パーソル総合研究所は4月28日、全国の20~69歳の男女46,465人を対象に1月30日〜2月3日に実施した「企業の不正・不祥事に関する定量調査」の結果を発表した。それによると、13.5%が不正に関与したことがあるか、見聞きしたことがあると回答した。

  • 不正の関与・目撃率(パーソル総合研究所調べ

    不正の関与・目撃率(パーソル総合研究所調べ)

全国の就業者20~69歳の男女46,465人に不正の関与・目撃経験を尋ねたところ、13.5%が不正に関与したことがあるか、見聞きしたことがあると回答。その内容を聞くと、日常的なサービス残業などを含む「労務管理上の問題」への関与・目撃率が高かった。

  • 不正の関与・目撃率(カテゴリ別、複数回答)(パーソル総合研究所調べ)

    不正の関与・目撃率(カテゴリ別、複数回答)(パーソル総合研究所調べ)

不正の関与・目撃経験は、関与者・目撃者自身の「幸福度」や「組織コミットメント」、「継続就業意向」を低下させる傾向がみられたという。また、休日における「心理的距離」と「リラックス」にもマイナスの影響を与えており、不正によるストレス状況が業務外にも影響していた。

不正発生への影響については「多少の不正はある程度は許される気がする」「他の人の多少の不正は甘く見るほうが賢明」などのように許容する「個人の不正許容度」と、「会社は不正・不祥事を隠そうとする」「会社は不正・不祥事が起こっても対処しない」などの「組織の不正黙認度」は、ともに不正発生にプラスの影響を与えている。

  • 左:不正の関与・目撃経験による負の効果、右:不正発生への影響分析(パーソル総合研究所調べ)

    左:不正の関与・目撃経験による負の効果、右:不正発生への影響分析(パーソル総合研究所調べ)

「個人の不正許容度」と「組織の不正黙認度」の観点から、業種別に不正の発生リスクの度合いをみると、「運輸業、郵便業」や「医療・福祉」はいずれも不正の発生リスクが高かった。

「個人の不正許容度」と「組織の不正黙認度」に影響を与える要因を「組織特性」、「働き方」や「個人状況」別に見ると、「組織特性」では「属人思考」「不明確な目標設定」「成果主義・競争的風土」、「働き方」では「長時間労働/働き過ぎ」、「脅迫的な働き方」などが共通で影響していた。

  • 不正の発生リスクマップ(業種別)(パーソル総合研究所調べ)

    不正の発生リスクマップ(業種別)(パーソル総合研究所調べ)

これらのことから、不正発生リスクを上げるのは、成果のために不正せざるを得ない「窮地追い込まれ型」と、スピード重視の業務状況により不正のハードルが下がる「不正軽視型」があり、不正を黙認する組織は、トップダウン的な風土による「押しつぶされ型」が多い傾向にあると同社はみている。

  • 左:不正の許容度・黙認度を促進する要因、右:不正が発生する要因(パーソル総合研究所調べ)

    左:不正の許容度・黙認度を促進する要因、右:不正が発生する要因(パーソル総合研究所調べ)

不正発生要因を抑制する人事管理の特徴を見ると、キャリア形成系では「目標の透明性」や「従業員主体の異動」「会社都合の異動・転勤の少なさ」、また、組織状態では「人材の多様度」の度合いが高いほど、主な不正発生の要因である「属人思考」「不明確な目標設定」「成果主義・競争的風土」にマイナスの影響を与えている。

企業の不正防止施策の実施状況についてみると「実施」割合は4割弱に留まる。加えて従業員側には「不正対策は、形式的に行われているだけ」が43.7%、「担当者が話を聞きにくるが、実際には何も変える気がない」が34.5%など、形式的にコンプライアンス対策を「こなす」意識があり、不正が発生している企業は特にその傾向が強い。

  • 左:不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係、右:不正防止研修の「理解・共感」と不正許容度・黙認度、対策のこなし意識の関係(パーソル総合研究所調べ

    左:不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係、右:不正防止研修の「理解・共感」と不正許容度・黙認度、対策のこなし意識の関係(パーソル総合研究所調べ)

対策への「こなし」意識は、「個人の不正許容度」「組織の不正黙認度」ともにプラスに関連しており、不正防止につながっていないことが示唆され、その背景には、不正対策内容の「現場感の欠如」「対処の不徹底」「量的な負担感」があり、これらを払拭することが重要だと同社はみている。

不正防止研修に対する「認知的理解」と「情緒的共感」の組合せでみると、研修への「理解・共感層」は「理解のみ層」や「理解・共感ともになし層」と比べ、「個人の不正許容度」や「組織の不正黙認度」、対策の「こなし」意識が非常に低い。

不正防止研修の内容のうち「不正に関する判例や事例の紹介・解説」「性や人種など多様性に関する説明」「参加者同士の議論・ワークショップ」は、「研修への情緒的共感」にプラスの影響を与えている。また、「参加者同士の議論・ワークショップ」は、相対的に実施が低い。

不正発生後に会社の対応があった場合は、なかった場合と比べて、その後の不正が「おおよそ無くなった」「完全に無くなった」割合が約3倍(74.8%)。図示はしていないが、会社対応があった場合のほうが、なかった場合と比べて、個人パフォーマンス/ワーク・エンゲイジメント/幸福度ともに有意に高かった。

  • 左:不正発生の要因と人事管理の特徴、右:不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係(パーソル総合研究所調べ)

    左:不正発生の要因と人事管理の特徴、右:不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係(パーソル総合研究所調べ)

また、会社対応についての従業員意識として、「膿だし感」「腹落ち感」があることが、不正の解決度にプラスの関係が見られた。「腹落ち感」に加え、「吐き出し感」(しっかり自分の気持ちを話せた)があることが、不正防止対策の「こなし」意識を下げている傾向にあるという。

  • 左:不正防止研修内容の実施率と「研修への情緒的共感」の関係、右:不正発生後の改善状況(会社の対応有無別)(パーソル総合研究所調べ)

    左:不正防止研修内容の実施率と「研修への情緒的共感」の関係、右:不正発生後の改善状況(会社の対応有無別)(パーソル総合研究所調べ)

今回の調査から、不正防止のためのポイントとして、まず目標管理の適正化やキャリア形成の整備によって、組織全体の不正風土の改善を図ること、そして一方通行的な説明だけでなく、議論やワークショップ、サーベイなど、従業員側の「意見の吸い上げ」を重視したコンプライアンス対策が重要だとしている。不正・不祥事の発覚後も、こうした企業対応によって従業員側に理解や納得を引き出すことで、組織全体のコンディションの回復につながっており、不正を防ぎ、不正発生から立ち直るためには、事案をただ穏便に処理するのではなく、透明性高く調査を行い、従業員側の意見に耳を傾ける姿勢が重要だと、パーソル総合研究所は提案している。

  • 会社対応への従業員の意識と改善状況(パーソル総合研究所調べ)

    会社対応への従業員の意識と改善状況(パーソル総合研究所調べ)