今年3月、米国のシリコンバレー銀行が破綻した。同行の規模は、2023年2月、経済誌『フォーブス』が「アメリカのベストバンク」の20位に挙げていたほどだが、同月9日には預金全体の24%に相当する420億ドルが引き出された。
その後、5月に行われた議会証言で、同行のCEOは「予測不能な危機」と語ったが、SASの Donald van Deventer氏は「日本興業銀行の破綻と似ており、予測できるものだった」と断言する。同行は何を見誤ったのだろうか。
シリコンバレー銀行の破綻は特別なものではない
Deventer氏は、「米国のイエレン財務長官は、他の銀行から切り離された別な問題と強調しているが、シリコンバレーバンクの破綻はこれまでの銀行の破綻と同様に予測できるものだった」と語った。
さらにDeventer氏は、「90年代、日本では21の銀行のうち7行が国有化されたが、シリコンバレー銀行の問題は米国に限った話ではなく、日本をはじめとする他の国で起きている現象」と続けた。
Deventer氏によると、根本は「高金利と信用損失により資産価値が低下すること」にあるという。「政府が過剰に国債を発行すると金利が上がり、インフレが起きる。その結果、債務不履行に陥る人が増える。銀行は証券価格が下落しているにもかかわらず、貸付金の元本は変わらない」(同氏)
今回のシリコンバレー銀行の破綻においては、TwitterなどのSNSに信用不安をあおる投稿が拡散し、それを見た顧客が預金を引き出したと言われている。しかし、Deventer氏は「その誤解を解きたい」と話した。
「どこかの銀行で取り付け騒ぎが起きると、SNSに関係なく広がるもの。1980年代にも銀行の破綻が続き、預金を取り付けようと行列ができていた。当時は噂が出てから破綻まで1週間程度だったが、今回はSNSがあったことで、破綻までの時間が短縮されただけ」(Deventer氏)
SASは5カ月以上前から破綻を予測していた
SASは2022年に金融リスク管理ソリューションを提供する米Kamakuraを買収した。これにより、資産負債管理(ALM)を中心とするリスク管理ソリューションのポートフォリオの拡張に取り組んでいる。
Deventer氏は、Kamakuraのクラウドサービス「Kamakura Risk Information Services(KRIS)」が、5カ月以上前からシリコンバレー銀行の破綻を予測していたと述べた。KRISは、独自モデルに基づいた企業や国の信用スプレッド予測やデフォルト確率の算出に役立つ信用リスク・データとアナリティクスを提供するもの。
以下のグラフは、「KRIS」が算出した3月8日まで取引された債券の信用スプレッドと半年、1年、2年先のデフォルト確率を示したものだ。黄緑の棒線が2年先、オレンジの棒線が1年先、濃い緑の棒線が半年先のデフォルトの確率を示している。
このグラフでは、2022年10月に確率が急激に上がっている。これは、投資家が売り始めたからだという。
Deventer氏は、債券保有者が落ち着いていた理由について、「2年以上、銀行が破綻していなかったから、また、破綻しても、政府の救済策を期待していたから」と話した。
シリコンバレー銀行はシミュレーションが甘かった
そして、Deventer氏は、シリコンバレー銀行がKamakuraが示したような予測をしていなかったことを指摘した。「今回のシミュレーションは小学校6年生の計算よりも簡単なのに、シリコンバレー銀行のCEOはそれをやらなかった」と同氏。
SASは50万のシナリオを考慮しているのに対し、シリコンバレー銀行では予測のシナリオを3つしか用意していなかったという。しかも、各シナリオに対して、以下の計算を行う必要があるが、同行では行われていなかったとのこと。
- 資産サイドの時価評価
- 負債サイドの時価評価(預金者が額面全額を引き出したと仮定)
- 資産の時価評価<負債の時価評価の場合、その時点で「倒産」が記録されシナリオを終了
- 各時点の「倒産」シナリオを数える
- すべてのシナリオの数で割ると、自己デフォルト確率が得られる
最後にDeventer氏は、日本の金融機関におけるリスク管理の例として、4 月10日時点の28日間の日本国債に基づく試算結果を披露した。負債は普通預金のみ、資産は10年日本国債と仮定、資産の時価総額に対する自己資本の割合は5%、10%、15%、20%でシミュレーションを。
イールドカーブモデルのフレームワーク「HJM(Heath Jarrow Morton)モデル」で50万回のシミュレーションを行ったところ、資本比率が20%の時は、6.02%のシナリオで債務超過となったという。


