近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)やパンデミックを契機としたビジネスの変容に伴い、テクノロジーは組織にとって今まで以上に重要性を増している。テレワークや電子決済、製造業の生産ライン自動化や小売業の顧客データ管理など、テクノロジーが社会を支えているといっても過言ではない。

新たなテクノロジーの実現には、組織における技術戦略の策定や実行、テクノロジーの導入、研究開発などのプロセスが必要とされる。その中心にいるのが、“最高技術責任者”(CTO)の存在だ。CTOは、組織の技術的な側面全般を監督し、戦略的な視点からビジネス目標の達成実現を目指す。テクノロジーの重要性の高まりと同時に、先進企業では事業分野を問わず、CTOの役割が組織の競争力を保つために不可欠となっている。

戦略的リーダーとしてのCTO

エグゼクティブサーチを行うハイドリック&ストラグルズは、2022年に101人のCTOの採用案件を支援した。そのうち36%のCTOは、最高経営責任者(CEO)を直属の上司として持っている。CEOを直属の上司に持つCTOは、対2021年比で31%増加しており、CTOが組織の経営陣にとってますます重要視されていることを示している。

また近年では、CTOからCEOへと転身するケースや、CTO自身がCEOとして事業を興すケースが増えている。組織が持つ技術とビジネスが切っても切り離せない状態にある中で、CTOが経営トップに立つことで、組織の革新と成長を推進する力が期待されている。CTOは技術専門職の枠にとどまらず、戦略的なリーダーシップを発揮する重要な役割を担っているのだ。このように、テクノロジーに関する専門知識に加えて戦略的視野を持つCTOの影響力は、今後も一層拡大していくことが予想されている。

前述の通り、CTOが戦略的リーダーとして役割を担っている背景にあるのは、ビジネスにおけるテクノロジーの重要性だ。金融サービスの分野では、従来は従業員が顧客とのタッチポイントだったのに対し、今日ではチャットボットをはじめとする人工知能(AI)がその機能を果たしている。また、昨今の先進企業では、物理的な商品だけではなく、テクノロジーから得られる利益の割合が大きくなっている。世界大手eコマース企業の利益は、小売業やサブスクリプション型のオンラインサービス事業以上に、広告による大幅な利益を生み出している。このようにテクノロジーがビジネスの成功を左右する中で、CTOが組織の戦略的リーダーの1人として位置づけられている。

CTOは顧客のニーズにより近い存在となっており、組織が必要とするテクノロジーを導入するだけでなく、顧客が求めるテクノロジーをどのように生み出し、組織の利益に繋げるかを検討する役目を担っている。そのためCTOには、新興テクノロジーの需要を判断し、自社の市場や顧客とどのように関連するかを見極めるスキルが求められている。

業界により異なるCTOの役割

CTOの役割は、業界によって異なる場合が多い。製造業などといった業界の老舗企業では、CTOの権限は一般的に限定的であり、組織の戦略以上に、開発に関わる技術の細部に集中することがある。一方のテクノロジー業界において、CTOの役割は、運用や技術的なノウハウにとどまらず、10年から20年先を見据えた戦略までも含んでいる。

例えば、アラブ首長国連邦の政府系持株会社であるドバイ・ホールディングのグループCTOの役割には、投資と戦略的ビジネスの両方の意思決定にデータを活用することが含まれる。顧客や消費者の消費傾向を理解することで、将来の開発ニーズを予測することもできる。

CTOは、高いリーダーシップ能力に加え、変化への適応能力や変革をもたらす力、また柔軟にソリューションを生み出す思考力が求められている。ビジョンや組織内での影響力を通じて、ビジネスを変えるだけではなく、あらゆる変化に臨機応変に対応し、社内外のステークホルダーと連携することで、新しいアイデアを迅速に実現させる仕組みを構築しなければならない。

組織内でCTOの責任を明確にし、CTOを含む経営陣が1つのチームとして機能することで、組織の変革が実現される。企業や業界によって、CTOに求められる役割やスキルのレベルは異なるものの、組織のビジネス変革におけるその重要性は今後も高まっていくだろう。