AWS(Amazon Web Service)専業ベンダーとして15年目を迎えたサーバーワークス。今年4月にはAWSとの戦略的協業に合意、4年間で290億円のビジネスを創出することを発表し、創出に向けて4つの領域に注力していく方針を示していた。今回、サーバーワークス 代表取締役社長の大石良氏に改めて取り組みの意図や狙い、そして将来的な見通しについて話を聞いた。

大石 良(おおいし りょう)

株式会社サーバーワークス 代表取締役社長


1973年新潟市生まれ、1996年に東北大学経済学部を卒業し、丸紅株式会社に入社。インターネット関連ビジネスの企画・営業に従事し、2000年にサーバーワークスを設立、代表取締役に就任。

大石氏は「新型コロナウイルスの拡大前は、大手企業ほど新しい技術の導入に対しては慎重に進める傾向でしたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)やクラウド化などに本当に火が付いたのはコロナ禍がきっかけでした。そのため、“DXの波を捉えようとされているお客さまを、AWSとの提携で広く深く支援していく”、というメッセージを発信できたことはタイミングとしては良かったです。準備状況としては、これからというのが正直なところです」と、AWSとの協業に関する経緯を説明した。

4月に公表された同社のイニシアチブは、(1)「エンタープライズ企業のクラウドインフラ共通基盤の整備」、(2)「中小企業(SMB)におけるAWS活用とDX推進」、(3)「Amazon Connectによるクラウドコンタクトセンター構築支援」、(4)「デジタル人材育成のさらなる強化」の4つとなる。

インフラのクラウド化が進む日本のエンタープライズ企業

エンタープライズ企業のクラウドインフラ共通基盤の整備では、情報システムの共通基盤をAWSで提供し、必要なセキュリティやガイドライン、ガバナンスに関するサービスを提供するというもの。

同社は従来からエンタープライズ企業を得意としていた領域のため、着手しやすく、今後も成長が期待できる領域との見立てをつけている。日本のGDPの約2割を製造業が占めており、クラウド化に対して特定の業種・業態に偏りはなくなりつつあるという。

同氏は「一昔前であれば、製造業は慎重な方が多い印象がありました。現在は製造業、サービス業、金融業、公共をはじめ、バランスはよくなっており、特定の業種・業態の偏りがなくなってきています。これは、つまりクラウドがインフラ化している証拠でもあります」と説明する。

業務/基幹システムどちらからも引き合いがあり、これまではモード2(事業部)側の人たちが取り組みたいと考えていたことを、情報システム部門側がセキュリティを懸念している側面があったという。しかし、現在は基幹システムをクラウド化するのであれば、業務システムもクラウドに移行することを同時並行的に進めていく場合もあるとのことだ。

AWSに加え、Google Cloudも含めてSMBに積極的なアプローチ

一方、SMBはこれまで手付かずの領域であり、大手企業は成長の見込みはあるものの、いずれ頭打ちになることから、同社の成長を担保してくれるのはSMBマーケットの存在だという。

大石氏は「SMBはチャレンジの領域のため、積極的にアプローチします。これはAWSも同じ想いであり、どのようなサービスもまずはエンタープライズでの採用拡大、その後はSMBでの採用という流れのため、こうした大きな流れをともに作ります」との認識だ。

昨今では、ノーコード/ローコード関連の案件が多いものの、中堅・中小企業は大きなIT投資が難しい状況でもあるため、ノーコードツールの「Amazon Honeycode」やGoogleのノーコードツール「AppSheet」などのツールを用いて支援するという。

同氏は「当社の強みとして、AWSに加え、グループにトップゲートとG-genというGoogle Cloudの設計・構築を支援する会社もいます。データの閲覧や入力などに関してはAppSheetで作成し、データベースはAWSに設けることなどが可能です。支店の数値などを含めた報告を本社とシームレスに行うようなニーズが増えています」と、AWSに限らず、Google Cloudの支援できる体制である点を強調する。

大石氏によると、そのほかのノーコード/ローコードツールも優れた製品ではあるが、ビューとデータが結合してしまっているため、新しいデータベースを生み出すとともに管理自体も属人的になりかねないという。

その点、同氏も言及している通り、AppSheetはビューの部分は分離できるため現場主導で作成し、データベースについては知見がある人がAWSなどで設計して、バックアップを含めた運用が理想的とのことだ。余計なデータベースを生み出さない設計としすることで、中堅・中小企業が投資可能なコストでサービスを提供していくという建付けだ。

社内で蓄積した知見をアドオンして「Amazon Connect」を拡販

クラウドコンタクトセンターの構築支援に関して、大石氏は「Amazon Connectを活かして、これからのDXの波に対して、サービス面でも拡充していくことをAWSと合意し、Amazon Connectをイニシアチブに設定しました」と語っている。

従来から同社では大学向けに合否結果の案内サービスを手がけており、以前はサーバを数百台用意し、発表のピークに備えるとともに、電話受付も併せて行っており、1回線で同時に23通話が可能なINS1500の電話回線を多く引き込み、電話が一斉にかかってきても対応できるようにしていたという。

こうした経緯もあり、Amazon Connectが発表されたときについて、同氏は「非常に驚きました。だいぶ早い段階から当社に専任チームを設け、対応しています。コロナ禍の影響で引き合いが急速に拡大しました」と振り返る。

その代表例として挙げたのがパルシステム生活協同組合連合会への導入だ。同連合会では最初の緊急事態発出の際に注文が爆発的に増加し、コールセンターだけでは対応が追い付かない状況になったことから、Amazon Connectを導入して自動応答の仕組みを1カ月程度で整備。結果的にすべての注文に対応できるようになったという。

また、法人向け電話としてもAmazon Connectは有用だと強調する。従来、同社では代表電話も含めて仙台や大阪、福岡など、それぞれのオフィスで電話を受けていたが、現在ではすべてAmazon Connectに移行・集約している。

折り返しが必要な場合はSlackでコミュニケーションを取るため、電話による業務中断が減少すると同時に、必要のない営業電話がかかってきた際はブロックすることもできることから、電話そのものに関わる負荷を削減できているとのことだ。

大石氏は「恐らく、オフィスから電話をなくすことはないため、当社内で培った事例は幅広い企業で当てはまるのではないかと思います。新しい技術については、すぐに試そうという社風のため、こうしたサービスに限らず、常に試行錯誤しながら取り組み、ポジティブな評価となればサービス化の検討をしています。Amazon Connect自体はSMBとも親和性があるものだと考えています」と、社内を通じた検証・実証がサービス化にもつながっていると自信を示していた。

4カ月の研修でエンジニアとしての道筋を付ける

ただ、こうした計画やサービスを実現していくためにもデジタル人材の育成は必要不可欠だ。イニシアチブの(4)でも示されている通り、同社では強化を進めていく。具体的には現在、約760のAWS認定資格を今後4年間で倍増となる1500に増加させる。

CCoE(クラウド活用推進組織)の設立や、インフラ共通基盤の構築に必要なガイドライン作成を支援する人材を増員し、顧客企業のDXに寄与するという。

特に、中途採用のエンジニアが取り組む4カ月にわたる実戦形式の研修は同社の気概を強く感じる。これは、中途採用者のトレーナーが顧客役となり、ワザと曖昧なことや欠陥のあることなどを伝え、エンジニアとして実際のプロジェクト管理ツールなどを用いて、システムを完成させていくというもの。

大石氏は「4カ月の研修を経験するとAWSの経験が身に付くとともに、お客さまとのコミュニケーションの取り方も身に付きます。そして、プロジェクト進行で利用するツールを使うため、プロジェクトの進め方のメソッドも理解できるようになります。キツいと感じてしまうトレーニングではあるものの、すぐに覚えられるという声が多いです」と話す。

また、同氏は「密度濃く、現場間のあるトレーニングは当社のような専門集団としては強みであり、実体験に近い形で学習できます。もちろん、資格取得に際しては費用負担を行います」と説明する。

CCoEについては、同氏自身が過去に経験したことに依るところが大きい。2013年~2014年ごろに“サンドイッチ型の企業”は成功するという発見があり、ここで言うサンドイッチ型の企業とは「経営層として強力に推進していく人」と「現場でAWSの知見が深く意欲もある人」が在籍していることを指す。

「経営者は新しい技術で変革しなければならないという危機感がありますし、現場の人は新しい技術に敏感です。このセットだと成功するということは理解していましたが、すべての企業が当てはまるわけではないため、従来は偶然に頼らざるを得ない側面がありました」と大石氏は振り返る。

  • 大石氏

    大石氏

その際、同氏はクラウドを活用していくことの利点を言語化・マニュアル化して、安心して使える環境を整備する活動自体が大手企業には必要であると考えたという。時間の経過とともに、こうした考えはCCoEとして体系化され、現在ではDXの基盤としてのクラウドの活用が浸透しやすくなっている。

大石氏は「お客さまとともにCCoEのバーチャルチームを作り、伴走支援します。お客さま自身でCCoEのチームを組成しようとしても、いきなりでは無理が生じるため、当社のメンバーも参加したバーチャルチームを組成し、CCoEを支援します。あくまでも主役はお客さまで、当社は裏側でノウハウやベストプラクティスなどを提供し、支援するというイメージです」と説く。

人財の将来的なキャリアも考えて採用を強化

今後の展望として、大石氏は優秀なエンジニアを採用できるか否かにかかっているという。というのも、顧客を伴走支援していくものの、クラウドの設計・構築支援は内製化との相性がそこまで良いとは言い切れないとのことだ。

同氏は「必要コストとリターン関係性ですね。たとえ、お客さま側で特定の領域をAWSに移行したとしても、リターンは限定的になる可能性もあるため、当社に依頼した方が無難という判断になりやすいのです。そうなると、当社にエンジニアの頭数が揃っていることが重要になります」と力を込める。

また、地方で優秀なエンジニアの獲得も狙っている。現状は都心・地方含めて採用は堅調ではあるものの、どこかのタイミング一巡することが見込まれるため、優秀なエンジニアの採用を継続的に行えるかが成長の分水嶺だという。

その点について、大石氏は「採用した人材が、その先に道があるか否かを設計することが採用側の責任です。そのため、当社はエンジニアの将来のキャリアも念頭に入れて採用していきます」と将来に期待を寄せていた。