名古屋大学(名大)と早稲田大学(早大)の両者は7月18日、ブロック共重合体ミセルを鋳型として使用する化学還元法により、5種金属からなる多孔体骨格の合成法を新たに開発し、「ハイエントロピー合金」(HEA)からなる「メソ多孔体」の合成に世界で初めて成功したことを共同で発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の山内悠輔卓越教授(JST-ERATO 山内物質空間テクトニクスプロジェクト研究総括/豪州・クイーズランド大学教授兼任)、カン・ユンチンERATO研究員(物質・材料研究機構 ERATO拠点内)、早大の江口美陽准教授、同・奈良洋希研究院准教授、同・朝日透教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
ゼオライトに代表される多孔体は高い比表面積と大きな細孔容積を有する特徴があり、それよりも大きな細孔を有するものはメソ多孔体と呼ばれ世界で研究が行われている。
一方で、有機種を基本ユニットとする空間物質または、有機配位子と金属イオンの「配位結合」からなるのが「PCP/MOF」であり、その制御された空間により、ガス吸着、分離、分子認識などとして応用展開がされてきたという。
しかし、電気化学反応を伴う(電極)触媒、キャパシタ、二次電池、燃料電池などへの応用を考えると、原子が共有結合または金属結合によって結合されている安定な無機固体であり、かつ導電性を有する骨格で形成された新規な多孔体を発見する必要があったという。
高度に空間制御された金属メソ多孔体は、それ自体が電極として作用する金属表面を有しており、また高い比面積を有していることから、化学反応の促進に寄与する反応場が多く見られるとする。しかし、これまで報告されてきた合金メソ多孔体には2~3種類の金属元素が含まれるものはあったが、5種類以上の元素を含むHEAは報告されていなかったという。なおHEAとは、複数の金属元素(通常、5種以上)が均一に混ざり合っている合金のことをいい、結晶構造や電子状態が非常に複雑になることが特徴だ。これにより通常の合金よりも高いエントロピー(乱雑さ)が実現されるのである。
その乱雑さは、合金内の原子の配列や結晶構造を制御し、物理的・化学的性質に影響を与えるほか、HEAでは所望の複数の金属元素を選びそれらの量を制御することで特性を最適化することが期待できるという。
これまで、HEAからなるナノ材料ではナノ粒子などの研究が主流であり、そのナノ粒子表面の凹凸や粒子内部のコアーシェル構造化などにより機能の向上が達成されてきた。一方、HEAを取り扱った多孔体の例はなく、メソ細孔の細孔壁中に5つ以上の金属元素を組み込むことは、複雑な共析出反応下による核生成と結晶成長の制御の難しさにより困難だったとする。このような背景の下、研究チームは困難なHEAメソ多孔体の合成を試みることにしたという。
今回の研究では、ブロック共重合体ミセルをテンプレートとして使用し、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)からなる骨格を有する多孔体を合成する化学還元法が開発された。
その化学還元法を用いて得られたPtPdRhRuCu多孔体は均一なサイズの細孔を有しており、結晶性を有する細孔壁中にはPt、Pd、Rh、Ru、Cuの各原子が均一に分散していることが確かめられた。PtPdRhRuCu多孔体は、従来の電極触媒よりも水素発生反応(HER)に対して優れた触媒活性があり、それも広範囲のpHにわたって顕著な活性と耐久性が示されたという。この並外れた性能は、細孔内の異種金属元素間に形成される活性金属部位に起因するとした。特定のpH下でHERに対して優れた活性を示すものはこれまでにもあったが、同じ触媒を用いて酸性、中性、アルカリ性下すべての条件において、優れたHER活性を達成することができたものはなかったとする。
今回の研究により、HERに対して優れた触媒の合成に成功しただけでなく、金属の析出挙動とそれに伴うミセルの自己組織化を把握することで、メソ細孔構造の形成メカニズムと各金属元素の役割について理解することが可能となったという。この知見は、ほかのHEA合金システムへの展開を見据えた際に非常に役立つとした。さらに今回の成果は、電極触媒の進歩に貢献し、さまざまなエネルギー変換および貯蔵用途向けの効率的で安定した触媒の開発への道を切り開くことが期待されるとした。