ChatGPTの登場に伴い、世界中でAIに対する注目が高まっているが、企業向けIT製品を提供するベンダーもこぞってAI戦略を刷新し、自社製品にAIを組み込み始めている。
今回、米シスコシステムズのエグゼクティブ バイス プレジデント 兼 ゼネラル マネージャー セキュリティ & コラボレーション ジーツ・パテル氏に、同社のAI戦略について聞いた。
米シスコは今年6月に開催した年次イベント「Cisco Live! 2023」の基調講演で、AIに関する戦略の概要を説明した。その際、以前からポートフォリオ全体でAIを使ってきたと語られた。本稿では、もう少し同社のAI戦略を掘り下げてみたい。
ワークスタイル分野で積極的に活用されるAI
パテル氏は「シスコにとってAIは戦略的に重要であり、今までは主に予測においてAIを活用していたが、今はワークスタイル分野でAIを積極的に活用している」と語った。
ワークスタイル分野のうち、「オーディオインテリジェンス」「ビデオ」「インサイト」「生成AI」の4つのカテゴリーで、AIの活用が進んでいるという。
オーディオインテリジェンスは、ビデオ会議などが行えるコミュニケーションプラットフォーム「Webex」に組み込まれている。具体的には、オーディオインテリジェンスにより、ビデオ会議のバックグラウンドのノイズを除去したり、複数の人が話すときに音量を同等にしたりといったことが行われている。
パテル氏はオーディオインテリジェンスについて、「会議はスピーチから始まるので重要。スピーチをテキストデータにする際は、生成AIの活用が考えられる」と語る。
ビデオもWebexのビデオ会議の機能として組み込まれている。例えば、テーブルを使って複数人数でビデオ会議を行う場合、奥に座っている人はどうしても見えにくくなってしまう。そこで、WebexではAIにより、奥の人もフォーカスして表情やボディランゲージが見えるようにする。
「インサイト」は、会議に遅れてきた人やマルチタスクの人などについて、パーソナルな洞察を得ることを実現する。これら3つのカテゴリーに対し、昨年1年間で15億ドル投資したそうだ。
そして、パテル氏は「現在、生成AIを活用する領域に入ってきている」として、会議を2つ欠席してしまった場合、生成AIを介してWebexに質問すると、アクセス権がある会議に限って サマリーとアクションを生成してくれるようになると説明した。
生成AIにより仮説に基づいて行う仕事のスタイルは変わる
それでは、生成AIの登場により、企業のコラボレーションや働き方はどう変わっていくのだろうか。
パテル氏は「生成AIによって、イマーシブになり、いろいろなものが使いやすくなる。そして、不可能であったことが可能になるだろう。生成AIによるイノベーションは始まったばかりで、ゲームチェンジャーの訪れといえる。これから5年から10年で、多くのイノベーションが出てくるだろう」と話す。
生成AIの無限の可能性はわれわれに大きな衝撃を与えたが、パテル氏は、「生成AIは次に来る大きなプラットフォーム革命といえる。これからは何をやるにもAIが組み込まれている時代になり、インターネットやモバイルと同等の革命となるだろう」との見解を示した。
生成AIの時代が到来したとき、「マシンが言語や論理を理解し、これが高度化していく。今、私たちは仮説に基づいて仕事をしているが、仮説を見直さなくてはいけない」と、パテル氏は指南する。「その最前線をシスコが歩んでいる。投資も行っており、WebexをAIリッチなプラットフォームにしていく」(同氏)
責任あるAIフレームワークの下、製品を開発
続いて、パテル氏にシスコではどのように生成AIが活用されているのか、聞いてみた。
パテル氏は「あらゆる仕事において書くことが関わっているが、アシスタントとして生成AIがいるから、一から書くことがなくなる。すべての仕事の側面でアシスタントがそばにいる」と話す。
さらに、パテル氏は「もう一つ、重要なことがある」と述べた。それは、われわれが生成AIを使えるということは、サイバー攻撃者もまた生成AIを使えるということだ。
そのため、責任を持った形で行動するため、シスコではすべてのチームが責任あるAIのフレームワークの下、製品開発を行っているという。
「われわれは、企業がAIを正しく使えるよう、製品を開発している。AI製品を開発するにあたっては、プライバシー、透明性、バイアスなどのフィロソフィーを理解する必要がある」(パテル氏)
AIは生産人口が減少する日本の働き方をどう変えるのか
最後に、AIによって、日本の働き方がどう変わるのかについて、聞いてみた。
パテル氏は、「AIはすべての市場において潜在的なポテンシャルがある。ただし、日本はこれから人口が減ってくるので、自動化のニーズが増えてくるだろう。他の国と比べると、日本はAIによって受ける影響が大きいといえる。日本は早く自動化を進める必要があり、われわれはそのために支援する」と説明した。
日本のGDPの成長は鈍化しているが、「GDPの成長には、スキルの高い人や有能な人が必要だが、日本は足りていない。そこで、自動化を進めることで、すべての人が生産性を上げてカバーしていく。生産性の向上が自動化によって得られるメリットの一つ」とパテル氏はいう。
AIは人間の知識を束ねることにとどまらず、人類では生み出せない、オリジナルの洞察を作り出す。こうしたAIが責任ある形で使われて、官民が共に協調していけば、「AIの成果はポジティブになり、日本にとっていいことになる」とパテル氏。
AIの活用によって成果を上げる企業は増えており、恐れてばかりいると、後塵を拝して取り返しのつかないことになるかもしれない。日本の企業にはAIを正しく恐れ、活用することで、成長を果たしてもらいたいと願う。