米Oracleは9月18日(現地時間)、米ラスベガスで年次カンファレンス「Oracle CloudWorld 2023」をスタートした。19日の基調講演では、46年前に同社を共同創業し、現在でも会長兼CTOとしてOracleの技術を担当するLarry Ellison氏が登壇し、生成AIを中心にOracleが描く未来像について語った。
生成AIは「すべてを変えている」
Ellison氏はステージに登場するや、生成AIの話題に入った。
「ChatGPTが登場し、すべてを変えている。Oracleでも何もかもが変わった」とEllison氏。この状況については、「ChatGPT(OpenAI)の人たちも驚いた」という。これほど大規模な言語モデルが構築されたことがなかったため、何が起こるのか、誰も予想もできなかったのだ。
Ellison氏は、ChatGPTのインパクトについて、1957年に旧ソ連(現ロシア)が打ち上げた「スプートニク1号」に匹敵すると語った。「クールで新しい技術が政府の関心を引くことはめったにないし、IT業界の人の注目を得られることはない。だが、生成AIは誰もが知っており、(ChatGPTは)人々の想像力をかき立てている」(Ellison氏)
この先、何が起こるのか? Ellison氏は「もっと良いAIを構築しようという動きが出てくるが、それにまつわるリスクも出てくるだろう」と予想する。さらに、「世界中がこれを目指して競う競争が始まる」――同氏はそう述べた後、「生成AIはこれまでで最も重要な最新のテクノロジーなのか?おそらく、そうだろう」との見方を示した。
今後12カ月で、「Teslaが完全自動運転車を発表し、中国で新型コロナ/SARSなどに向けた抗ウイルス薬が登場する」とEllison氏。Oracle自身は、臨床用途の音声デジタルアシスタントを開発しているという。
RDMAによりOracle Cloudは超高速に、モデルトレーニングに最適
Ellison氏は、AIに関するOracleの取り組みについても触れた。
最初に強調したのが、Oracle CloudとAIの相性だ。生成AIのブームについて「とてもハッピーだ」とEllison氏。Oracleの第2世代のクラウド「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」は、OSやCPUに影響することなく直接データにアクセスできる「Remote Direct Memory Access(RDMA)」を搭載し、これがNVIDIAのGPUを利用した巨大なスーパークラスタを接続することで、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングなどに最適な環境になっているという。
「他のクラウドよりもはるかに高速だ。クラウドでは“時は金なり”。2倍高速ならコストは半分」とEllison氏はOCIの優位性を強調した。そして、ビジネス向けの生成AIスタートアップのCohere(Oracleが出資している)、Elon Musk氏のxAIなどがOracle Cloudでトレーニングを行っていることを紹介した。
Oracleは最大1万6000個のNVIDIAのH100 GPUで構成されるスーパークラスタを構築しており、「Oracle CloudのRDMAと組み合わせることで史上最大の学術的コンピュータになる」とEllison氏は述べた。
AIで「Oracle APEX」「Oracle Database 23c」を強化
Oracle自身のAIの活用についても紹介した。
「Oracleは随分前からAIを使ってきた。しかし、生成AIは異なる。生成AIは革命的でブレークスルー。Oracleでやっていることを土台から変えている」という。
その1つがアプリケーションの構築、具体的にはOracleのローコード開発プラットフォーム「Oracle APEX」の活用だ。(以前からあるJavaのプロジェクトを除くと)「新しいアプリケーションをJavaで書くことはない」とEllison氏。例として、「Fusion Marketing」や最新の「Cerner Millennium」などを挙げた。
AIを活用することで、APEXは自然言語によるプロンプトをSQLに変換するなどの強化が加わった。APEXを使ってコードを生成することで、エラーがなくなり、安全性が改善する。「真に安全なシステムを構築する唯一の方法は、人のエラーをなくすこと」とEllison氏。また、チームは少人数になり、開発プロセスが変わり生産性が上がるという。
次に挙げたのが、データベースの「Oracle Autonomous Database」だ。「Oracle Autonomous Databaseは100%自己運転型データベース。自己インストール、自己設定、自己アップデート、自己パッチ、自己チューニングなのでDBAは不要」とEllison氏。
Oracle Autonomous Databaseは現時点で多くの顧客が使っている製品ではないが、今後は増えるだろうとの予測を示した。Oracle FusionやNetSuiteがAutonomous Databaseに移行しており、新しいOracle ApplicationはAutonomous Databaseがベースになるという。
ここでも自動化により、安全性が高まるとEllison氏はメリットを挙げる。また、自動的にリソースの割り当てと開放が行われるため、性能とコストの両方でもメリットがあるとした。「他のクラウドデータベースと違って、使った分だけ支払う」(Ellison氏)
さらに、Ellison氏はオブジェクトデータベースとリレーショナルデータベースについても言及した。「Oracle Database 23c」は生成AIを利用することで、オブジェクトとリレーショナルの両方のデータベースの良いところを利用できるという。JSONドキュメントからスキーマを自動生成でき、パワフルなSQL言語をつかってデータベースにクエリをかけることができるとのことだ。
Oracleは会期中、AIモデルとAIアプリ構築に特化した「Vector Database」「Java 21」も発表している。
Microsoftと提携「クラウドはオープンであるべき」
最後にEllison氏は、「Oracle Database@Azure」として、CloudWorldの直前に発表したMicrosoftとの提携にも触れた。
「Oracle Database@Azure」はMicrosoft Azureのデータセンター内に「Oracle Exadata」を置き、顧客は両クラウドの相互接続を利用したマルチクラウドを実現できるソリューションだ。
「背後にあるのは、クラウドはオープンであるべきという考え方」とEllison氏。クラウドは相互接続され、顧客のマルチクラウドを簡単にすべきという。これを、「オープンシステムへの回帰」とも例えた。
「シームレスにマルチクラウドを利用できるようにすることがわれわれのミッション」と述べた後、クラウドベンダーが課すエグレス料金について「AWSからOracle Cloudにデータを動かすのに料金を取るべきではない。データは顧客のものだ」とも述べた。
Microsoftとはクラウドの相互接続で2019年より連携を開始、すでに470以上の顧客が利用しているという。
Ellison氏によると、Oracle Cloudのリージョン数は64。これはAWS、Azure、Google Cloudよりもクラウドリージョン数は多いという。これに加えて、顧客のデータセンター内にOracle Cloudサービスを動かすことで専用リージョンを立ち上げることができる「Dedicated Region Cloud@Customer(DRCC)」を紹介、2020年に採用した野村総合研究所(NRI)を紹介した(下図を参照)。
Oracleはデータセンターの数を100にすることに向けて拡大を続けており、これが「他のクラウドとの相互運用によりつながっていく」というEllison氏は描く世界を紹介した。