日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の航空大手2社が、マイレージ(マイル)を利用できるECモール展開を開始する。両社とも3000万人を超えるマイル会員を有しており、ECモールとしてのポテンシャルは高い。さらにコロナ禍が落ち着きを見せ、旅行者が増加していることから、マイル会員の活性化にも期待が持てる。JALグループのECモールは今夏の開設予定だが、ANAグループのECモールは今年1月に開設している。運営会社のANA X(エイエヌエーエックス)や、出店しているEC事業者に、出足の状況や今後の期待について聞いた。
ANA Xが今年1月に開設した「ANA Mall(エイエヌエーモール)」は、ANAのマイル会員3800万人を顧客基盤としている。グループ企業が運営するECサイトをモールに集約したのに加え、開設時には23店舗が出店した。
リンベル、高島屋、成城石井、家電ECのストリーム、健康食品の九南サービス、化粧品のTerre Bleue(テアブルー)などが出店している。
「ANA Mall」は購入金額100円で1マイル、ANAカード決済では100円ごとに2マイルがたまる。1マイルを1円として買い物で利用することもできる。
コロナ禍で旅行に行けず、マイルの使い道に悩む顧客も多かったという。
「今までだと、ポイントが数千ポイントあっても、使い道がなく、泣く泣く失効していた顧客もいる。そういった顧客にこそ、このモールは最適だ」(EC事業推進部 早川みな恵マネージャー)と説明する。
▲EC事業推進部 早川みな恵マネージャー(2023年3月時点、4月から異動)
ANAグループのマイル会員は、約3800万人おり、会員の約50%の平均世帯年収が1000万円を超えている。消費力の高いマイル会員が、「ANA Mall」の潜在顧客なのだ。
<出店者のリアルな声>
モール開設からまだ3カ月だが、初速はどうなのだろうか。出店者からは、これからの成長に期待を寄せるという声が多い。
家電のECサイト「ECカレント」を運営するストリームは、モールのポテンシャルはかなり大きいものを秘めているとみている。
「出店してから毎月、売り上げは右肩上がりで上がっている。他のECモールよりも少し単価の高い商品がよく売れている印象だ。やはり実際に、ANAマイルを保有している人がマイル消費で購入しているケースが多い」(右田哲也取締役)と説明する。
ストリームは今後、ANA Xと共同で販促を展開し、さらなる顧客からの商品の購入につなげていく計画だ。
「今後は、ANA Xとともに、家電商品のキャンペーンを行っていく。季節に応じた商品の中から目玉商品のセールや顧客に付与する『ポイントアップ』などの施策を検討している。ANA Xと当社で力を合わせて『ANA Mall』の流通額の拡大につなげていきたい」(同)と展望を語る。
<ANA経済圏の創出へ>
ANA Xは今後、どのような戦略でECモールの成長を図るのか。前出の早川氏は、まだモールの認知度が足りないことを認めつつ、今後はANA経済圏の創出を目指していくという。
「まだ3800万人の会員全員がモールを開設したことを知っているわけではない。このモールはマイル会員が鍵となる。そのため、引き続き会員への周知を徹底する。このほか、出店者の皆さんと共同で販促も仕掛けていく」と話す。
さらに「今後はスマホ決済サービス『ANA Pay』でANAのマイルからの入金を可能にする。マイルを小売店での少額の支払いなどに日常で使えるようにし、日常でマイルが使える世界の実現を目指す」と語る。
「ANA Pay」は現在、JCBのクレジットカードからしか入金できないが、複数の国際ブランドのクレジットカードや銀行口座、ATMからも入金できるようにする。セブンイレブンやファミリーマートなどのコンビニや、全国のドラッグストア、飲食店などでの利用を可能にし、決済を軸にANA経済圏の拡大を狙う。
ANAマイルの利用範囲が広がることで、利用先の一つである「ANA Mall」への顧客流入も増えると予測している。
<JALのモールも注目>
JALと子会社のJALUXは今年2月、ECモールを夏までに開設すると発表した。現在、提供しているECサイト「JALショッピング」は、同モールに統合する予定だ。
新モールには、JALオリジナル商品をはじめ、グルメやワイン、ファッション、生活雑貨、家具・家電など、幅広い商品ラインアップを取りそろえる計画だ。
航空大手2社であるANAとJALが双方ともモール展開を開始することで、旅行でマイルをためて、モールで使うという消費行動が一般化する可能性が高まる。
観光庁が発表した2022年10‐12月の日本人国内延べ旅行者数は、前年同期比23.5%増の1億1077万人になった。2023年に入り、国内旅行者はさらに活性化しており、海外旅行者も増加傾向にあることから、マイル会員のマイル取得額も高まることが見込まれる。
航空大手2社が展開するECモールは、EC事業者にとっても魅力的に売り場となりそうだ。