胸部X線画像から、心不全の確率や患者が退院後に再発する可能性を算出できる人工知能(AI)を開発したと、徳島大学と帝京大学が発表した。循環器内科を専門とする医師以上の精度で予後を推定できるとみられる。2024年度中の臨床研究開始を目指し、将来的に医療機器として国の承認を受けたい考え。へき地医療などへの応用も期待している。

生活習慣の欧米化により、動脈硬化や血栓、高血圧などが進んで心臓の機能が低下する心不全を患う患者は増えている。最近では国内で年間約120万人が外来診療を受けているとみられるが、専門医は不足している。

徳島大学病院の楠瀬賢也講師(循環器内科)によると、心不全患者の多くは、息切れを訴えて病院に入院し、入院後は血液の滞留(うっ血)などを治す。治療後には、健康診断と同じように患者の胸部にX線を照射してレントゲン写真を撮影する。その胸部X線画像を医師がみて、心臓の大きさや肺への水のたまり具合を確認し、患者の年齢などを加味して再発など予後を予測し、退院を決める。

こうした心不全診療については専門医の不足で限界に近づいているという。AIによる医療支援が求められている中で、楠瀬講師らは患者への負担が少なく、再現性も高い胸部X線画像に着目。徳島大学病院に入院した心不全患者が過去に退院前に撮影したX線画像から900症例をAIに学習させた。深層学習(ディープラーニング)により、患者の電子カルテ上の画像を20秒で解析し、心不全の可能性を数字で表すことが可能になった。

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    心不全の重症度を数字で出すAI。左の画像が入力した胸部X線画像(徳島大学病院の楠瀬賢也講師提供)

AIの精度を確認するため、学習で用いた画像とは別に、心不全の入院患者が退院前に撮影した過去の胸部X線画像の192症例について、心不全での再入院の有無を専門医とAIがそれぞれ予測した。実際は192症例中57例で再入院か心不全で死亡していたが、予測と照合した結果では、循環器内科医が従来指標に基づいて行った判断が72%当たっていたのに対し、AI判断は78%を当て精度が高かった。

深層学習によりAIが下した判断の根拠は専門家でも説明できないことが課題になっている。このため、AIが胸部X線画像のどこに注目して再入院の可能性の判断などを下しているかわかるように画像上に色の濃淡をつけて示せるようにした。AIと医師の注目領域や一致点を確認できるため、臨床の現場で判断説明を行うことも可能なAIとしての利用も期待できるという。

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    AIが心不全確率0.6%と判断した胸部X線画像(左)と、心不全確率99.3%と判断した画像。判断理由を示すようにAIが注目領域を色づけしている(徳島大学病院の楠瀬賢也講師提供)

健康診断などで行う採血では、血糖値や白血球数など数値で説明できるが、画像診断において、心不全の予後を数値化することは難しい。一方、心不全は生死に直結するため、治療に当たる医師にかかる重圧は大きい。楠瀬講師は「循環器内科を専門とする医師の手が回らないへき地や離島などで患者に対する医師にとって、AIが出す数字や情報は、心不全の予後判断や患者への説明において役立つものになるだろう」としている。

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    心不全診断AIの将来展望。撮影が簡便な胸部X線画像の電子データを用いて心不全の重症度やリスクを数値で表す(徳島大学病院の楠瀬賢也講師提供)

研究は徳島大学と帝京大学が共同で行い、5月19日に国際英文誌「フロンティアズ・イン・カーディオヴァスキュラー・メディシン」に掲載された。

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