズの代わりに画像再構成処理を行うことで、被写体を画像化する。この画像化を容易にするため、一般的にはイメージセンサの前に符号化マスクと呼ばれる板状の物理素子が配置されるという。

しかし、画像化において重要な画像再構成処理に必要となる、カメラの結像特性を示す「点像分布関数」は、対象物との距離によって変わるため、従来技術では一定の距離でしかピントの合った画像を得ることができず、他の距離にある物体はぼやけてしまうという課題があった。そのため被写界深度が制限され、一度の再構成処理で広い空間範囲を鮮明に映し出すことは困難だったとする。

そこで今回研究チームは、新型のレンズレスカメラの開発に着手。そして、回転方向のみにパターンを持ち径方向にはパターンを持たない「放射状符号化マスク」を光学系に導入することで、異なる距離にある被写体を一度の処理で鮮明に映し出すことに成功したという。この新しいアプローチにより、一定の距離範囲にしかピントを合わせられないというレンズレスカメラの課題を解決したとしている。

  • 放射状符号化マスクを用いたレンズレスカメラによる被写界深度拡大イメージング

    放射状符号化マスクを用いたレンズレスカメラによる被写界深度拡大イメージング(出所:大阪大学)

研究チームによると、今回開発されたレンズレスカメラは、多様な距離に存在する被写体を一度の処理ではっきりと撮影することができるとともに、放射状符号化マスクの構造最適化によって画質も向上したとのこと。実機を用いた撮影実験でも、深い距離範囲で被写体を明瞭に捉えられることが確認されたとする。

今回の成果により、被写界深度が深い薄型カメラの開発が可能となり、被写体が深い奥行きを持つ場合や、カメラに対して近距離に物体が存在するような撮影状況においても、薄型デバイスでの明瞭な画像化が期待できるという。研究チームは今回の技術について、医療用カメラや工業検査用カメラなどさまざまな分野での応用が期待されるとしており、阪大の中村准教授は「指紋認証などの接写が必要となる小型撮像システムにおいて特に役立つと考えられる」とのコメントを残している。