広島大学とキユーピーの両者は4月26日、広島大が独自開発した人工ヌクレアーゼ「プラチナムターレン」(pTALEN)を利用したゲノム編集により、鶏卵の主要なアレルゲンである「オボムコイド」(OVM)の遺伝子をノックアウトしたニワトリを作製し、そのニワトリが生産する卵にはOVMが無いこと、またゲノム編集により予想される変異タンパク質の生産も無いことを確認したことを共同で発表した。
同成果は、広島大大学院 統合生命科学研究科の江﨑僚特任助教、同・堀内浩幸教授、キユーピー 研究開発本部 技術ソリューション研究所 機能素材研究部の児玉大介チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、天然または合成化学物質のヒトと動物に対する毒性を扱う学術誌「Food and Chemical Toxicology」に掲載された。
食物アレルギーの症状を持つ人の割合は、2歳までが全体の約55%、11歳までが約90%と、小児が多くを占めている。またその原因植物としては鶏卵が約33%を占めて最も多いといい、牛乳、木の実類、小麦がこれに続くとする。鶏卵のアレルゲンとなる物質は、卵白に含まれるタンパク質(OVM、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムチン、リゾチームなど)とされ、OVM以外のタンパク質は熱に弱いため、十分に加熱すればアレルゲン性が低下することがわかっている。
しかしOVMは、熱や消化酵素に対して非常に安定で水溶性であるため、加熱調理や消化酵素を用いた加工を施しても、卵白の特性(ゲル化や起泡)を維持したままOVMのみを完全に除去できないことが課題となっていた。そこで逆に、OVMを含まない鶏卵を生産できれば、アレルゲン性が極めて低い鶏卵由来加工食品を生産できることが考えられるとする。
そうした中、近年になって、ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウトにより、鶏卵からOVMを除去できることが報告されるようになってきた。ただし、ゲノム編集により生じる可能性がある副産物やゲノム編集ツールの標的以外のゲノムへの影響は十分に解析されていなかったとする。
そこで広島大とキユーピーの両者は、OVMを含まない鶏卵を作出することを目指し、2013年から共同で基礎研究を開始。2020年にはラボレベルでの作出に成功していたという。今回の研究では、pTALENを用いてニワトリOVM遺伝子を標的としたゲノム編集を行い、OVMノックアウトニワトリを2系統で作製したという。
なおTALENは、植物病原細菌「キサントモナス」から発見されたDNA結合タンパク質を利用した人工ヌクレアーゼのことで、pTALENは広島大が独自開発した高活性型TALENのことをいう。
そして今回作製されたゲノム編集ニワトリの安全性を評価するため、タンパク質レベルでOVMおよび副産物の有無が試験された。すると、ノックアウト鶏卵からはOVMも副産物も検出されなかったという。さらに、ノックアウトニワトリの全ゲノム解析を行った結果、pTALENによるほかの遺伝子の挿入や、ほかの遺伝子領域への変異導入は確認されなかったとしている。
鶏卵アレルギーでは、OVM以外でのアレルギーを起こす患者もいるため、今回作製された卵を食品として利用するためには、加工食品での免疫学的および臨床的研究が必要だという。研究チームは今後、OVMが無いことで鶏卵成分にどのような影響が出るのか、どのような鶏卵の加工形態であれば、安心して食することができるのかといった実証試験段階に入る予定とする。また、鶏卵を用いたワクチンなどの医薬品製造分野にも、OVMを含まない鶏卵の提供が可能になるものと思われるとしている。