リクルートマネジメントソリューションズ(リクルートMS)は6月21日、「人的資本開示に関する実態調査を元に考える企業動向と効果的なマネジメントについて~効果的な1on1を実践する「INSIDES」導入企業のケーススタディ~」というテーマの下、メディア向けセミナーを実施した。
今回の調査は、リクルートMSが提供するマネジメント支援ツール「INSIDES」チームが行ったもの。同調査により、2023年3月期決算から開始した人的資本開示義務化の認知度の他、内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」で掲げられている、開示項目7分野19項目に対する企業の取り組みや課題の実態が明らかになった。
会見には、リクルートMS「INSIDES」事業責任者の荒金泰史氏が登壇し、調査結果の詳細を語った。
Z世代など世代価値観の視点からも注目される「人的資本開示」とは
「人的資本開示の義務化」とは、2020年9月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」において「企業価値の決定因子が有形資産から無形資産に移行していること」および「無形資産の中でも人的資本は根幹」であると指摘されたことを発端として、2023年末以降に終了する事業年度にかかる有価証券報告書などに人的資本状況を開示することが義務化されたことを指す。
「こうした人的資本に対する取り組みは、経済的な視点のみならず、ESGなどの社会的視点、イノベーション創出などの戦略的視点、Z世代・アルファ世代など世代価値観の視点からも注目を集めています」(荒金氏)
この背景を受けて実施された「人的資本開示に関する実態調査」は、「人的資本状況に関する企業の取り組みや意識などの実態を経営層と現場社員の立場から明らかにすること」を目的に実施された。調査対象は、全国の20-60代の男女のうち、経営者200名・人事担当者200名・管理職(役職ありで1人でも部下がいる)200名・一般社員200名。
荒金氏が最初に紹介した「あなたは、人的資本の開示が義務化されたことをどの程度知っていましたか」という質問では、上場企業の経営者・人事のうち22.1%が「初めて知った」という回答したという。
「『人的資本の開示が義務化されたことをどの程度知っていたか』という調査では、義務化にかかる会計年度がスタートしているにもかかわらず、現在でも義務化を知らない経営者・人事が一定数いるという実態が明らかになりました。この結果は、かなり驚愕の事実でした。人的資本は企業成長に対する重要なファクターの一つなので、義務化とその意義が広く認識されることを願っています」(荒金氏)
今後は「ピープルアナリティクス」を社内に置く企業も増える?
続いて紹介された「人的資本の開示に向けた現状の情報整備に満足していない理由を教えてください」という質問では、「情報開示に向けた専門スタッフがいない、または人員が不足しているから」と回答した人が33.3%と最多だった。次いで、「課題が多く、公開することに躊躇しているから」「何を公開すればいいかわからないから」という声が挙がったという。
理由を教えてください 引用:人的資本開示に関する実態調査 |
「人事データは形式がばらばらの状態で、人事担当個人のPCのみに保存されている場合も多いと聞きます。こうした理由もあり、専門的なスタッフが必要と考えている方が多いようです。また、データ整備が必要であることから、タレントマネジメントシステムなどの人事管理系システムの導入がますます増える可能性が高いといった背景もあり、今後はピープルアナリティクスのような専門職を社内に設置する企業も増えるかもしれません」(荒金氏)
「ピープルアナリティクス」とは、「人事に関するデータ(採用や育成、組織づくり、定着支援など)」を収集・分析し、人材配置や採用といった人事領域におけるさまざまな業務を効率化・公平化する手法を指す。
開示が望ましい「7分野19項目」
ここまで紹介してきた「人的資本の開示」だが、「7分野19項目」での開示が望ましいとされているという。それらは以下となっている。
7分野19項目のうち、「取り組むことが出来ている」と思う項目を聞いた質問では、経営陣(人事・経営者)と現場(一般社員・管理職)のギャップが明らかになったという。
「経営陣と現場の間では『価値向上』に関する項目ほどギャップが大きく、『リスク』に関する項目ほどギャップが小さいという傾向が分かりました。中でも『人材育成分野』はギャップが大きく、より取り組みを充実することが求められることに加えて、取り組み内容を現場により積極的に共有していくことが必要だと考えております」(荒金氏)
一方で、「取り組んでいるが効果が出ていないと感じる項目」について聞くと、経営陣は「流動性(採用・サクセッション)」において、現場は「人材育成(リーダーシップ、育成、スキル・経験)」において「効果が出ていない」と感じている人が多いことが判明しているそうだ。