ベネッセホールディングスは5月10日、全国45自治体と「全国自治体リスキリングネットワーク」を発足したことを発表した。

それに伴い、同日に「自治体リスキリング宣言」に関する記者発表会を開催した。本稿では、その会見の一部始終を紹介する。

同会見には、ベネッセコーポレーションから社会人教育事業本部 本部長の飯田智紀氏と同事業本部 行政/大学・専門学校向け Udemy事業責任者 大宮千絵氏、また詳しい事例の紹介としてジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤宗明氏、鳥取県商工労働部雇用人材局 産業人材課 未来創造人材室 田中拓也氏、江戸川区 経営企画部 DX推進課長 渡邊 良光氏の3名が登壇した。

自治体間の情報交換不足を解消へ

ベネッセは、「一生涯の学びを通して社会と人生を豊かに」というテーマの下、さまざまなフェーズで学ぶ人を応援する事業を展開している。

その中でも、今回の会見の大きな要素となる「リスキリング」に関しては、「大学生・社会人」の学ぶ意欲を増幅させるサービスを提供している。

特に力を入れているサービスが「Udemy business」で、「学習者が自律的に学び続けるコンテンツ&環境の提供」「活用方法や学習カリキュラムのコンサルティング」「効果検証までフォローできる学習管理システム」の3点を軸に、法人・自治体・大学/専門学校への支援を行っている。

「現在、人材不足が嘆かれている一方で、生成型AIの台頭によって人材過剰も顕在化しています。特に自治体においては、デジタル化の遅れや地域産業の衰退、非正規雇用の雇い止めといった環境の変化に置かれています。その中で、デジタル人材を育成することで変化を起こそうという動きが起きています」(飯田氏)

  • 自治体におけるリスキリングの必要性を語る飯田氏

これらを背景として、ベネッセは2021年から40以上の自治体と実証研究やワーキンググループの実施に取り組んでおり、2023年度は「行政DX」「中小企業DX」「市民(求職者)」という3つの事業から50以上の自治体へ支援を行っていきたいという。

そこでキーワードとなるのが「全国自治体リスキリングネットワーク」だ。

「全国自治体リスキリングネットワークとは、学びのリーディングカンパニーであるベネッセが、自治体へのリスキリング支援と自治体間の情報交換推進を目的とした日本初のネットワークです。自治体間の交流を促進することで、全国の中小企業・自治体におけるDX推進や、市民のリスキリング推進を目指します。DX人材の育成を進める上で同じ課題を持っている自治体が多いことや、先行事例を参考したいというニーズがあるにもかかわらず、DX人材の育成にフォーカスした自治体間の情報交換機会が不足しているという現状を受けて、自治体中心のリスキリング、特にDX人材育成の実践的・実用的な知見を情報交換する場として設立しました」(飯田氏)

今後は、この全国自治体リスキリングネットワークを中心に情報発信や定期的な情報交換の場を設け、自治体の取り組みを加速するために支援していきたいという。

鳥取県と江戸川区の事例から見るリスキリングの今後

会見の後半では、先進的な取り組みとして、鳥取県と江戸川区(東京都)の事例が紹介された。

鳥取県では、Udemyを活用し、「鳥取県オンライン学習受講促進事業」として、企業向け事業と求職者向け事業を行っている。

求職者向け事業では、受講した95名中38名がリスキリングによる就職/転職を決めており、プログラミング言語を学び地元のシステム開発会社に就職した人やWebデザインを学びフリーランスとして働くことを決めた人などさまざまな人材の育成の支援を成功させている。一方で、成功の裏側で見えてきた課題も多いという。

「サポート事業者からは『専門知識のない分野において求職者のニーズに応じた学習計画を立てることが難しい』、求職者からは『講座がたくさんあるのは良いが、たくさん講座がありすぎて何を学べば良いか分からない』という声が挙がっている。今後は『何が学べるか』『なぜ学ぶのか』といった動機やモチベーションづくりに課題を持って、学習機会の提供にとどまらず、学びやすい環境作りを一体的に進めていくことが必要だと感じています」(田中氏)

  • 鳥取県の事例を紹介する田中氏

一方、江戸川区では、将来的に職員の減少が見込まれているにもかかわらず、市民のサービスに対する要求レベルが上昇傾向にあることに課題を感じ、ICTやDXに関連した研修や育成の体系化を進めてきたという。しかし、これでは江戸川区の特徴を生かしきれていないと考え、スタートしたのが「特別区(東京23区)としてのスケールメリット」だ。

江戸川区は、スキルアップが必要なのは他の特別区でも同じではないかということに目を付け、ベネッセコーポレーションの協力の下、特別区同士で課題や好事例を共有し、さらに共同調達によってコストメリットも得るという体制を創り上げた。

「この特別区同士の結びつきによって、各自治体の成功・失敗事例を通じてノウハウを共有できるようになり、DX人材育成における課題への対応が強化されました。こうした結びつきを、各区で内製化しているeラーニングなどの研修コンテンツの共有や共同開発の取り組みにも発展させていきたいです」(渡邊氏)

  • 江戸川区の事例を紹介す渡邊氏

最後に、大宮氏は以下のような言葉で会見を締めくくった。

「ベネッセは、全国の自治体と連携し『中小企業DX』『自治体DX』『市民向けリスキリング』の3本柱で学びの伴走支援をしてまいりました。全国各地で学びが進む事により、自治体における仕組みや業務が進化したり、地域の皆さまに向けた行政サービスが変化したり、産業が活性化したりと、さまざまな変化が見られ始めています。一方、このような各自治体での取り組み事例について、情報交換をする場は多くありませんでした。自治体間での情報交換がより活性化され、地域の皆様の生活がよりよくなるように、本ネットワークを立ち上げ取り組みを進めてまいります」(大宮氏)

  • 会見を締めくくる大宮氏