「ChatGPT」が2022年11月末に公開されてから、Googleなど他社も参入し、生成AIのニュースを目にしない日はないくらいに話題となっている。しかし、ChatGPT公開から6カ月しか経過していない。生成AIが真のインパクトを及ぼすのはまだまだこれからだ。

生成AIの経済効果

では、どのような影響があるのだろうか?経済効果の観点から分析したレポートを、McKinsey Digital(マッキンゼー・デジタル)が「The economic potential of generative AI: The next productivity frontier」として公開している。

レポートではまず、生成AIを「ファウンデーションモデル(基盤モデル)を使って構築したアプリケーション」と定義し、「われわれは生成AIのパワー、リーチ、能力を理解するジャーニーの始まりにいる」という。

数値としては、同社が分析した63のユースケースで、生成AIは年間2兆6000億ドル~4兆4000億ドルを加えることができると予想している。

参考までに、2021年の英国のGDPは3兆1000億ドル相当とのこと。これは、AIすべてのインパクトを15~40%増加させるものであり、これらのユースケース以外にすでに使われているソフトウェアに生成AIを組み込んだ分のインパクトを入れると、インパクトはさらに倍増するとしている。

生成AIが価値をもたらす職種

一方、生成AIのユースケースがもたらす価値の75%は「顧客オペレーション」「マーケティングと営業」「ソフトウェアエンジニアリング」「R&D(研究開発)」の4分野に集中しているという。

  • 生成AIがインパクトを与える職種のグラフ(青丸ほど高い)

    生成AIがインパクトを与える職種のグラフ(青丸ほど高い)

例えば「マーケティングと営業」では、テキストベースのコミュニケーション、大規模なパーソナライゼーションなどの部分で「個々の顧客の興味、嗜好、行動に合わせてパーソナライズされたメッセージ作成に加え、ブランド広告、スローガン、ソーシャルメディア投稿、製品説明など最初のドラフトを作成するなどの作業を行うことができる」とレポートは記している。

「ソフトウェアエンジニアリング」では、ペアプログラミングなどに利用したり、LLM(大規模言語モデル)をトレーニングしてコードがすべきことを記述することなどが可能となる。

コードの最初のドラフト作成、コードの修正とリファクタリング、根本原因の分析などの活動に費やす時間が短縮されるとしており、「AIがソフトウェアエンジニアリングの生産性に与える直接的な影響は、現在のソフトウェアエンジニアリングの年間支出額の20~45%」と予想している。

生成AIが仕事に与える影響としては、生成AIやそのほかの技術は従業員が60~70%の時間を費やす作業を自動化できるという。また、生成AIは自然言語を理解できるが、これは約25%の作業時間を占めており、賃金や教育の要件が高い職業に従事するナレッジワーカーに大きな影響を与えるとしている。

労働生産性を改善するが、課題もある

このような仕事の変化は加速傾向にある、とも予測している。同社の最新のシナリオに基づくと「2030年~60年の間に、現在の業務活動の半分が自動化され、中間地点は2045年で以前の予想より10年早くなる」とのことだ。

生成AIは労働生産性を大幅に改善する技術ではあるが、仕事の内容を変える、転職するなど、働く人のサポートは不可欠とも記している。

マッキンゼーは「生成AIの時代は、始まったばかりだ。同技術への期待は大きく、初期のパイロット版は説得力があるものだ。しかし、技術の利点を完全に理解するには時間がかかる。ビジネスと社会のリーダーたちは、取り組むべき大きな課題を抱えている」とする。

課題として、内在するリスクの管理、労働者に求められる新しいスキルや能力の支援、再教育や新しいスキルの開発などを挙げている。