サムスン電子ジャパンは、折りたたみ型スマートフォンの最新モデル「Galaxy Z Flip5」を8月22日に発表した。同社によると、この製品のメインターゲットとなるのは、いわゆる「Z世代」と呼ばれる若者たちだ。
Z世代の若者たちはどのような価値観で商品やブランドと接触し、デジタルネイティブである彼らとのコミュニケーションにはどのような考え方が必要なのだろうか。サムスン電子ジャパンのCMO(最高マーケティング責任者)である小林 謙一氏に話を聞いた。
製品の生み出す体験、発表会、あらゆるシーンでZ世代を意識
まずは、8月22日に開催されたGalaxy Z Flip5の発表会の模様を振り返っておこう。発表会で披露された新製品のブランドメッセージは「Join the flip side さぁ、自由な方へ」。
コモディティ化が著しい既存のスマートフォンに対して、「折りたたみ型」という新しいスタイルを提案することで、今までとは違うスマートフォンの楽しみ方、今までの常識を覆す新しい価値観を生み出そうというメッセージだ。「マンネリ化したスマートフォンに、もう一度驚きと感動を」と同社はGalaxy Z Flip5の意義を訴求する。
そして、製品そのものもZ世代を意識した楽しみ方を提案するものに進化した。ケースなどのアクセサリーは、サブディスプレイにあたるフレックスウィンドウの壁紙と連動して端末のデコレーションが可能になっているほか、このフレックスウィンドウを生かしてアウトカメラでの自撮りができるように。
腕を伸ばした状態で自撮りできるよう、ジェスチャーだけでシャッターが切れる「手のひらシャッター」という機能も搭載している。また、フレックスウィンドウにウィジェットやアプリを登録することで、LINEなども折りたたんだ状態で利用できるようになった。
発表会で併設された体験ブース「Galaxy Experience」では、製品の展示や技術紹介だけでなく「カフェ巡り」「おうち時間「おしゃピク(おしゃれピクニック)」「推し活」といったZ世代に人気のキーワードをコンセプトにしたフォトブースが用意された。
発表会でゲストとして登場した人気インフルエンサーのちせさんがそれぞれのフォトブースを体験しながら、Z世代に人気の自撮りテクニックを披露。また、発表会終了後には招待されたインフルエンサーたちが思い思いにGalaxy Z Flip5の機能を活用した自撮りを体験していた。
“スマホのある生活が当たり前”デジタルネイティブ世代の潜在ニーズを探る
では、Galaxy Z Flip5はなぜここまでZ世代の若者たちを意識したプレゼンテーションを披露したのだろうか。ここからは、サムスン電子ジャパンのCMO(最高マーケティング責任者)である小林 謙一氏へのインタビューを紹介しよう。
そもそも、なぜGalaxy Z Flip5はZ世代の若者たちをターゲットにしたのだろうか。
小林氏は、情報感度の鋭さ、そして以前からある固定観念にとらわれずに自由な発想で物事を考えるという若者たちの特徴を指摘した上で、次のように語った。
「若者たちは、自分たちが良いと思ったもの、彼らのコミュニティで受け入れられたものであれば、“推し活”に代表されるような力強いサポートをしてもらえる。Galaxyブランドを長期的に考えると、若い世代に早い段階でブランドに触れてもらい、ブランドエンゲージメントを築くことが重要だ」
しかし、Galaxyブランドにはフラッグシップであるハイエンドモデル「Galaxy Sシリーズ」やコストパフォーマンスに優れる「Galaxy Aシリーズ」などもある。そうしたなか、なぜGalaxy Z Flip5を若者たちに提案したのか。そこには、Galaxy Z Flip5が提案する「スマートフォンのマンネリ感を打破する」という方向性と、既存の固定概念にとらわれず新しい価値観を受け入れやすい若者たちの指向性の合致が見られる。
「デジタルネイティブであるZ世代の若者たちにとって、スマートフォンのある生活は“当たり前のもの”。彼らにとっては、スマートフォンに対してその限界を含めて価値観や固定観念がある。そうした中で、“スマートフォンは、みんなの価値観を表現できる新しい形に変われるんだ”ということを伝えながら、折りたたみ型という新しいスタイルの製品を提案することで、彼らの潜在ニーズを顕在化できるのではないかと考えた」(小林氏)
Z世代のフィルターバブルに、いかにして入り込むか
このようにZ世代とのシナジー創出に期待を寄せるGalaxy Z Flip5だが、コミュニケーションにおいても、Z世代をターゲットにした新たなアプローチが求められるという。
小林氏は、Z世代のデジタルコミュニケーションの特徴について「いわゆるフィルターバブル(ネット検索やSNSのタイムラインなどを通じて自分の見たい情報だけに注目する)の状態にある」と指摘した上で、次のように語った。
「Z世代の若者たちが自分たちの接触しているSNSなどのメディアで話題になれば、どんどん深掘りしてくれて、情報も波及していく。しかし、知らないこと、興味のないことについては、一切彼らの関心事に挙がることはない」
彼らの情報収集のアンテナは、SNSのタイムラインや検索履歴などに基づくレコメンドなど非常に狭い範囲だ。テレビなどの従来型メディアを通じた大規模なマス広告は彼らの情報収集手段であるSNSなどのタッチポイントの“範囲外”であり、「Z世代のフィルターバブルには刺さらない」(小林氏)のだ。
「最近のZ世代を代表するキーワードで注目しているのが“界隈”と“推し活”。彼らの“界隈”であるコミュニティにいかにして入り込み、製品を“推し”てもらえるかが重要だ。Z世代の彼らは、潜在ニーズが顕在化したときに、それを面白いと感じて拡散してくれるポテンシャルを秘めている。単純に製品広告を大量に展開するのではなく、彼らの潜在ニーズに刺さるメッセージを届けることで、自ら深掘りしてくれたり、自分の意見を乗せて発信してくれたりするのではないか。それが私たちのコミュニケーションの基本だ」(小林氏)