パナソニック コネクトが2023年2月に米OpenAIの大規模言語モデルをベースに開発した自社向けのAI(人工知能)アシスタントサービス「ConnectAI(旧称ConnectGPT)」を、国内全社員約1万3400名に提供を開始してから、3カ月以上が経過した。導入当初は大企業で生成AIを全社的に展開した例は少なく、大きな話題を呼んだ。
ConnectAIを3カ月間使い倒してみて、どのような成果が得られて、どのような課題が見えてきたのだろうか。同社は6月28日、記者会見を開き、ConnectAIの活用実績と今後の戦略について説明した。
どのみち社員はAIを利用し始める
記者会見の冒頭、「最新のテクノロジーを自社に持ち込むには、自分達で頑張らないことが重要。自分達で一から作ろうとせず、すでにあるテクノロジーをいかに使いこなすかを考えたほうがいい。他にいいものが出たらさっさと切り替えるだけ」と、 IT・デジタル推進本部 執行役員 CIOの河野昭彦氏は、同社のスタンスを説明した。
同社は2023年2月より、「生成AIによる業務生産性向上」と「社員のAIスキル向上」、「シャドーAI利用リスクの軽減」を目的として、国内全社員を対象に「Microsoft Azure OpenAI Service」を活用したConnectAIの運用を開始した。同技術をベースにして、パナソニックグループ版AIアシスタントサービス「PX-AI」を、4月よりグループ全体で活用している。
「大規模言語モデルは言葉の理解や生成ができるので、定型業務だけでなく非定型業務でも広範囲に活用できる。そのため、人間は本来やるべき一番大事なところに対して創造性を集中できる。また、AIを活用するうえで大事なのは『キーワード』ではなく『自然言語によるプロンプト』。近い将来、ビジネスでのAI活用は当たり前になり、どのみち社員はAIを利用し始めるので、パブリックAIの利用による情報漏洩リスクへの対応をいち早くしたほうがいい」と、IT・デジタル戦略企画室長の向野孔己氏は、ConnectAIを導入した目的について説明した。
利用回数は想定の5倍、生産性は90倍向上
では実際に、同社の社員はConnectAIをどのように活用し、どのような成果をあげているのだろうか。
同社の説明によると、サービス開始後の3カ月間での利用回数は26万回で1日あたりの平均利用回数は5000と、当初想定(1000回)の5倍以上利用されているという。ConnectAIは、AIの回答に対して社員が評価できるような仕組みを導入しており、総合評価は5点満点中3.6点だった。
利用項目としては、質問が59.7%と一番多く、次いで、プログラミング(21.4%)、文書生成(10.1%)、翻訳(4.9%)と続いた。中でもプログラミングと翻訳への社員評価が高く、それぞれのポイントは4.3点と4.2点。
具体的な利用例として、「データアナリストが自分のキャリアオーナーシップについて考えないといけない要素を教えてください」といったキャリアに関する質問や、素材に関する同社ならではの質問、技術をビジネスに活用するアイデア出しなどが紹介された。
また、26万回の総利用回数のうち、84件の不適切利用のアラートが上がったが、人間がチェックしたところ、重大な問題はないと判断された。「自殺回路」や「切削加工」といった聞きなれない業界の専門用語の中に不適切な語句が入っていたことが主な原因だったという。
さらに、業務における生産性向上の効果は数字に表れている。例えば、コーディング前の事前調査といったプログラミング業務は3時間から5分に、約1500件のアンケート結果分析といった社内広報業務は9時間から6分に短縮した。AIの活用により生産性がそれぞれ、36倍、90倍向上した。
「社員の利用データから、生成AIはビジネスに有効であることが分かった。一時的なトレンドではなくインターネット、スマートフォンなどと同じ技術革新だ」と、向野氏は断言した。
見えてきた4つの課題とその解決策
一方で、3カ月間使って見えてきた課題も少なくはない。向野氏は、ChatGPTの業務活用における課題として「自社固有の質問には回答できない」、「回答の正確性を担保できない」、「長いプロンプトの入力が手間」、「最新の公開情報は回答できない(自社固有以外でも)」の4つを挙げた。「これらの課題は、当社だけでなく多くの日本企業が直面しているものだと思う」(向野氏)
そこで同社は、業務改革をさらに加速化するために、これら4つの課題に対して解決策を講じる。
具体的には、ConnectAIを自社の公式情報も活用できるよう機能を拡大し試験運用を開始する。公式に公開されているWebサイト・Webページ約3700ページ、ニュースリリース495ページ、対外向けの公式ホームページ3200ページを読み込ませ、企業データを活用できるシステムを構築する。2023年6月よりプロジェクトを開始し、9月から1カ間、自社公式情報に基づいて回答ができる生成AIの試験運用を社員に公開し評価を行うとのこと。
利用技術はセマンティック検索を採用。同技術は、大規模言語モデルはそのまま活用しつつ、自社データは別のデータベースに保管し、ユーザーのプロンプトに応じた自社データを挿入することで企業固有の回答を可能とするものだ。
「社員が質問すると、最初に自社データベースから必要な情報を持ってきて、その情報を足した上でChatGPTに質問を投げかける。2つの情報を合わせてChatGPTが回答を作り社員に回答するというような仕組み」(向野氏)
また、「回答の正確性を担保できない」、「長いプロンプトの入力が手間」といった課題に対しては、それぞれ、「回答の引用元を表示する」、「プロンプトを音声で入力できるようにする」新機能を搭載して、課題解決につなげていく。加えて、検索エンジンと連携することで最新情報にも対応できるようにしていく考えだ。
同社は今後、試験運用の結果を受け、2023年10月以降は自社固有の社外秘情報に回答してくれるAIの活用も開始する予定。カスタマーサポートセンターのデータを活用し、顧客への回答に向けた社内業務改善・業務効率化につなげることを目指す。また、2024年度以降に個人特化AIとして、個人の役割に応じた回答をしてくれるAIの活用の検討も進めていく方針だ。
「最初は可能性や効果が見えないことが多い。とりあえず使ってみて、そこではじめて課題が見えてくることも多い。失敗することは全く問題なく、『早くやること』こそ正義だ」(河野氏)