さまざまなガスの中から二酸化炭素(CO2)だけ吸着する多孔性材料を、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の北川進特別教授(錯体化学)や大竹研一特定助教(固体化学)らの研究グループが合成した。あたかもゲートを開くようにCO2を内部に取り込むが、大きさなどが似ている窒素や酸素、メタンなど9種類のガスは通さないという。工場などから出る様々な成分を含んだ排ガスからCO2を効率良く分離・回収する新素材の開発につながると期待される。

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    様々な類似ガスの中からCO2に対してのみゲートを開いて吸着する多孔性材料((C)高宮ミンディ/京都大学iCeMS提供)

合成した多孔性材料は、金属イオンに有機分子が結合して分子レベルの無数の孔を持つ多孔性配位高分子(PCP)の一つ。PCPはMOF(多孔性金属錯体/金属-有機構造体:metal-organic framework)とも呼ばれる。北川特別教授が1997年、孔の中に気体を大量に取り込めることを実証した。

吸着や分離、貯蔵といった目的で使われる多孔性材料としては活性炭やシリカゲル、ゼオライトが身近だが、それぞれの持つ孔の大きさを変えることができず、大きい分子を吸着させるには圧力をかけて無理やり入れるなどするしかない。一方、PCPでは金属イオンや有機配位子を置き換えることによって、ガスを閉じ込める格子構造を設計できる。また、格子構造がガス分子の吸着によって変化するものもあり、吸着剤やイオンの輸送などの応用研究が進む。

研究グループは2021年、コバルトイオンとジ(4-ピリジル)グリコール(dpg)を原料にしたPCPで、分子サイズと沸点が極めて似たCO2とアセチレンを分離できると発表した。今回はdpgの溶液にコバルトイオンとピリジンジカルボン酸(pdc)を加えて60度で24時間加熱し、ピンクに近い紫色をしたPCPの結晶を得た。

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    合成したPCPの原料と得た結晶の顕微鏡画像(大竹研一京大特定助教提供)

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    PCPの粉末(大竹研一京大特定助教提供)

集めた粉状の結晶を、マイナス78度で1気圧の条件か、室温で6~7気圧程度の条件でCO2と一緒にすると、ポケット状に分断された格子構造がCO2を吸着することで一続きの通路のようになっていた。

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    CO2吸着前は構造中にある隙間は3.6%だったのが、吸着による構造変化で18.1%に増えた(大竹研一京大特定助教提供)

窒素、メタン、一酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、アセチレン、エチレン、エタンのガス9種類では、吸着がほぼ起きなかった。

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    低温下で各種ガスを一緒にすると、PCPはCO2(左のグラフ)のみに吸着挙動を示した。横軸は圧力を表す(大竹研一京大特定助教提供)

CO2に窒素、メタン、エチレンをそれぞれ同量ずつ加えた2成分混合ガスをつくり、それぞれの混合ガスでどちらがPCPに吸着されるか確認すると、すべてでCO2が選択的に吸着した。

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    CO2と窒素(N2)、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)の2成分混合ガスを室温下で圧力をかけると、赤い線で示したCO2が選択的にPCPに吸着した。Totalの横軸は各ガスの圧力の合計値(大竹研一京大特定助教提供)

格子構造の吸着による変化に伴うエネルギー損失から計算すると、アセチレンやエチレンでも吸着が起きる可能性があった。だが、吸着後に格子構造中にできる一続きの通路のような隙間は大きい隙間と狭い隙間がつながった形になっており、通路をガスが通過するエネルギーを計算すると、CO2に比べてアセチレンやエチレンは通過にかかるエネルギーが大きかった。「表面に吸着するガスがあっても、結晶の内部まで入り込むのはCO2だけ。CO2にのみゲートを開いて吸着しているようだ」と大竹特定助教は話す。

温室効果ガスであるCO2を効率的に分離・回収するには、高温を必要とする化学吸着法などがあるが、多孔性材料によるガス分離がエネルギー効率の良さから注目されている。最近では2成分混合ガスの分離に焦点が当たっているが、「実際の工場の排ガスやバイオガスなどにはCO2以外に様々な成分が含まれており、実用化を目指して多数の類似成分ガスを分離できる材料の開発も行う段階になってきた」と北川特別教授は言う。

研究は中国同済大学と共同で行い、論文は英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」電子版に掲載された。

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