奈良県立医科大学とカンロの両者は8月8日、柿から高純度に抽出した柿タンニン(柿渋)を含有する飴を開発し、これを口腔内に含んで一定時間舐めた唾液が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ株を不活化することを試験管内で実証したと共同で発表した。

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症患者が、同飴を口腔内に含み一定時間舐めた直後の唾液中におけるSARS-CoV-2ウイルス量が、検出限界以下にまで減少し、1時間後でも飴を舐める前と比較して減少していることが確認されたことも併せて発表した。

同成果は、奈良県立医科大 免疫学講座の伊藤利洋教授、同・大学 微生物感染症学講座の矢野寿一教授、カンロの共同研究チームによるもの。詳細は、ウイルスに関する全般を扱う学術誌「Viruses」に掲載された。

現在、COVID-19に対するワクチンや治療薬の開発・実用化が進んでおり、一定の成果を上げている。しかし、依然として完全収束には至っておらず、日本国内では第9波の到来も叫ばれている。

SARS-CoV-2の主要な感染経路は、接触感染および飛沫感染だ。無症状もしくは軽微な症状のみの感染者にも感染性があること、また食事や発声などによって飛散する感染者の唾液中に多くのSARS-CoV-2が存在することが、強い感染性である一因と考えられている。このことから、口腔内のSARS-CoV-2を不活化することで、COVID-19の感染伝播を抑制できるのではないかと期待されているという。

タンニンは、植物に含まれるポリフェノールの一種であり、柿・お茶・ぶどうなどに多く含まれる渋みのもととなる成分だ。柿から抽出されたタンニンは、古くから柿渋として、革や衣服の防虫、防水や染色に利用されてきた。そして近年、柿タンニンは抗菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗酸化作用など、多様な作用を有することが明らかにされつつあり、さまざまな疾患への応用が期待されているとのことだ。

そうした中、研究チームは多様な活性を持つ柿タンニンに着目し、柿から高純度に抽出された柿タンニンが、SARS-CoV-2に対して不活化効果を有することを2020年に発表。またこれまで、柿タンニンが非結核性抗酸菌に対する抗菌作用やマクロファージの活性化を抑制する作用を有することも明らかにしている。

さらに、柿タンニンを含有する飴をマウスに摂取させることで、非結核性抗酸菌感染による肺炎が改善することや、柿タンニンを含有した飴をマウスに摂取させることでデキストラン硫酸ナトリウム投与により誘発される大腸炎(潰瘍性大腸炎モデル)の疾患活動性ならびに炎症を軽減できることを発表済みだ。

加えて、柿タンニンをハムスターの口腔内に事前投与することで、人為的にSARS-CoV-2を感染させたハムスター(COVID-19モデル)の肺炎重症化が軽減され、さらに感染動物から非感染動物への感染伝播が抑制されることも見出したとのこと。そのメカニズムとして、柿タンニンがSARS-CoV-2と直接結合することによって、ウイルスを効果的に不活化することを解明している。

そして今回の研究では、柿タンニンを一定濃度含有する飴を開発し、それを口腔内に含んで10分間舐めた直後に採取した健常者の唾液が、SARS-CoV-2のデルタ株を不活化できるかどうかを調べたという。そして試験管内での試験の結果、不活化することが実証されたとする。

  • COVID-19の軽症患者からの唾液採取手順。

    COVID-19の軽症患者からの唾液採取手順。まず口腔内洗浄後、唾液が採取され(1)、比較用のコントロール(柿タンニンを含有しない)飴を10分間舐めた直後(2)、15分後(3)、60分後(4)に唾液が採取された。その後、口腔内洗浄が行われ、唾液が採取され(5)、柿タンニン含有飴を10分間舐めた直後(6)、15分後(7)、60分後(8)に唾液が採取された。3名の軽症者患者から採取が行われた。(出所:奈良県立医科大Webサイト)

さらに、COVID-19の軽症患者が同飴を口腔内に含み10分間舐めた直後の唾液においては、SARS-CoV-2ウイルス量は検出限界以下に減少し、1時間後の唾液でも同飴を舐める前と比較して減少していることが確認された。柿タンニンは、細胞やウイルスに付着しやすいため口腔内にとどまると推測され、今回の結果は、柿タンニンの口腔内投与が一定時間有効であり続ける可能性が示されているとする。

  • COVID-19軽症患者の口腔内ウイルス(デルタ株)に対する、柿タンニン含有飴の効果の一例。

    COVID-19軽症患者の口腔内ウイルス(デルタ株)に対する、柿タンニン含有飴の効果の一例。(1)ウイルスコピー数は、柿タンニン含有飴を舐めた直後に検出限界以下となり、60分後においても同飴を舐める前(pre)や柿渋を含有しないコントロール飴を舐めた後と比較して、1/1000以下だった。(2)ウイルスの減少率は、柿タンニン含有飴を舐めた直後に1/1万以下となり、60分後においても1/1000以下だった。(出所:奈良県立医科大Webサイト)

これらの結果は、柿由来の高純度のタンニンを適切な濃度で飴に添加し、このような飴を口に入れることが、唾液中のSARS-CoV-2を不活性化する効果的かつ安価で簡便な方法として、COVID-19の感染拡大を抑制する可能性があることを示唆しているという。

なお研究チームは、今回の成果からCOVID-19の予防への柿タンニンの応用が期待されるものの、柿タンニンを含有する飴を食することで、すぐさま予防や治療の効果があるとするものではないとしている。