コロナ禍で急速に広まったテレワークだが、新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行されたことを受け、今後どのような働き方が正解なのか、悩んでいる企業も多いだろう。
9月5日から8日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Sep .for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」に、パソナ セールスサポート・オペレーション本部 リンクワークスタイル推進統括/ゼネラルエキスパートの湯田健一郎氏が登壇。政府・東京都のテレワーク推進特区施設である東京テレワーク推進センターの統括責任者や、総務省のテレワークマネージャーなどを務める立場から、技術の活用、制度や環境の整備など、これからのテレワークをどう考えれば良いかを解説した。
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コロナ禍前後でテレワーク実施率は倍増
湯田氏は講演冒頭で、2023年3月に実施された調査の結果からテレワークの現状を解説した。それによれば、約半数近くがコロナ禍以前と比べて「働きやすくなった」と回答している。その要因として最も多く挙げられたのは、在宅勤務やリモートワークがしやすくなったことである。また、テレワークを実施している企業がコロナ禍前後で非常に増加したことも分かった。最近になって出社回帰傾向があるという報道も増えているが、コロナ禍以前と比較すれば、テレワーク実施率は倍増しており、時間単位の部分在宅を実施する企業も増えているそうだ。
テレワークには、終日在宅勤務だけでなく、1日のうち数時間だけを在宅にする部分在宅や、移動先のカフェなどでのモバイルワーク、サテライトオフィスの利用なども含まれる。湯田氏は、「在宅勤務だけをテレワークと考えてしまうと、適用範囲を狭く見誤ることになる」と指摘した。
また、社内では対面でのコミュニケーションが増えているという企業でも、社外に対してはオンラインや、オンラインと対面が混在するハイブリッドでコミュニケーションを行う場合が多い。こうした状況で、自社だけではなく社会とどうコミュニケーションをとるか、その中でどのように環境整備をするのかといったことを考え直し始める企業も増えているという。
「オフィスvs自宅ではなく、オフィスorリモートという考え方で、環境や制度の整備をしましょう」(湯田氏)
個人と組織の成長を両立させる制度設計が必要
労働者を対象とした調査では、若年層はテレワークを重視する傾向が強いものの、出社に意義を感じている人も多いことが分かったと湯田氏は明かす。ただし、約66パーセントが出社によって「生産性が向上した実感はない」と答えているほか、通勤があることやプライベートな時間が取りにくくなることで「ストレスが増加する」と答えた人は78パーセントにもなる。さらに、ハイブリッドワークでは「連携が必要な社員と出社タイミングが合わない」「フリーアドレス化したことで相手の居場所が分からない」といった問題も生じているとう結果が出ている。
これらを考えると、完全に出社前提での働き方に戻るのではなく、個人の成長とチームの成長を両立するような働き方を選択できる制度設計をすることが必要だ。部下や上司がどういう働き方を希望しているのか整理しながら、「人に合わせて有効なコミュニケーションや働く環境を整備することが重要」だと同氏は語った。
技術やツールの活用でテレワークの課題を解決
テレワーク導入の基本プロセスは、業務を見直した上で、ICTによる環境整備を行うと同時に、社内における意識改革を行うことが推奨されている。まずはやってみてから改善点を洗い出し、PDCAを回すことが望ましいかたちだ。しかし、コロナ禍でテレワークを緊急導入した企業の多くは、ICTを導入しただけで環境整備ができたと考えてしまっていたと湯田氏は指摘する。
テレワークに必要な設備には、仮想デスクトップやリモートデスクトップ、VPNなどの「テレワーク環境」、ビジネスチャットやファイル共有、Web会議、コールシステムなどの「コミュニケーション」、いつ声をかけて良いのか、どれくらい働いているのかといった労務管理や健康管理などの「マネジメント」と、大きく3つのブロックがある。この3つを基にして、「自社にあった各ツールの上手な組み合わせ活用が大切」だと湯田氏はアドバイスした。
例えば、コミュニケーションについては、臨場感を持たせるため、資料だけでなく、顔がはっきりと見えるようにするといった工夫が必要になる。身振り手振りを見せる、雑音を除去して聞きやすい音を送り出すといったことも有効だ。こうした課題は、AIによる色補正で印象を変えられる機能や、AIノイズキャンセルなどの技術的支援で解決できる。
さらに、骨伝導スピーカーや肩掛けの指向性スピーカーもある。会議室がうるさいからといって防音ブースをつくらなくても、こういったソリューションで安価に解決することができるのだ。フリーアドレスの場合も、ビーコンにより在籍位置を示せる機能を用いたり、メタバースを活用したりする事例もあるという。また、基本となるグループウェアやファイル共有といった情報共有基盤を導入している企業は多いが、機能をしっかりと使いこなすことも肝要だと同氏は述べた。