セールスフォース・ジャパンは7月20日~21日に東京都内でカンファレンス「Salesforce World Tour Tokyo / AI、データとCRMがビジネスの未来を創る」を開催。本稿では初日の午後に行われた「Slackと生成AIで実現する生産性を高める働き方」と題したSlackの基調講演をレポートする。なお、基調講演には共同創業者でもある前CEOのスチュワート・バターフィールド氏の退任を受け、年明け早々に米Salesforce Slack CEO(最高経営責任者)に新たに就任したリディアニ・ジョーンズ氏が登壇した。
Slackはインテリジェントプロダクティビティプラットフォーム
登壇するなり、ジョーンズ氏は「米国本社は2013年に設立したが、当初から日本には着目し、2014年には日本法人を設立している。Slackは“Searchable Log of All Conversation and Knowledge(すべての会話や知識の検索可能なログ)”の頭文字をとっている。生産性を加速させ、Slack内で構築する環境が発展し続けており、みなさんと生産性の未来を形成している」と強調した。
すでにSlackは世界150カ国で導入・展開し、1週間あたりのアクション数は50億以上、1日に起動されるワークフロー数は250万に達している。Slack上ですぐに使えるパトーナーアプリ数は2600以上と拡張性を備え、ワークフロー作成者のうち非技術系ユーザーの割合は8割にのぼり、ワークフローによるプロセスの自動化が約26%の時間短縮につなげているという。
同氏は「最近ではSlackをインテリジェントプロダクティビティプラットフォームと位置付けている。SlackがSalesforceの一員となったことで、同社のテクノロジーを統合した単一のCRM(Customer Relationship Management)プラットフォーム『Salesforce Customer 360』に統合されたことから、同プラットフォームのコンテンツをSlackに直接取り込むことができるようになり、Salesforceのアプリケーションとの統合を果たすとともに、すべてのビジネスユーザーがSlackを使いながら成功できる」と述べた。
Customer Cloudとの統合の成果に挙げられるものとして、ジョーンズ氏は自動化の作業を加速させる「Slack Canvas」を紹介した。
同機能は昨年9月の「Dreamforce 2022」において発表されたSlackの新機能だ。同機能は大規模な組織や部署、チームにおける必要なツールや情報を検索しやすくし、Slack内でチャンネルにまたがる情報を簡単に整理・共有を可能としており、すでに利用できる。
Canvasについて同氏は「無料プランでも利用(制限あり)できるため、とにかく試してもらいたい。コンテンツ作成だけでなく、アプリケーションのインテグレーションや会話、ワークフローなどをCanvaに組み込むことができる。コラボレーション、自動化を進めるSlackの機能が前面に押し出されているものだ」と訴求していた。
生成AIへの対応を積極的に進めるSlack
続いて、話は昨今話題の生成AIに関するもの移った。同氏によると、これまでにもクラウド、モバイル、SNSと革新的な動きはあったものの、生成AIの普及スピードは目を見張るものがあるという。そして、こうした動きは生産性だけでなく、ビジネスモデルや顧客体験、ツール&スキル、製品戦略など、あらゆるビジネスに対してAI戦略が必要だと指摘する。
ジョーンズ氏は「生産性の向上は新しい時代になる。アナログからデジタル、自動化と道をたどってきたが、現在はインテリジェントな変革の時代であり、インテリジェントな能力・機能を使いながら、生産性を向上するとともに横断的に成功をもたらすには、どうすれば良いのかという時代に突入している」との認識を示す。
ただ、AIの信頼性に存在する課題があるとも同氏は話す。ガートナーの調査結果をもとに、CEOのAIへの取り組み優先度は第1位であるものの、プライバシーやハルシネーション(幻覚)、データ管理、バイアスなどに向けた課題がある点を指摘する。実際、企業が取り扱うデータを信頼していない人の割合は約60%と、技術そのものが新しいため懸念されているという。
こうした状況を鑑みて、同氏は「最前線でAIを活用していきたいという願望と、責任ある形でAIを利用していくというギャップを埋める土台がSlackだ。インテリジェントプロダクティビティプラットフォームという自負はあるが、生成AIを活用してもう一歩先に踏み込む。生成的な体験を導入することで、価値を提供していく。ユーザー自身が生成AIを使うことで生産性を高めるだけでなく、プラットフォームを活用さえすれば自動化、AIに向けての道筋を効率よく進めていくことができるようにする」と説く。
Slackでは現在、OpenAIの「ChatGPT」やAnthropicの「Claude」、企業に特化した大規模自然言語モデル(LLM)サービスを提供するCohereなどを利用でき、Slack上における3月の1日あたりのChatGPTアプリ作成数は96、3月以降に作成されたChatGPTアプリの総数は4266にのぼるという。
今年5月には「Slack GPT」を発表し、ジョーンズ氏は発表時に“未来の会話AIプラットフォーム”と定義していた。例えば長いスレッドなど対象の会話の流れから重要なインサイトを抽出して意思決定の促進や文章作成支援、コードを記述せずにAIがワークフローの作成などを行う。
Slack上で入力した情報が即座にCustomer 360に反映・同期
また、今回のカンファレンスでは「Slack Sales Elevate」が発表された。これは、業務の一元化・簡素化・自動化を行い、業務の中でSalesforceのデータを簡単に更新し、チームの枠を超えて容易に認識を共有することで商談をサポートすることで、関連する顧客データに迅速にフォーカスできるとのことだ。
Slack Sales Elevateの機能の1つであるSales homeは、Salesforceのデータをパーソナライズされた状態で提供し、営業活動に重要なさまざまなデータを1カ所に集約することで、生産性を向上させることができる。
KPIや商談リスト、条件指定のアラート、リマインダーを受けることが可能。例えば、進行中の商談リストのうち完了予定日が古い状態ものを修正すれば、即座にSalesforceに反映・同期されて常に最新の状態を保つことを可能としている。
ジョーンズ氏は最後に「Slackは、インテリジェントプロダクティビティプラットフォームのため、あらゆる組織で活用できる。APIによる自動化、リッチなエコシステムの活用だけでなく、Sales Elevateの利用により、Customer 360と統合されたSlack上で生産性を向上させることが可能だ。AIを使うことで自動化、ナレッジの共有と検索、コンテンツ生成、チームメンバーとつながることができる。生成AIと会話形式のデータ、CRMのインサイトを1つにまとめられる。これをもってし、チーム全体の生産性向上に寄与していきたいと考えている」と締めくくった。