SAPとGoogle Cloudは5月11日(米国時間)、提携をデータ分野に拡大し、「SAP Datasphere」と「Google Cloud BigQuery」の統合などを発表した。

そして、SAPが5月16日と17日、米オーランドで開催した年次カンファレンス「SAP Sapphire 2023」では、Google CloudのCEOであるThomas Kurian氏が基調講演にゲストとして登場し、SAPのCEOであるChristian Klein氏と提携のメリットを中心に対談した。本稿では、その模様をお届けする。

  • 左から、Google Cloud CEO Thomas Kurian氏、SAP CEO Christian Klein氏

SAPのオープンデータ戦略の核となる「SAP Datasphere」

Klein氏は企業のデータ活用の課題として、「社内に複数のデータサイロができており、CIOの重要な課題の一つになっている」と述べた。データのサイロはビジネスプロセスの阻害要因になるだけではなく、自社に対する単一のビューが持てないため、意思決定を遅くする要因にもつながっているという。

この問題に対応するにあたって、SAPのプラットフォーム「SAP Business Technology Platform(BTP)」は重要な役割を果たす。「全てのSAPアプリケーションが1つのデータモデルで動き、BTP上にある。SAPのデータレイヤーを協調する」と、Klein氏は説明した。

しかし、企業はSAP製品以外にもさまざまなソリューションやサービスを利用しており、そこにデータを持っている。そこで、SAPが開発したのがデータ管理ソリューション「SAP Datasphere」だ。同製品は今年3月に提供が始まり、既存の「SAP Data Warehouse Cloud」の次世代版の位置付けにあり、IoT、ソーシャルメディア、位置情報などの非SAPデータソースからのデータに対して、管理レイヤーにあたるという。

「Datasphere」はSAPが強調するオープンデータ戦略で重要な技術となる。提供開始時は、Collibra、Confluent、Databricks、DataRobotとの提携が発表されており、今回これに、Google Cloudが加わる格好となる。

  • オープンデータ戦略でキーとなる「SAP Datasphere」

SAPとGoogle Cloudのデータを統合でAI活用の支援を

Klein氏に招かれて登場したGoogle CloudのKurian氏は、SAPとの関係について、次のように述べた。

「Googleの親会社Alphabetは、S/4 HANAをGoogle Cloudで動かしており、稼働から11四半期経っているが一度もトラブルはない。また、毎月500億件のトランザクションを統合しており、エンジニアレベルでの協業により、これまでにスケールアウト、ライブマイグレーションなどの機能を実現している」

  • Google Cloud CEO Thomas Kurian氏

今回の提携については、「SAPとGoogle Cloudのデータを統合できる。データの統合は、ビジネストランスフォーメーションにおいて重要なステップ」とKurian氏。これにより、統一したビューが得られるからだ。

このデータ統合の例として、「小売が在庫プランニングをする際にGoogleの検索トレンドを得る」「サステナビリティの取り組みにおいてGoogle Earth Engineを使って水や原材料をどこからソーシングするかを見る」「サプライチェーンで物流に障害があったときの遅延の影響を見る」といったことが挙げられた。

Kurian氏は「今回の提携により、SAP DatasphereからGoogle BigQueryに簡単にデータを移動できるようになり、外部の情報を含んだアナリティクスを走らせ、SAPに戻すことができる」と話した。そこでの強み、豊富なデータ、シンプルさ、高速さ、セキュリティとなる。

Kurian氏の話を受けてKlein氏は、「これが顧客のAI活用の支援につながる」と述べた。

SAP製品とGoogle CloudのAI/機械学習が連携

SAPとGoogle Cloudとの提携の各となるのが、上述した「SAP Datasphere」だ。同製品は、データウェアハウス、データの統合、カタログ、セマンティックモデリングなどの機能を備えている。

プレス向けのセッションで、SAPのIran Khan氏(SAP HANA Database and Analytics 最高製品責任者兼プレジデント)は、Datasphereについて、次世代の「SAP Datawarehouse Cloud」としながら、「Datawarehouse Cloud、SAP HANA Cloud、SAP Data Intelligence Cloudの要素を組み合わせたもの」と説明していた。

Khan氏によると、Google Cloudとはデータレプリケーション、データフェデレーションなどの技術でも共同エンジニアリングを行うなど、「(SAPとGoogle Cloud間で)かなりのレベルでの相互運用性、ガバナンスを実現している」とのこと。

Google CloudでGlobal Strategic Customers and Industries バイスプレジデントのUmesh Vemuri氏は、BigQueryは毎秒100テラバイト以上を処理しているとしながら、Google CloudのBigQueryと統合することで、SAPのミッションクリティカルなデータをリアルタイムで活用できる、とKurian氏の言葉を繰り返した。

提携はBigQueryだけでなくAIと機械学習のツールなども含むことから、「GoogleのAI/機械学習サービスを使って、SAPおよび非SAPシステムにあるデータを使ったモデルのトレーニングを行うこともできる」と、Vemuri氏は語っていた。

  • 左から、SAP HANA Database and Analytics 最高製品責任者兼プレジデント Iran Khan氏、Google Cloud Global Strategic Customers and Industries バイスプレジデント Umesh Vemuri氏