SAPジャパンは9月19日、AI分野でのパートナーエコシステムの構築を国内に展開することを発表した。同取り組みの核となるのが、「SAP Business AI」というAI分野における同社の事業戦略だ。2023年5月の独SAPによる年次イベント「SAP Sapphire 2023」で発表された同戦略の下で、SAPプラットフォーム上で提供するさまざまなビジネスソリューションに、倫理とデータプライバシーに配慮した「責任あるAI(レスポンシブルAI)」による機能を実装していく計画だ。

同日には、SAP Business AI戦略の内容と、国内で展開していくパートナーエコシステムに関するプレスセミナーが開催された。

従来からSAPでは、提供するクラウドERP(Enterprise Resources Planning)にAIを組み込み、人的資本管理や支出管理など複数の領域でAI機能を提供してきた。例えば、SAP SuccessFactors Learning Recommendationsでは従業員向けのラーニングコンテンツの推奨に、SAP Concur Invoice Managementでは画像認識、自動入力などにAIが利用されている。

SAP Business AIでは今後、ビジネスユーザーがより簡便にAIを利用できるように、SAP製品全体でAIを用いた機能拡張を進めていく計画だ。そのために、生成AIやLLM(大規模言語モデル)の技術も取り入れつつ、他社とも戦略的パートナーシップを組んでAI分野におけるオープンエコシステムの構築を目指す。

SAPは先んじて米マイクロソフト、米IBM、米Google、米DataRobotとAI分野における提携を発表している。今後、SAPジャパンも4社とAI分野でのパートナーシップを深化させるほか、その他の企業とのパートナーシップ締結も進めるという。

  • 「SAP Business AI」の下で、国内においてもAI分野における戦略的パートナーシップを拡充させる方針だ

    「SAP Business AI」の下で、国内においてもAI分野における戦略的パートナーシップを拡充させる方針だ

パートナーのAI技術を活用して、SAPでは在庫の管理から需要の予測、顧客の理解強化、人事採用業務の文書作成など、多岐にわたる領域での業務支援を実現することで、企業の生産性向上や人的リソースの戦略タスクへのシフトなどを後押しする考えだ。

生成AIについて、現状ではSAPが独自にLLMを開発する計画はないという。だが、汎用的な生成AIに、SAPプラットフォーム上のビジネスデータとビジネスプロセスを組み合わせ、独自のファインチューニングとプロンプトエンジニアリングを施すことで、SAPに最適化された生成AIを提供していく方針とのことだ。

また、2022年に買収したAskdataのAIと自然言語処理技術を用いた機能を、BIツールのSAP Analytics Cloudに実装する予定だという。同ツールのサーチエンジンに自然言語で質問をすることで、SAP製品で管理するデータに基づいたグラフ・チャートが生成できるようになるという。

  • SAPの生成AIへのアプローチ

    SAPの生成AIへのアプローチ

SAPジャパン バイスプレジデント Enterprise Cloud事業統括の稲垣利明氏は、「AIをビジネスプロセスに組み込むことで、ユーザーが日々の業務の中で自然とAIを利用できる状態を作り出す。そのために、他社の技術を積極的に活用していく。パートナーシップの進め方としては、アプリケーション内にOEMでAIエンジンを組み込むこともあり得るし、サービスをクラウド間で連携していく方法もある。また、社内外のデータを統合するための基盤を共同で提供したり、これから世に出てくる生成AIのスタートアップに投資したりすることもあるだろう」と語った。

  • SAPジャパン バイスプレジデント Enterprise Cloud事業統括 稲垣利明氏

    SAPジャパン バイスプレジデント Enterprise Cloud事業統括 稲垣利明氏