ネットワークを中心に製品分野を拡大しているシスコシステムズ、現在の戦略はどのようになっているのか――6月8日まで米ラスベガスで開催した年次イベント「Cisco Live! 2023」の基調講演で、アプリケーション事業部担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラル マネージャーのLiz Centoni氏が、4つの技術トレンドを軸に同社の戦略を語った。

  • 米シスコシステムズ アプリケーション事業部担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラル マネージャー Liz Centoni氏

デジタル分野で将来を決定づける4つの技術トレンド

Centoni氏はまず、Ciscoがデジタル分野で将来を決定づけると考える技術トレンドとして、「ハイパーコネクティビティ」「セキュリティ」「AI」「量子技術」の4つを挙げた。

ハイパーコネクティビティ

ハイパーコネクティビティは創業以来、生業としてきた分野だ。「Merakiは毎日3億5000万台のエンドユーザーのデバイスを接続しており、CiscoのIoTプラットフォームは9200万台の自動車を含む2億台以上のデバイスを接続している。Webexは毎日、世界の数百、数千万人をつないでいる」とCentoni氏。「Ciscoは人、モノ、都市、デバイス、クラウド、ネットワーク、アプリケーションを安全に接続し、セキュリティがイノベーションを妨げとならないように、セキュリティを土台から組み込んでいる」と続けた。

コネクティビティへのニーズの高まり、多様なデバイス、多様な用途などに対応するために、複雑性が増している。キーワードは「シンプル」「インテリジェンス」。インテリジェンスを使ってシンプルにしていくという。

インフラはハイブリッドとマルチクラウドが主流になる。シスコの役割は、「ハイブリッドやマルチクラウド環境での接続と保護を実現すること」であり、そのために「統一され、安全な体験を提供する」とCentoni氏。その理由について、「ネットワークは共通項になる。可視化性、遠隔からの観測、ポリシーの適用を行う部分になるから」と話した。

シスコは2022年に「Cisco Security Cloud」を、今年のCisco Live!で「Cisco Networking Cloud」を発表、それぞれセキュリティの運用管理とネットワークの運用管理を統一するクラウドとなり、両クラウドの連携も進める。また、可観測性(オブサーバビリティ)に関しては、イベント中に「Cisco Full-Stack Observability(FSO) Platform」を発表し、土台をそろえた。

オブザーバビリティでは、「われわれは6300億もの観測可能なメトリクスを提供している。これを使ってKPIを実現し、サステナビリティ経営も支援する」とCentoni氏。最新世代の自社ASIC「Cisco Silicon One」は、帯域幅を拡大しつつ、効率性を改善していると付け加えた。

セキュリティ

セキュリティは、シスコがこのところ注力している分野だ。実際、Cisco Live!はネットワークよりもセキュリティを強調したイベントとなった。

攻撃対象領域は拡大しており、市場にはセキュリティのためのツールやソリューションがあふれている。Cisco Security Cloudでは、4月のXDRに続き、SSE(Security Service Edge)の「Cisco Secure Access」を発表した。「エンドユーザーから複雑性を取り除き、SaaSアプリケーション、Webサイト、企業リソースなどに、ユーザーがどこにいても、どの端末からでも安全にアクセスできるようにする」とCentoni氏。

AI

AIは、生成AIの登場で一気に活気づいた分野だ。

Centoni氏は、「シスコは以前からポートフォリオ全体でAIを使ってきた」と述べ、データの分析と分類、自動化、脆弱性評価、異常検知、ノイズ除去などにおけるAIの適用例を紹介した。

生成AIについては、ネットワークなどインフラ、シスコ製品のインタフェースなどで意味を持つと見る。特にインフラ側では、「既存の高性能コンピューティングのためのツールではAIのニーズに合わせて拡張できない。シスコは、AIのための拡張性のあるネットワークを構築する」と、Centoni氏は述べた。

ここで、Silicon Oneが重要な役割を果たすという。「AI向けにネットワークをパワフルにし、イーサネット、アドバンスドイーサネット、スケジュール化されたファブリックなど、複数のアーキテクチャなどを構成しながら、柔軟性と選択肢を提供し、データ駆動型の意思決定を実現する」とCentoni氏。

製品側では、ポリシー管理「Cisco Policy Assistant」でAIを利用するほか、セキュリティオペレーションセンター(SOC)の「SOC Assistant」などを発表している。

  • 記者向けのセッションでは、AIをどの製品に適用しているのかの表も見せた

シスコの生成AIを含むAIに対するアプローチは、「責任あるAI」だ。「生成AIでは、予期せぬアウトプット、虚偽コンテンツ、データ漏洩、知財侵害などのリスクが考えられる」とCentoni氏、「シスコでは、責任あるAIは交渉の余地はない。社内でどのようにAIを用いるのかの責任あるAIフレームワークを敷いている」と続けた。

  • 記者向けのセッションで紹介したCiscoの責任あるAIフレームワーク

量子

Centoni氏は、量子については「実現は少し先の話だが、量子コンピュータを大規模に実用化する動きは進んでる」として、期待とともに、従来の暗号化技術が使えなくなるというリスクにも触れた。ネットワークを流れるデータを今から集めておき、量子が実現したら解読しようという動きもあるという。そこで、シスコは通信経路の保護に注力しているとのことだ。

量子ではまた、現在のネットワーク機器のポートで従来のペイロードやパケットと量子の両方に対応する「コンバージドネットワーク」に向けても取り組んでいる。これにより、「別々にネットワークを構築、保護、運用する必要がなくなる」とCentoni氏はメリットを説明した。

これら4つの技術トレンドを通じて、シスコの差別化のポイントを「イノベーション」「信頼」「グローバル」とCentoni氏は説明する。「シスコの大規模なスケールとデータへの可視化により、どの企業も成し得ないレベルのAIと自動化を実現する」と語っていた。