数多くの景勝地や世界遺産などを持つ観光地として人気の和歌山県は、コロナ禍以前の2017年から全国に先駆けてワーケーションの取り組みを行っている。9月5日から8日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Sep. for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」に、和歌山県 観光振興課 主査で、県のワーケーション推進を担当する小西健介氏が登壇。地域の特徴やワーケーションの考え方など、これまでの同県の取り組みについて話した。

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企業をターゲットに、ポジティブな影響をアピール

ワーケーションには、休暇型と業務型があると言われている。休暇型は観光地などで余暇を楽しみながらテレワークを行うもので、個人単位での休暇を目的としたものが基本だ。これに対して業務型は仕事をメインとし、職場のメンバーと合宿を行う、地域課題の解決を地域と共に考えるといったスタイルである。和歌山県はこの業務型、つまり企業で取り組むワーケーションを主なターゲットとして推進している。

  • ワーケーションの分類と、和歌山県のターゲット

ワーケーションを浸透させるには企業の理解と対応が不可欠であるため、同県ではワーケーションを企業の課題解決のツールとして活用できることをアピールしていると小西氏は説明する。実際に、モチベーション向上やメンタルヘルスの充実、チームビルディングの取り組み強化といった目的で、合宿や研修のようなかたちでワーケーションに取り組む企業も増えているそうだ。

ワーケーションが企業にポジティブな影響を与えることは、県主催で実施した効果検証型のワーケーションファムツアーで実証されている。集められたデータを分析し、東京での在宅のテレワークと和歌山県内でのワーケーションを比較すると、生産性の評価指数がワーケーション中には22.5%、ワーケーション終了後でも20.1%向上したという。また社員の活気を示すデータが期間中に33.9%、終了後に20.8%向上し、地域愛着度は期間中59.8%、終了後には66.3%向上した。

アクセスの良さや取り組み実績が強み

小西氏は、和歌山県がワーケーションに適している理由として、まず首都圏からのアクセスの良さを挙げた。関西国際空港と南紀白浜空港は、どちらも東京国際(羽田)空港から約1時間である。関西国際空港から和歌山市までは車で約40分、南紀白浜空港から白浜町の中心部までは車で約5分という近さだ。また、ハード面で受け入れ体制が充実していることも大きい。人口あたりのWi-Fi整備数は全国2位(2018年調査)となっているし、ワークプレイスや宿泊施設が充実し、「多様な利用に応えられる」(小西氏)のだという。

また、和歌山県は2001年からIT企業の誘致を積極的に行っており、県内にIT企業が多数進出している。その結果、官民が連携した実証実験など先進的な取り組みの実績があるのも有利な点だ。実際に和歌山でワーケーションを経験した企業の中には、IT企業との接点を持てたことを評価するところもあったと小西氏は明かす。さらに、世界に誇る観光資源もある。県内には海、山、川といった豊かな自然があり、高野・熊野が「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産登録もされている。これらを含め、同氏は「ワーケーションには絶好の立地」だとした。

コーディネーターがビジネス目線でプランを提案

しかし、こうした魅力があるだけではワーケーションを呼び込めない。そこで和歌山県では「Wakayama Workation Networks」という制度を創設。ワークプレイスや宿泊施設、アクティビティなど、現地でのワーケーションのプランをコーディネートできる事業者に登録してもらい、WEBサイトで包括的に検索できるようにした。

小西氏は、民間事業者の中でも特に重要なのがコーディネーターだと言う。首都圏や都市部の人と地元の人とでは、考え方が異なることがあるが、コーディネーターがその間を取り持つことで、双方が納得してワーケーションに臨めるためだ。過去には、地元の事業者が都市部の人に満足してもらうために、豪華な食事や体験プログラムを盛り込んだプランを検討していたことがあったと同氏は続ける。しかし企業側はコストをできるだけ抑えたいという意図がある。そこでコーディネーターのアドバイスにより素泊まりのプランをつくったところ、ビジネス目的での利用が増加したそうだ。

「このように、企業のニーズをヒアリングした上で、コーディネーターがビジネス目線でプランを提案する。それが和歌山県ならではの特徴です」(小西氏)

和歌山県では、目的別ワーケーションの提案も行っている。主に企業課題をローカル素材で解決することを軸として、地域課題解決型、地域DX型、SDGs型、リゾートワーキング/グループ合宿など、7つの目的ごとにプランを用意。例えば、地域の施設に導入した「顔認証おもてなしサービス」を活用することでDXの実証実験を体験できるプログラムや、身をもってSDGsを体感できる研修などがある。これらに共通するのは、観光色を薄めにしていることだ。

「観光が目的になると企業はワーケーションに消極的になります。このように企業目線を徹底しているのも和歌山県の特徴です」(小西氏)