国立天文台(NAOJ)は5月18日、野辺山45m電波望遠鏡と、南米チリ・アタカマ砂漠のASTE望遠鏡(アタカマサブミリ波望遠鏡)を用いた観測により、わし座方向に位置する天の川銀河の中で最も活発なX線連星の1つ「SS433」から噴出する宇宙ジェットの先端に、2つの分子雲を新たに発見したことを発表した。
また、これらの分子雲の特徴的な構造から、宇宙ジェットと相互作用している可能性が高いことが確認されたのと同時に、それらの分子雲はそれぞれ1つの大きな塊ではなく、今回の観測での解像度では観測できない、より小さな分子雲の粒が集まってできている可能性が示唆されたことも併せて発表した。
同成果は、鹿児島大学 理工学研究科 天の川銀河研究センターの酒見はる香研究員を中心とした、NAOJ、名古屋大学らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
ブラックホールや中性子星などの「コンパクト天体」と恒星による連星系は、X線で明るく輝くことからX線連星と呼ばれている。同連星では、強い重力により恒星表面のガスが剥ぎ取られ、コンパクト天体に降着することがある。ただし、すべてのガスがコンパクト天体に吸い込まれるわけではなく、その一部は宇宙ジェットとして、非常に細く絞られて外に向かって噴き出す。X線連星は、同ジェットによって物質やエネルギーを遠方に伝播させることで、銀河の組成や進化に影響を及ぼしているという。
X線連星は星が多く作られる銀河面周辺に多く存在するが、そのような場所には星の材料となるガスやダストなどの星間物質が漂っている。それらにX線連星からの宇宙ジェットが衝突した際、周辺の星間物質を圧縮して高密度にし、星が誕生する分子雲ができやすい環境を作るという示唆が先行研究から得られている。その一方で、宇宙ジェットは星間物質を熱することで低温・高密度な分子雲が形成されるのを妨げるという説もあり、宇宙ジェットが分子雲の形成において果たす役割はまだ完全には解明されていなかった。
そこで研究チームは今回、宇宙ジェットと星間物質との相互作用を観測的に調査するため、光速の約26%という高速度(秒速約78万km)の宇宙ジェットを噴出しているX線連星のSS433に着目したという。同連星は、巻貝のような形をしたガス状天体の電波星雲「W50」の内部に存在する。同星雲の東西に引き伸ばされた構造(イヤー)は、SS433から噴出する宇宙ジェットの表面に対応する構造であると考えられている。
これまでの観測により、特にSS433より西側のイヤー周辺には多数の分子雲が確認されていた。今回の研究では、これまで分子雲の検出例の無かった東側イヤーに存在する新たな分子雲を発見すべく、野辺山45m電波望遠鏡とチリのASTE望遠鏡を用いた観測が行われた。
その結果研究チームは、東側イヤーの先端領域に大きな分子雲の塊が2つ存在していることを発見し、それぞれ「chimney cloud」、「edge cloud」と命名した。また詳細な解析から、これらの分子雲はイヤーとの衝突によると思われる特徴的な構造を持っている可能性が高いことが指摘された。