NEC、理化学研究所(理研)、日本医科大学は6月13日、複数の大学病院と取り組んだ医療分野における電子カルテとAI技術の融合に関する共同研究の結果、前立腺がんを対象に医療ビッグデータを多角的に解析するマルチモーダルAIを構築したことを発表した。

医療ビッグデータを多角的に解析するツールが求められている一方、従来の医療AIシステムは単独の検査データを対象とするものが多く、複数の検査データを利用して統合的に判断できないことが課題となっている。今回の共同研究で構築したマルチモーダルAIは、複数の検査データを同時に解析することが可能だという。

  • マルチモーダルAI解析のイメージ。複数の検査データを統合的・多角的に解析することができる

    マルチモーダルAI解析のイメージ。複数の検査データを統合的・多角的に解析することができる

今後は、NECが保有する電子カルテをベースとした各種データを統合するプラットフォーム技術、理研が開発した広範囲画像解析技術や特徴選択などを活用したマルチモーダルAI、そして日本医科大学をはじめとする複数の大学病院の医師による信頼性の高い検証データを組み合わせて、各種医療データを多角的に解析する医療AIシステムの実用化を目指すという。

なお、同研究においては、日本人男性に最も多いがんの1つである前立腺がんを対象に、手術前の電子カルテデータや病理生検画像などを用いたマルチモーダルAI解析を実施した。その結果、手術後から再発までの年数によってAIが捉えた予測因子のパターンに違いが見られることが分かった。この結果は、がん再発までの年数によって再発メカニズムが異なる可能性を示唆しているという。

  • 病理生検画像の解析結果。AIが3D病理画像上にがんの再発しやすさを定量化して青(低)から赤(高)で表示しており、赤く背の高い領域が再発に対して高リスクの予測因子を示す

    病理生検画像の解析結果。AIが3D病理画像上にがんの再発しやすさを定量化して青(低)から赤(高)で表示しており、赤く背の高い領域が再発に対して高リスクの予測因子を示す

さらに、生成AI(ジェネレーティブAI)にも使われる機械学習技術を応用した次元削減(多次元の情報をその意味を保ったまま、より少ない次元の情報に落とし込む方法)の改良や、AIが捉えた予測因子の多次元的な最適化を行うことで、既存手法と比べ、手術から5年後までの再発予測の精度を約10%向上することができたそうだ。3者は今後、対象データを拡大し実用化に向けた検証を進める。