KPMGジャパンは9月27日、「テクノロジーを活用した消費者の購買支援ツールに関する調査」を発表した。同調査は消費者に提供されている各種購買支援ツールに関する状況を、企業、消費者の双方へアンケート調査したもの。その結果を基に、企業側のツールやサービスに対する現状の取り組みと、消費者側が求める水準とのギャップなどの特定・分析を行っている。

記者発表会では、調査の概要とともに、調査項目となった7つのテーマについて、それぞれの特長や課題、企業が取り組むべき方向性などが示された。

コロナ禍で進んだテクノロジー活用は、アフターコロナでも通用するのか

冒頭登壇したKPMGジャパン消費財・小売セクター 統轄パートナー/KPMG FAS Turnaround & Restructuring Team 執行役員パートナーの伊藤勇次氏は、今回の調査の背景について説明した。コロナ禍の約3年間で、小売業や消費者へ直販をするメーカーの多くがテクノロジーの導入を進めた。しかし今後、アフターコロナと言われる時代を迎えるにあたり、「コロナ禍で進めたテクノロジーがそのまま適応し得るものなのか」「消費者の購買変化に基づくニーズに合致できるものなのか」が議論の争点となる。検討にあたり、「このような調査の結果と、我々の示唆が有用になるのではないか」と同氏は語る。

海外動向も踏まえた7つのテーマで調査

今回、調査対象となったのは、企業側は国内で小売業および消費者への直販を行うメーカー、消費者側は20代から70代以上までの6セグメントである。

  • 「テクノロジーを活用した消費者の購買支援ツールに関する調査」の調査概要

調査項目には以下の7つが選定された。

  • 1. レジ機能の省人・無人化
  • 2. ウェブルーミング
  • 3. ネットスーパー・ネットコンビニ
  • 4. パーソナライズされた販促
  • 5. トレーサビリティ
  • 6. BOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)
  • 7. 非デジタル系サブスクリプションサービス
  • KPMGジャパン消費財・小売セクター/KPMG FAS Global Strategy Group 執行役員パートナーの梶川慎也氏曰く、これらの項目は海外などの動向も含め、ダイレクトな販売シーンにおいて、テクノロジーが顕著に活用されている分野から選定したのだという。

    各項目の詳細については、KPMG FAS Global Strategy Group シニアアソシエイト/KPMG FAS 消費財・小売セクター担当の近藤隼人氏が説明を行った。

    • 調査結果から見る各項目の利用経験と、企業側の対応の優先順位

    消費者にも広がるレジ機能の省人・無人化

    レジ機能の省人・無人化について近藤氏は、セルフレジ、完全キャッシュレス決済のいずれも8割以上の消費者が利用経験、利用意向があることを示した上で、「消費者に問題なく受け入れられている」と説明する。それに対して企業側では、まだ限定的に導入されている状態だという。課題となっているのは導入コストの高さだと言うが、人件費の高騰や人材不足などの対応という面からも、近藤氏は、企業側に積極的に取り組みを進めることを推奨した。

    フリーライド行動に課題があるウェブルーミング

    実店舗への来店前に、オンラインで商品を検索し、情報収集することを指す「ウェブルーミング」も、消費者側は約5割が利用経験があり、未経験者でもその内の約6割が利用意向を示している。企業側も、消費者の購買行動の多様化に対応し、実店舗とオンラインの導線改善を進めているところが多いと近藤氏は言う。

    ただし、注意すべきなのは、フリーライド行動が発生するケースがあることだ。フリーライド行動とは、消費者がオンラインから実店舗へチャネルを切り替える際、自社から他社へ移ってしまうことをいう。チャネルの切り替えが増えるほど、フリーライド行動が発生する可能性も高まるため、企業側は顧客接点を継続的に保つといった施策を検討する必要があるとした。

    • ウェブルーミングの形式とフリーライド発生のポイント

    企業の投資は積極的だが、現状の需要は低いネットスーパー・ネットコンビニ

    コロナ禍で一気に広まったイメージのあるネットスーパー・ネットコンビニについては、意外な調査結果が出ている。企業側、特に大手では需要を見越し、店舗出荷型からより大規模な倉庫出荷型に切り替えるところもあるなど、積極的な投資が進んでいる。しかし、消費者側の調査からは、利用動向がネットコンビニで約3割、ネットスーパーは約1割という結果が出ており、利用率の低さが目立っているのだ。

    こうした結果に対し、近藤氏は「アフターコロナで、宅配のニーズは減っていくのではないか」と推測する。そのため、企業側は「能動的にニーズのあるところに消費者を捕まえにいかなければいけない」(近藤氏)のだという。ただ、調査からは若年層×高所得者層の利用経験・利用意向が高いことが分かっており、「従来実店舗のメインターゲットであった30~40代の女性以外の層へのアプローチに可能性が見出せるのではないか」と見解を示した。

    パーソナライズされた販促は消費者に不評 – その原因は?

    パーソナライズされた販促の項目では、企業側は各社で取り組みが見られるものの、消費者側は利便性を感じる人よりも、「従来の広告で十分」、さらには「嫌悪を感じる」というネガティブな声が多いという結果が示された。ここでの企業側の課題は、個人情報データがきちんと取れておらず、パーソナライズの精度が甘いことにあると近藤氏は言う。

    一方の消費者側は、個人情報の提供に抵抗を感じている。そこで同氏は、企業側が取得すべき消費者のデータを適切に選択することや、消費者がデータ提供への納得感を持てるような取り組みを進めることが重要だとアドバイスした。

    欧米では広がるも、日本では普及が進まないトレーサビリティ

    商品の生産者や流通過程などを追跡するトレーサビリティの概念は、欧米圏では広く認知されている。しかし日本においては「消費者調査では関心は高まっているが、その商品を買うかどうかは別」だという結果が出ている。トレーサビリティを確保できていることにより商品価格が高くなっていても、その商品を購入すると答えた人は全体のわずか6%なのだ。

    対する企業側もトレーサビリティを確保するためのコストを価格に転嫁できない、法規制もそれほど厳しくないという状況にあって、積極的に開示を進めるところは多くないそうだ。だが近藤氏は、今後法律面でも消費者ニーズの面でも開示してほしいという意向は高まると推察した上で、「トレーサビリティの範囲を限定して段階的に進めると良いのではないか」と結論付けた。

    導入にはかなり慎重な判断が求められるBOPIS

    日本ではあまり聞き慣れない「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」とは、オンラインで商品を購入し、店舗で受け取るスタイルを指す。米国ではコロナ禍以前から普及しているが、日本ではあまり浸透していないのが現状だ。その理由について近藤氏は、日本では元々配送業者への信頼度が高く、盗難や遅延といったリスクが少ないことなどを挙げる。企業側がBOPISを導入するメリットとしては、店舗での受け取りの際に他の商品も購入する“ついで買い”や、物流コストの削減があるが、「消費者への浸透は難しいのではないか」と述べ、導入は慎重に判断すべきだとした。

    成功しづらい領域・非デジタル系のサブスクリプションサービス

    日本でもデジタル系のサブスクリプションサービスは一般に浸透しつつある。だが、今回の調査で挙げられた、食品や衣料品、家具・家電といった非デジタル系のサブスクリプションサービスは、どの商材でも約1割程度の利用率と、あまり浸透が進んでいない。最も大きな課題として消費者が挙げたのが「利用料金が割高に感じられる」ことである。近藤氏はこれを「企業側が、消費者が求めていたニーズに応えられていない」と言い換えた上で、柔軟な料金プランの提供、費用対効果を越えた価値の提供といった点を突き詰めることで成功している例もあることを示した。